馬と人のもっとも重要な接点「ハミ」の秘密
人の指示を馬に伝えてくれる重要な馬具「ハミ」。しかし、馬にとっては邪魔じゃないの?と気になる人も多いのではないでしょうか?今回の記事では、さまざまなハミの種類や、付ける際の注意点などについて解説します。
美味しいハミがあるって本当?
ハミが苦手な馬も、もしハミが美味しかったら嫌がらなくなってくれるかも!なんてちょっと夢のような話ですが、実は馬が好む味のハミは既に商品化されています。最初に、そんな「美味しいハミ」について紹介しますね。
HS社の「美味しいハミ」
みなさんも、好きな味のものを食べているときはちょっと幸せな気分になりますよね。では、馬はどんな味が好きなのでしょうか?いろいろな人の話を聞くと果物や氷砂糖が大好きな馬は多く、どうやら甘みを好む馬が多いようです。
ドイツの老舗馬具用品メーカーHS社では、金属の割合などを研究した結果、この甘みを持ったハミの開発に成功。ハミ部分には銅85%、亜鉛11%、シリコン4%の組み合わせで作られた「オーリガン」という金属が使用されています。
おいしさのヒミツは“酸化”
金属というと鉄のイメージから、どちらかといえば「しょっぱい」イメージがあるかもしれませんね。しかし、酸化状態にある銅は馬にとって甘みを感じる金属とのこと。ただし、比較的柔らかい銅だけではハミとしての耐久性に欠けるため亜鉛やシリコンが必要になってくるのだそうです。
ちなみに、HS社はオーリガンからさらに進化した「センソガン」という素材も開発。なんと、こちらはおいしさをそのままにマンガンが加わっているのだとか。マンガンには緊張を和らげる作用が期待できるので、美味しくてリラックスできるまさに夢の素材ですね!
もちろん、馬にハミを好きになってもらいたい!というのはHS社以外にもいろいろな馬具メーカーが考えていること。なかには、ニンジンの香りがするラバー製のハミなどを開発しているメーカーもあるみたいですよ…。
馬にとって優しいハミとは
美味しいハミもちょっと使ってみたいですが、普段のハミをできるだけ馬に優しく使用するためにはどんな点に着目すれば良いのでしょうか?ここで少し「馬にとっての優しいハミ」を考えてみましょう。
ハミの種類
ハミには大きく分けて、馬の口の中に入る「ハミ身」と、口角のあたりにありハミと手綱をつなぐ「ハミ環」というパーツがあります。このハミ身・ハミ環の形状により馬に指示が伝わる強さが変わってくるので、大まかに種類と制限の強さを見てみましょう
そもそもハミというのは金属製の棒のようなもの。これが口の中に入っていたら、当然のことながら違和感を感じますよね。そのため、ハミ身は舌に沿った形状やジョイントがあるもののほうが「馬に優しい」と言えます。
また、ハミ環については銜枝の付いた大勒銜(見出し画像 右)が最も手綱に加えた力が直接馬の口角に伝わりやすく、馬は強い制限を感じがちです。一方、水勒銜(見出し画像 左)は円状で手綱・ハミ身との接続部はクルクル回るので、手綱からの衝撃がやや軽減され「馬に優しい」と考えられます。D銜(見出し画像 中央)は、強さで言うと中間くらいですね。
ハミの優しさは手綱で変わる?
比較的制限の弱いハミであっても指示がうまく伝わらないために繰り返し強く引いたりむやみに大きく手綱を動かせば、当然馬はストレスを感じます。「ハミの形状が優しいから大丈夫」と思わずに、うまくいかないときほど「ちゃんと伝わっている?」「私の扶助がストレスになってない?」と馬目線になって考えてみましょう。
ハミを付けるときに知っておくべきこと
ここまでは、主にハミ自体について見てきました。では、馬にハミを付けるときに私たちが気を付けるべきこと・知っておくべきことはあるのでしょうか?
適切なハミとは
ここまで、ハミの形状と「優しさ」について簡単に確認してきました。可動性が高く制限の弱いハミのほうが「優しい」と聞くと、やはり基本的には制限の弱いハミを使用するべきだと感じますよね?
しかし、弱い力で細かい指示を伝える場面ではあえて馬が違和感を強めに感じる形状のハミを使用することがあります。また、馬の癖などによってハミ受けがうまくいかない場合なども、正しいハミ受けや姿勢が身に付くまで制限の強いハミに頼ることもあるでしょう。
こうした場合は、馬の反応をよく見ながら必要最低限の使用にとどめたり「もう少し自由度の高く優しいハミでも大丈夫かな」と感じたら別のハミを検討することをおすすめします。
また、馬が以前と比べてひどくハミを嫌がるような様子を見せるなどストレスのサインを感じたときも、周りと相談しながらハミや頭絡の種類を再考する必要があるかもしれません。
ハミによるストレスに注意
ハミが大好き!という馬はなかなかいませんが、それでも馬はハミを許容してくれています。しかし、ハミ関連で嫌なことがあると「もう付けたくない!」とハミを付ける前から嫌がるそぶりを見せる馬も。
そうならないために、私たちはどんなことに気をつけたら良いのでしょうか?馬装のときに馬が嫌がるポイントは、大きく分けて ①きつすぎる ②痛みがある ③ビックリした の3点。
ハミの「きつさ」に関しては、頭絡を付けただけの状態で既に口角が強く引っ張られているのはNG。そんなときは、頬革を緩めるなど調整が必要です。また、窮屈そうに見えるときはハミの幅が馬の口に合っていない可能性もあります。
2番目の「痛み」はきつさにも関係しますが、他にもハミではなく口腔内に問題があるために馬が痛みを感じている場合があります。普段と比べて馬が強い不快感を示した場合は、歯や歯茎・舌に炎症やキズがないかなど馬体のチェックもしてみましょう。
3番目の「ビックリした」について、馬はビックリしやすい動物ではあります。特に、今回はハミに関してということで冷たさに注目!みなさんもいきなり氷を口に入れられたら嫌ですよね。寒い季節は、頭絡を付ける前に手などでハミを少し温めてあげると親切かもしれません。
ハミのお手入れについて
最後に、ハミのお手入れ方法について確認していきましょう。ハミには馬の唾液・食べ物の残りカスなどが付いていることもあります。こうした汚れをこまめに落とすことは、馬具をキレイに保つだけでなく馬の口腔内の健康を保つためにも大切です。
ハミは頭絡から外れるようになっているので、ハミをしっかり洗うときには必ず外しましょう。頬革と繋げたまま洗うと、接続部が上手く洗えないだけでなく革が濡れて傷む原因にもなります。
ハミの汚れは乾いて固くなっている場合もあるので、ぬるま湯に30分ほど浸してから洗うと良く落ちます。ジョイントなど細かい凹凸がある部分は、歯ブラシなども使用してしっかり汚れを取り除いてくださいね。
まとめ
馬に乗るときや馬装をするときは「ハミは馬にとって違和感あるもの」という前提を忘れないことが大切。そのハミを必要以上に不快に感じさせないために、適切な種類や装着方法、馬のストレスになりにくい扶助などを身に付けていきましょう!