流鏑馬だけじゃない、日本の馬術

日本の伝統的な乗馬スタイルと聞いて、まず思いつくのが馬に乗って弓矢で的を射る「流鏑馬」ではないでしょうか?しかし、和式馬術には流鏑馬以外にもさまざまな技術が詰まっているんです。今回は、なかなか触れる機会がない和式馬術について、馬具や代表的な乗り方、体験できる場所などを紹介します。

日本の馬術とは

和式馬術と武術

日本古来の乗馬技術である“和式馬術”は、武士によって発展したため武芸と非常に深いかかわりがあります。おそらく、一番イメージしやすいのは疾走する馬の上で弓・長槍・長刀などをあつかう馬上武芸ではないでしょうか?特に、神社の神事などでも目にする流鏑馬(やぶさめ)は知名度が高いですね。


実は、現在でも和式馬術や馬上武芸の研究を行っている団体があり、馬上武芸の他にも、決められた経路を回り乗馬技術を競う和式馬場(庭乗り)、150m程度のコースを襲歩で走る速さを競う和式競馬(くらべ馬)、馬の消耗を抑え30km程度の距離を走行する遠乗りなど、気になる乗馬技術が詰まった競技がたくさんあります。


実際に見てみると、疾走する馬の上で脚と体幹だけでバランスを保って武器を扱う姿は圧巻!馬が実戦で活躍していた時代は、こうした競技が主君の御前で開かれており、武士にとっては自らの技量をアピールする場でもあったそうですよ。

和式馬術の馬具

和式馬術では、基本的に馬装も和式となります。普段皆さんが乗馬で使っている鞍は革製だと思いますが、和鞍は木製です。また、和鐙は袋鐙と呼ばれる独特な形状で、カーブの付いた板状になっており、ここに足を乗せて使用します。


よく時代劇などで馬の額や胸にフリンジ(房飾り)のようなものが付いていますが、この額・胸・臀部の飾りを総称して三懸(さんがい)と呼びます。3つの中でも胸懸(むながい)尻懸(しりがい)は、鞍がずれないよう固定する重要なパーツ。また、三懸は馬の身体を矢などから守るための防護具だったという説もあるそうです。

在来馬と和式馬術

神社の神事や時代劇では、見栄えが良く飼育頭数の多いサラブレッドが使用されることも少なくありません。しかし、実際の和式馬術では木曽馬をはじめとした在来馬(和種馬)に乗ります。


在来馬は日本の風土に合った進化を遂げ、日本固有の品種とされた馬です。ポニーのように関節が太く、小柄ながら悪路や山道に適しているとされています。平坦な道を走る速度ではサラブレッドなどには劣るものの、武装した人間を乗せて時速50kmほどで走ることができたようです。


甲州和式馬術探求会の部会である“日本甲冑騎馬研究会”さんのホームページでは、こうしたことに関する検証結果も紹介されています。興味がある方はぜひ動画なども見てみてくださいね。


現在日本には8種類の在来馬が残っていますが、観光業以外での活躍の場は少なく飼育や保護の継続には課題も多いのが現状。和式馬術がもっと広まると、在来馬の活躍の場も増えて保護を支えることにも繋がるはずです。

流鏑馬とはこんな技能

馬上での弓術

流鏑馬(やぶさめ)は、疾走する馬に乗りながら矢で的を射抜く技能です。用いられるのは鏑矢(かぶらや)という種類の矢で、この矢が空を切ると独特の音が鳴ります。


設置される的は3個で、左真横にある的を狙う横射(よこうち)と呼ばれる射法が基本です。他に、逃げる敵や獲物を射るように前方を狙う追物射(おものい)、馬上で身体を捩って後方を射る押捩(おしもじり)、左の地面近くを狙う弓手下(ゆんでした)、右の地面近くを狙う馬手下(めてした)などさまざまな射法があります。


ちなみに、和式馬術だけでなく弓道などでも使われる表現ですが、武器を持って馬に乗った際に手綱を握るので右手のことを「馬手」。主に弓などを持つ左手を「弓手」と呼びます。


流鏑馬の語源には諸説ありますが、馬を馳せて矢を射ることから「矢馳せ馬(やばせうま)」と呼ばれていたものが転訛して「やぶさめ」となったとも言われています。

神事としての流鏑馬

流鏑馬は古くから、実践的な武芸としてだけではなく神様に奉納される神事としての役割も担って来ました。現代でも小笠原流など各流派や各神社の氏子・保存会などに よって流鏑馬の技術が受け継がれています。流鏑馬は、神事のほか武士やお城に関連のあるイベントでも行われることがあるので是非一度は生で見てみてくださいね!

