知っておきたい!馬の疝痛(せんつう)について
馬は体の構造上、疝痛が発生しやすくなっています。食道が長い割りに胃袋が小さく嘔吐しにくいなど、腹痛を生じやすいと言われています。この疝痛の種類や、発生しそうな兆候、そして見分け方、予防方法、看護方法などについて解説いたします。
疝痛とは?
疝痛とは、馬の腹痛を伴う病気を総称して表す言葉です。馬は解剖学的にも生物学的にも疝痛を多発しやすくなっています。
その原因として、馬は体格のわりに胃が小さく嘔吐しにくい構造になっていること、大腸の一部が体壁に固定されていないこと、巨大な盲腸があること、腸管に分布する末梢神経が敏感であることなどがさまざまな要因が重なっています。
また、疝痛は多発しやすくも、軽度なものから命に係わるものまであるため、安易に判断せず慎重に対処する必要があります。
こんなにもある!疝痛の種類
疝痛と一言でいっても、その原因、症状、対処法も違います。疝痛の種類、7種類を紹介します。
過食疝
名前からも想像できるように、急激に飼料を摂取したときにおこります。胃が過度に膨張するためにおこる疝痛です。便秘あるいは気腸(消化管内のガスの貯留)により、胃の内容物が十二指腸に流れず発生することもあり、鼻から胃の内容物の逆流がみられ、胃破裂を起こしてしまうことがあります。この疝痛は飼料を摂取した後、数時間持続します。
痙攣疝
寒冷、冷雨などにより寒い思いをしたときや強めの調教による疲労などからおこります。糞は軟らかく、腹鳴音が増大します。痛みの程度は比較的に軽度といわれています。
便秘疝
人間の便秘を想像すると分かりやすいかもしれません。便秘疝とは、腸の内容物が停滞し、腸が膨張し、閉塞することにより痛みがでる疝痛です。糞は小さく硬くなり、数日でないこともあります。原因として、休養により運動が不足することで腸の活動が弱まることが考えられます。馬も人間も便秘にならないためにも適度な運動は必要不可欠なようです。
風気疝
消化管内にガスが異常発生することにより生じ、激しい疝痛がみられます。柵や棒などに上の歯を引っかけて空気を飲み込む、グイッポと呼ばれる錯癖のある馬は多量の空気を飲み込んでいるため風気疝を起こしやすくなります。グイッポの原因は退屈や他の馬の真似からくるようです。その癖が軽度のうちは矯正が可能ですが、習慣化していると矯正が難しくなります。
変位疝
馬の消化管は不安定で、位置が変化したり、捻れたりすることがあり、それにより激しい痛みがあります。消化管の捻れの状態もいくつかにわけられ、軽度な結腸の変位などでは回転により自然と治ります。しかし、重度な結腸の変位や小腸の捻転などでは、消化管の血行障害による腸壊死に陥り開腹手術が必要になります。この場合は命の危険も大きくなります。
寄生疝
馬の腸内に寄生虫が寄生することが原因で疝痛が起こります。寄生虫も数種類存在し、種類により寄生する場所が違います。そして、それぞれの場所により、腸閉塞や腸破裂、盲腸破裂、腹膜炎や胃潰瘍などを引き起こします。
その他
馬の胃も人間と同様、胃炎や胃潰瘍があります。また、排尿障害があるときや子宮捻転や陰嚢ヘルニアなどによる疝痛もあります。
疝痛の兆候、看護方法と予防方法
疝痛は初期の対応が大切になります。初期に対応するためには、疝痛の兆候を見逃さないようにすることが重要です。では、疝痛の兆候にはどんなものがあるのでしょうか。馬が兆候を見せていても、管理する人間が気づかないと対応が遅くなります。また、疝痛の看護方法と予防方法について紹介します。
兆候
疝痛の兆候としては、元気がない、食欲がない、排糞がみられない、普段と違う発汗など人間が体調が悪いときにみられる症状と似たものがあります。またこの他に、前掻きといって前肢で地面を掻く行動や、腹顧といって腹部が気になるのか頻繁に腹部をみる行動、排尿姿勢の変化などが挙げられます。
