【日本在来馬】国の天然記念物に指定されている馬

生物は古くよりその土地で生きてきた在来種と、元々その土地には存在しておらず外部から持ち込まれた外来種とに区別されます。日本の在来種、動物でいえばニホンカモシカやニホンザルが有名でしょうか。また外来種はというとアライグマやタイワンリスなどの名前をよく耳にしますね。
馬にも日本古来の在来種が存在していて、その血を脈々と今に受け継いでいます。その中から唯一、国の天然記念物に指定されている都井の御崎馬をご紹介したいと思います。これからもその血が絶えぬよう守っていくために、まずはその存在を知ること、そしてその生態を知ることから始めてみましょう。
日本在来馬8種とは

日本在来馬は古くから日本に根付いてきた貴重な種。日本人とともに生き、そして生活をしてきました。明治時代以降には洋種馬との交配による馬の品種改良が行われ、また第二次世界大戦後の機械化によってその役割をなくして頭数が激減する危機に見舞われます。
そのため現在へと続く長い歴史の中で外来の馬種とほとんど交雑することなく、血脈を守ってきた現存する日本固有の馬はわずか8種類になってしまいました。
・北海道 北海道和種(道産子)
・長野県 木曽馬(*県の天然記念物)
・愛媛県 野間馬(*※市の指定文化財)
・長崎県 対州馬
・宮崎県 御崎馬(*国の天然記念物)
・鹿児島県 トカラ馬
・沖縄県 宮古馬(*県の天然記念物)
・沖縄県 那国馬(*町の天然記念物)
このように天然記念物や文化財に指定されている種も多く、その存在自体が貴重だとして保護活動が行われています。世界に誇れる日本の在来馬が絶えるかもしれない、そんな危機的状況の中にわたし達はいるということを認識しなくてはいけません。
御崎馬の特徴と生態

宮崎県の都井岬に生息する「御崎馬」。今も残る日本在来馬の中で御崎馬のみが半野生の状態で棲息し、動物園や牧場などでも飼育されていません。
体の特徴としては体長130cm体重300kg前後で、サラブレッド種やアラブ種と比べるとひと回りほど小さい中型馬に分類されます。体つきはがっちりとしていて頭部が大きいのですが、農耕馬として作られた日本在来馬と比べると足が細く、いかにも江戸時代の乗用馬という体形。主に鹿毛や青鹿毛の体毛を持ち、足元は黒いのが注目すべき点です。背中には鰻線(まんせん)のあるものが多く見られます。鰻線とは背骨に沿って鬣から尻尾の付け根まで続く濃い毛色の線で、品種改良をされていない原種に近い馬に見られるものです。
ルーツは300年以上前。550ヘクタールもの広大な都井岬は、元々軍馬を生産するために開いた牧場だったそう。その場所で300年近くの年月を経て今もなお、育成や繁殖もほぼ人為的管理を加えず、自然に極めて近い状態での周年放牧が行われています。
都井岬は高温多湿で台風の影響を受けやすい地域のひとつ。季節や気候に応じて居場所を変え 、食べ物や水も人間が与えるわけではなく自分たちで探し出します。
その結果御崎馬は環境に適応し、 粗食に耐え、厳しい気候に耐えうる丈夫な体を持ち、斜面の多い地を行く後躯を獲得しました。
そして御崎馬たちは生まれる時も死ぬ時も自然まかせです。
ハーレムを持たない若い雄同士の群れも存在しますが、基本的には1頭の雄と複数の雌、仔馬からなるハーレムを形成し、行動を共にします。
春先には生まれたばかりの仔馬を従えたハーレムが都井岬のあちこちで見られるように。仔馬が1~2歳になるとハーレムを離れ、新たなハーレムまたは群れで生活するようになります。
平均寿命は牡が約14年、牝が約16年と言われており、寿命を迎え命が尽きるとその亡骸はそのまま都井岬の自然へと還っていきます。
御崎馬を守るための管理

御崎馬は人による管理がほぼされていないと前述しましたが、江戸時代から続く「都井岬馬追い」と呼ばれる伝統行事があります。御崎馬を追って数か所に集め、検疫と遺伝子解析のための採血、寄生虫駆除薬の投与、1歳になる仔馬には個体識別のための烙印作業(2015年からはマイクロチップの埋め込み)と、個体検査を実施するのです。
2011年には馬伝染性貧血症の陽性馬が確認され、12頭が自主淘汰するという事態が起こりました。それ以降、都井岬馬追いは特に重要な活動となっています。
また御崎馬が生息する都井岬には訪れる人が守らなければいけない「ナチュラリスト憲章」があります。
・食べ物を与えない
・動物と人間の境界線を守る
・後ろから近づかない
・車の制限速度は30km
・馬に触らない
・草花を折ったり、持ち帰らない
・ゴミは持ち帰る
・自然を愛し、地球を大切にする
簡単にまとめるとこのようなことが記されており、都井岬ひいては御崎馬を守るルールが定められています。わたし達はこれらのルールを守ることを前提にして初めて、都井岬に暮らす御崎馬やその他生物のテリトリーにそっと足を踏み入れることができるのです。
まとめ
都井岬の青い海や緑の草原が広がる雄大な自然を背景に、その土地で逞しく暮らす御崎馬。そこには江戸時代前期より始まったかつての原風景があります。
幸いにも1年を通して御崎馬の見学は可能ですが、設けられた規則をしっかりと守ることは絶対条件。残念なことに御崎馬と車の事故も実際に起きています。
御崎馬を守るわたし達がその種の危険要因とならぬよう、気を付けて見守っていきたいですね。








