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【犬だけじゃない】介助動物としての馬

【犬だけじゃない】介助動物としての馬

「介助動物」と聞いて、私たちが真っ先に思い浮かべるのは盲導犬などの「犬」の姿でしょう。

犬は長年、人間の最良の友としてその役割を担ってきましたが、今世界では「馬」が新たなパートナーとして注目を集めています。
意外に思われるかもしれませんが、小型のミニチュアホースたちは、犬を上回る広い視野と驚異的な記憶力、そして何より「30年以上」という長い寿命を持っています。それは、障害を持つ方にとって「一生を共に歩める」という、犬には成し得ない究極の安心感をもたらします。

今回は知られざる介助馬の驚くべき能力、普及に向けた現代の課題などをまとめました。

人間を介助してくれる動物

【犬だけじゃない】介助動物としての馬
一般的に「介助動物」と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、視覚障害者を導く盲導犬や、肢体不自由者の生活を助ける介助犬、聴覚障害者に音を知らせる聴導犬といった「犬」の存在でしょう。
犬は古くから人間のパートナーとして訓練されてきましたが、近年その新たな選択肢としてミニチュアホースが脚光を浴びています。

馬を介助動物として活用する試みは、1999年にアメリカで設立された「ガイド・ホース・ファンデーション(Guide Horse Foundation)」などが先駆けとなりました。
ミニチュアホースは体高が約60〜80センチメートル程度と、大型犬と同等かそれ以下のサイズでありながら、馬特有の知能と穏やかな性質を備えています。もともと馬は群れで生活する社会的動物であり、仲間の状態を察知する能力に長けているため、人間をサポートする役割にも非常に適しているのです。

介助馬のメリット

【犬だけじゃない】介助動物としての馬
馬を介助動物として選ぶことには、犬にはない複数の決定的なメリットがあります。

驚異的な寿命の長さ

犬の平均寿命が10〜15年程度であるのに対し、ミニチュアホースは適切に飼育されれば30〜40年以上生きることが珍しくありません。介助動物は単なる「道具」ではなく、ユーザーにとって身体の一部であり家族以上の存在です。そのため、パートナーの死は凄まじい喪失感(ペットロス)をもたらすだけでなく、新しい個体との信頼関係の構築や再訓練に多大な時間と精神的コストを強いることになります。馬であれば、成人に達してから生涯の大部分を同じパートナーと歩み続けることが可能であり、この「長期的な安定感」はユーザーの人生設計において計り知れない安心感を与えます。

広い視野と夜間視力

馬の目は顔の両側についているため、約350度という圧倒的な視野を誇ります。これは、自身の真後ろ以外のほぼ全方位を首を動かさずに視認できることを意味し、交差点での車両接近や周囲の不審な動きをいち早く察知してユーザーを安全に導く「究極のガイド役」としての適性を裏付けています。また、馬は網膜の裏側に光を反射させる「タペタム層」という組織を持っており、暗闇でもわずかな光を増幅して見ることが可能です。このため、夜間の歩行や街灯の少ない道においても、犬以上に確実なナビゲートが期待できます。

高い記憶力と集中力

馬は「一度通った道を一生忘れない」と言われるほど空間記憶能力に長けており、日常的な通勤・通学路や複雑な施設内のルートを正確に記憶して遂行します。また、精神的な性質も介助に向いています。犬は肉食獣としての狩猟本能が残っているため、野良猫や他の犬、あるいは投げられたボールなどの刺激に反応して「仕事」を中断してしまうリスクがゼロではありません。しかし、草食動物である馬はそうした攻撃的な好奇心が低く、訓練された馬は屋外の喧騒や人混みの中でも驚くほど冷静さを保ち、黙々と任務に集中し続ける忍耐強さを備えています。

アレルギーや宗教的背景への対応

介助動物を必要としながらも、深刻な犬アレルギーが原因で犬を身近に置けない人々にとって、馬は医学的に極めて有効な代替手段となります。犬のフケや唾液に含まれるアレルゲンは強力ですが、馬は異なる特性を持つため、アレルギー反応を回避できるケースが多いのです。 また、文化的・宗教的な配慮が必要な場面でも馬は優位性を発揮します。一部の宗教や地域社会においては、歴史的に犬を「不浄な存在」とみなす教義や習慣があり、介助犬であっても自宅への出入りや公共施設への立ち入りが制限されるトラブルが世界各地で報告されています。一方で、馬は多くの文化圏で「家畜」「高貴な乗り物」として肯定的に受け入れられてきた背景があるため、犬を拒むコミュニティであっても、介助馬であればスムーズに受け入れられる可能性を秘めているのです。

今後の期待と課題

【犬だけじゃない】介助動物としての馬
介助馬には多くのメリットがある一方で、普及に向けた課題も少なくありません。

最大の課題は「生活環境」です。馬は基本的に屋外で過ごす動物であり、犬のように一般的な住宅の室内で飼育し続けることは困難です。十分な広さの庭や厩舎が必要となり、都市部での導入には高いハードルがあります。また、排泄物の管理も課題です。犬に比べて量が多く、公共の場でのマナー維持には専用の「おむつ」のような袋を装着させるなどの工夫が必要ですが、これに対する社会的な理解はまだ十分ではありません。

さらに、法的な整備も途上です。アメリカの障害者法(ADA)では、一定の条件下でミニチュアホースを介助動物として正式に認めていますが、日本国内の「身体障害者補助犬法」では現在のところ犬のみが対象となっています。公共施設や交通機関への同伴が法的に保障されていない現状では、日常生活での活用は限定的にならざるを得ません。

しかし、アニマルセラピーの効果も併せ持つ馬の介助能力は、精神的なケアを必要とする人々からも強く期待されています。
今後、飼育技術の向上や法整備が進むことで、犬以外の選択肢としてより身近な存在になる可能性があります。

まとめ

【犬だけじゃない】介助動物としての馬
介助動物としての馬は、決して犬の「代用品」ではありません。その長い寿命、類まれなる視野、そして冷静な判断力は、特定のニーズを持つ人々にとって最高のパートナーとなり得るものです。

もちろん、飼育スペースの確保や公共の場での受け入れ態勢など、解決すべき現実は山積みです。しかし、介助馬がもたらす「一生を共に歩める安心感」は、身体的サポート以上の価値をユーザーに提供します。「介助動物=犬」という固定観念を超え、馬という選択肢が社会に正しく理解されることで、障害を持つ人々の生活の質(QOL)はさらに向上していくでしょう。

馬の持つ優しさと知性が、福祉の現場でより広く活用される未来がすぐそこまで来ています。

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