このほかにも、目や口から確認することもできます。例えば、普段の目は穏やかな形をし、口は口遊びをしていますが、痛みがある馬の目は三角にゆがみ、口遊びも減ります。普段と比較するためにも、普段から表情は観察しておくといいでしょう。
また、人間の病気と同じように痛みが大きいほど、深刻度も高くなります。痛みの程度を確認する方法として、馬房に敷かれている藁やオガクズなどの乱れ具合も参考になります。また激しい痛みから転倒を繰り返し、擦り傷や目の周りの腫れがみられることもあります。
これらの兆候や馬の異変に気が付いたら、獣医師に相談しましょう。
看護方法
疝痛馬には、馬服を着用させ、また必要に応じて暖房等を使い、体温の低下を防ぎます。
痛みで暴れることにより自傷しないよう、小さめなパドックや大きめの馬房に移します。そしてそこには、十分な敷き藁を入れます。
疝痛馬が離乳前の母馬の場合は、母馬が痛みで暴れて仔馬を傷つけることがあります。それを避けるため、仔馬を避難させる必要があります。しかし、仔馬が連れて行かれることで興奮する母馬もいますので、馬の性格をみながら、仔馬を母馬の見えるところにいさせるなどの対処が必要になります。
疝痛馬の状態は、急激に悪化することもあるので、最低でも15~20分間隔で頻繁に様子を確認します。
痛みが軽度で曳き運動が可能なら、10~30分程度の運動もよいでしょう。腸蠕動を刺激し、さらに鎮静効果があるとされています。
また従来から疝痛馬に対して、下腹部を中心にゆっくりマッサージをする腹部マッサージが行われています。このマッサージによる摩擦が痛みの軽減につながることが知られています。
獣医師による治療を受けた後は、獣医師の指示に従い絶食や口かごの装着を行い、再発の防止をします。
予防方法
疝痛の種類は多く、原因もさまざまですが、原因の多くは不適切な飼養管理によるものとされています。つまり、飼養管理を注意することで疝痛の予防につながります。
例えば、濃厚飼料(穀物)の多給、草の種類の急激な変更などが疝痛を引き起こすとされています。馬の胃は、大きな体格に反して小さくできています。本来、馬は一日かけてのんびり牧草を食べている草食動物なのでそれでよかったのかもしれませんが、人が管理する馬は、食事の回数や時間が、量が決められています。食事は一日3回以上に分けて与えるようにします。
水も新鮮な水が常時摂取できる環境であることも重要ですし、水の摂取量にも気を配る必要があります。
また、歯の疾病が疝痛の発生が高まることも報告されており、歯の管理も必要です。食べこぼしやよだれに異常がないか観察が必要になります。異常が感じられる場合は、獣医師に相談してみましょう。
便秘疝の原因は休養による運動不足といわれていることから、休養中の馬の糞には注意が必要です。糞が小さく、硬くなり始めたら、下剤や整腸剤を使い便秘を予防するようにします。
寄生虫による疝痛もあることから、獣医師と相談し適切な駆除プログラムを行うことが大切です。
まとめ
疝痛は軽度なものもありますが、命を奪うものもあります。
疝痛にならないよう、予防することは大切ですが、完全に予防できるものではありません。
まずは兆候を見逃さず、初期対応できるようにすることが重要です。そのため、普段から馬を観察し、馬の状態の変化、違和感を察知する必要があります。
もし、馬に異常がみられたら、軽い異常でも獣医師に相談しましょう。
言葉で意思疎通ができない馬でも、馬の様子、糞の状態、パドックや馬房の様子からも状況や情報を得ることはある程度できます。