日本独特の馬の乗り方いろいろ

居鞍乗り

日本の鎧兜は重いもので20kgくらいなので、それを成人男性が着れば80kg前後になるでしょう。一方、在来馬は体高130〜140cm 前後と小型です。そのため、和式馬術では馬が消耗してしまわないよう「居鞍乗り」という乗り方が編み出されました。ブリティッシュで言うと正反動に近い乗り方ですが、馬の肩関節や背筋の動きを邪魔しないため馬は高い機動力を発揮できるとされています。

立ち透かし

居鞍乗りが正反動だとすると、立ち透かしはツーポイントに近い乗り方です。ただし、ブリティッシュのツーポイントの目的が主に馬の邪魔をせず前に進む意欲を促進することなのに対し、立ち透かしは上半身を安定させ得物を自由に使うことが主な目的です。


立ち透かしでは、和鞍独特の袋鐙を生かして足裏全体でしっかり鐙を踏みしめ、走行の衝撃を膝で吸収します。こうすることで、鞍から浮かせている腰より上は地面に立っているかのように安定し、正確に狙いを定めることができます。


実際に流鏑馬などを見ると、全力疾走する馬に乗っていながら射手の腕や顔が全く上下にぶれないことにびっくりするはずです。

和式馬術を学ぶには

では、ここまで紹介したような和式馬術を「見るだけでなく習ってみたい!」と思ったらどうしたら良いのでしょうか?在来馬を飼育して和式馬具を揃えている乗馬クラブはかなり少ないのですが、和式馬術を習うことのできる場所がいくつかあります。


紅葉台木曽馬牧場(こうようだいきそうまぼくじょう)
山梨県南都留郡鳴沢村紅葉台8529-86

木曽馬の保存・育成などを目的として、ビジター向けのトレッキングを行っている牧場です。一般的なトレッキングコースのほかに流鏑馬スクーリングが開かれていて、高校生以上の意欲のある方であれば経験は問わず参加可能とのこと。

スクーリングに通って上達すると、大会や検定、神事での流鏑馬奉納や演舞披露などに参加することもできるようです。一回のスクーリングだけでも貴重な体験になりますが、何度も通って目指したい目標が見つかるとモチベーションも上がりますね。


サドルバック牧場
神奈川県小田原市江之浦415

海の見える牧場で、和種馬やポニーと触れ合うことができるサドルバック牧場。こちらでは、馬とのコミュニケーションやイベントへの和種馬・ポニーの貸し出しのほか「馬上弓くらべスクール」なども行っています。

馬上弓くらべスクールでは、和式馬術の乗り方だけでなく概論的な歴史なども教えていただけるとのこと。ホームページに今後のスクーリング日程も載っているので、気になったらまずは確認してみましょう!


unaparte(ウナパルテ)
茨城県常陸太田市高貫町744

山間の豊かな自然に囲まれ、ポニーや在来馬での乗馬が体験できる乗馬クラブです。会員制をとっておらず完全予約制のマンツーマンなので、一人ひとりの希望やレベルに合わせたレッスンが受けられます。一般の乗馬だけでなく和式馬術のレッスンも行っているそうですよ。


日本の馬 御猟野乃杜牧場(みかりののもりぼくじょう)
滋賀県近江八幡市加茂町1780番地

古くから馬に縁のある土地とされる近江八幡市の加茂神社近くに作られた牧場です。和式馬術の研究・継承を目的として、初心者~経験者までを対象とした流鏑馬スクーリング、賀茂神社境内の走路を使用した和式乗馬練習会などを開いています。


今回は関東を中心に和式馬術を習うことができる場所を紹介しましたが、神社の氏子さん流鏑馬保存会などが地元の伝統文化として和式馬術の継承を担っている地域もあります。初心者向けの体験を行っている保存会は少ないですが「今回紹介された中に住んでいる県から通えるところが無かった…」という方は、もし県内に保存会などがあればお話を聞いて情報をいただくと体験できる場所が見つかるかもしれません。

まとめ

日本の伝統的な乗馬技術「和式馬術」。しかし、乗馬をやっていても在来種に乗ったことがない人は多いですし、和式馬術のことを知っている人はさらに少ないはずです。


小柄な在来馬の持つ能力を最大限に生かし、馬上にいながら両手で武具を扱うという驚くべき技術。せっかく日本にいて馬が好きなら、一度と言わず積極的に体験したいと思いませんか?習える場所は多くはありませんが、きっと普段の乗馬では気付かなかった発見や、ブリティッシュにも生かせる部分もあるはずですよ。

 

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