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かつて種子島で飼育された、牛のような馬『ウシウマ』って?

こんにちは。馬が大好きなライターのやりゆきこです。EQUIA読者の皆さんは「ウシウマ」をご存じでしょうか? ウシウマは、現在は絶滅している、かつて鹿児島県の種子島で飼育されていた牛のような馬のこと。今回はこの「ウシウマ」についてご紹介したいと思います。

ウシウマってどんな馬?

かつて種子島で飼育された、牛のような馬『ウシウマ』って?

▲ウシウマ・第三上号,撮影者不明, Public domain, via Wikimedia Commons

一言に「牛のような馬」と言われて、皆さんはどのような馬を想像しましたか? 2本の角が生えた馬でしょうか? それとも白黒柄の馬でしょうか? 残念ながらそのどちらでもありません。

ウシウマは体高120cmほどのポニーのような馬で、冬にはうっすら細い毛が生えるものの、暖かい時期には被毛がほとんどなく(※)、マエガミもタテガミも少ない。そして、尾が牛にそっくりな馬でした。

写真ではよくわかりませんが被毛の生え方や、尾が牛に似ているということで「ウシウマ」と名前がついたそうです。もしかすると、少しずんぐりした体形もそう呼ばれるのを助長したかもしれませんね。ちなみに、専門家によると骨格的には牛ではなく、明らかに馬の仲間だそうです(※)。

(※)被毛には「禿型」と「縮れ毛型」の2タイプがいた。
(※)ただし、馬の肋骨は18本でウシウマの肋骨は17本という違いがある。

島津義弘が朝鮮半島から連れてきた?

かつて種子島で飼育された、牛のような馬『ウシウマ』って?

▲島津義弘の肖像画,作者不明。 Public domain, via Wikimedia Commons

ウシウマはもともと種子島にいた馬ではありませんでした。『鹿児島県畜産史(上巻)』によれば1597年の朝鮮出兵(慶長の役)の際に泗川で戦った島津義弘が、「奇獣『牛馬』」を 数十頭を連れて帰り、鹿児島本土で飼育することになったのが始まりとされています。

しかし、このウシウマ…毛がないため寒さに弱く、鹿児島本土では管理が難しかったそう。そこで1683年には気候の温暖な種子島で飼育することとし、「芦野牧」が新たに作られました。こうして、この牧には当時生存していたウシウマ5頭が放たれ、島外への持ち出しを禁止するなど保護下で大切に飼育されました。その甲斐あって、明治維新の頃には60頭近くまでに増えたといいます。

このように順調に数を増やしていったウシウマですが、1869年(明治2年)には芦野牧の廃止が決まってしまいます。多くの馬たちは貧しい農家に払い下げられることに…。文部省がまとめた「天然紀念物調査報告. 動物之部 3輯」によれば、ウシウマはからだが頑丈で粗食にも耐え、非常に長生きだったとされています。これだけ聞くと、いかにも農耕馬として活躍しそうです。しかし、毛がほとんどないため、少しからだをぶつけただけでもケガをしてしまい、農家としては使いづらかったのかもしれません。そうした背景から、次第にウシウマの数は激減し、1880年代には、種子島でも見ることが難しくなってきました。

田之上七之助によるウシウマの再生

かつて種子島で飼育された、牛のような馬『ウシウマ』って?

▲大正時代の鳴尾競馬場,撮影者不明, Public domain, via Wikimedia Commons

ウシウマは、1889年(明治22年)には、ついに年老いた雄一頭だけとなってしまいます。この危機的状況を打破すべく、地元の実業家・田之上七之助氏は「かけ戻し」を試みました。あまりに数が減ってしまうと、近親交配が続いてしまうため、いったんウシウマと近い他種の馬と交配させて雑種をつくり、だんだんと元のウシウマに近づけていくという方法です。

まず、田之上氏は最後の1頭となった雄のウシウマと、もともと種子島にいた他種の牝馬との交配を行い、二十数頭の繁殖に成功しました。そこから、時間をかけて1917年(大正6年)に、やっともとのウシウマに近い個体を誕生させることができたのです。

ウシウマの再生を喜んだ田之上氏は、上京の際に東京・世田谷の三軒茶屋をウシウマに乗って観光したり(たくさんの見物人が集まったそう!)、現在の阪神競馬場の前身である鳴尾競馬場で、ウシウマ単走のデモンストレーションを行ったりしたそうです。そうして、ウシウマは注目を浴びていき、1931年(昭和6年)には、国の天然記念物に指定されます。

ところが、田之上氏の尽力もむなしく、後継者不足や戦時中の飼料難などが重なり、1946年にウシウマは絶滅していました。

残念ながら、もう生きたウシウマを見ることは叶いません。ですが、その骨格標本は現在も種子島西之表市の種子島開発総合センター・鉄砲館に保存されています。種子島に足を運ぶ際は、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。

<参考文献>
・鹿児島県畜産史 上巻/九州聨合第二回馬匹第一回畜産共進会協賛会編/九州聨合第二回馬匹第一回畜産共進会協賛会(1913年)
・近世の種子島における放牧(篠島大学学芸学籠譲集 第12号の1)/安田初雄(1961年)
・馬事協会便り 2010年10月 第5号/公益財団法人 日本馬事協会(2010年)
・人共に生きる日本の馬 新装改訂版/高草操/メトロポリタンプレス(2022年)
・馬たちの33章/早坂昇治/緑書房(1996年)
・ウシウマ「牛馬」/日野光次(1938年)
・最新鹿児島県勢並郷土史特殊資料/鹿児島県教育会事務所(1941年)
・天然紀念物調査報告. 動物之部 3輯/文部省編/文部省(1932年)
・日本馬政史. 続 第2-3/神翁顕彰会(1963年)

この記事を書いたひと

やりゆきこ
WEBコンテンツの企画編集、時々ライター。馬について調べることをライフワークに活動しています。乗馬は永遠の初心者ですが、毎週乗っています!【 note / Instagram / blog 】

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