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【ちょっと特殊な走り方】側対歩

馬の歩様といえば常歩・速歩・駈歩などが挙げられますが、みなさんは側対歩(そくたいほ)という歩様を聞いたことがあるでしょうか?今回の記事では、サラブレッドには見られないといわれる特殊な走り方「側対歩」について解説していきます!

側対歩とは

【ちょっと特殊な走り方】側対歩

まずは、そもそも側対歩ってどんな歩様なの?というところから見ていきましょう。また、「サラブレッドは側対歩をしない」ということは品種によってできるかどうかが決まって来るの?という部分についても触れていきます。

同側の前脚・後脚を同時に出す歩様

側対歩は、簡単に説明すると馬の右前脚と右後脚、左前脚と左後脚が同時に出る歩様です。ちなみに、サラブレッドやアラブ馬の速歩は右前脚と左後脚、左前脚と右後脚と対角線上の足が同時に出る歩様で「斜対歩」と呼ばれています。

側対歩の速歩は右、左、右、左という歩様ですが、常歩まで速度を落とすと左前脚+左後脚、左前脚、左前脚+右後脚、右後脚、右前脚+右後脚という少し複雑な足の運びとなります。この歩様は「半側対歩」といいます。

馬の足の運びは意外と速いので、普段から馬に乗っていて斜対歩を見慣れている人でも、側対歩をパッとただけでは「何か違和感があるな」と感じる程度かもしれませんね。

側対歩は先天的なもの?

馬場馬術で活躍している馬を見ると、人間からの指示に従ってハーフパスやピアッフェなど普段の生活では必要のない動きもできることがわかります。では、側対歩もそうした動きの一種なのでしょうか?

たしかに、昔の書物をみると「馬に側対歩をおぼえさせる訓練方法」というものもあるようです。しかし、サラブレッドは側対歩をしないということからもわかる通り、側対歩ができるかどうかは遺伝の影響を強く受けるといわれています。

国内で見られる馬のなかで訓練なく側対歩をできる個体が多い品種として有名なのは、北海道和種(道産子)や純血の木曽馬などです。日本には他にも在来種がいますが、これらの品種も側対歩ができる可能性はあるでしょう。

ただし、現在日本で見られる在来馬は過去の戦争のなかで軍馬に向いた体格になるよう洋種のと交雑がすすめられてきました。そのため、純系に近いものの多少の交雑を経た個体では、側対歩がみられる確率が低いとする研究があります。

また、純系の在来馬であっても実際に林業や農耕で使役されていた時代とは異なり、現在は山道を長時間歩いたり荷物を運搬する機会は多くありません。こうした生活の変化も、側対歩がみられにくくなる要因となっている可能性があります。

こうした話から「側対歩は和種に特有の歩様」と思われるかもしれません。しかし、洋種のなかでもスタンダードブレッドアイスランド種など速歩を得意とする品種のなかには、生まれながらにして側対歩ができる品種もいます。

また、馬以外の動物ではキリンやゾウなど大型の草食動物で側対歩がみられるほか、オールド・イングリッシュ・シープドッグや一部の和犬も側対歩だといわれています。

側対歩のメリットとデメリット

【ちょっと特殊な走り方】側対歩

実際に側対歩ができる馬に乗ったことがなければ「足の運びが違うと乗っている人にはどんな影響があるの?」とイメージしにくいかもしれません。そこで、斜対歩と比較した場合の側対歩のメリットとデメリットをまとめてみました。

メリット:安定感があり疲れにくい

国内には、在来馬の体験乗馬ができる施設が数カ所あります。こうした場所に行く機会があれば、みなさんもぜひ側対歩を体験していただきたい!と思うのですが…側対歩は騎乗者にとって上下の揺れが非常に少ない歩様です。

そのため、体力の消耗が少なく長距離もしくは長時間乗っても疲れにくいでしょう。また、現在は流鏑馬(やぶさめ)でサラブレッドやアラブ馬なども活躍していますが、馬の上で道具を使用するにも木曽馬など側対歩ができる馬のほうが手元が安定しやすいといわれています。

余談ですが、昔の日本人は「なんば歩き」という右手と右足、左手と左足を同時に動かす歩き方だったとする研究があります。この歩き方も身体への負担が少なく、重いものの運搬や長距離の移動に適していたという説があるようですね。もしかすると、馬の側対歩は人間のなんば歩きのようなものなのかもしれません。

デメリット:左右の揺れは大きい

乗馬をしている方は、斜対歩の馬(サラブレッドやアラブ馬など)に乗っていると「上下の反撞」を感じると思います。しかし「左右の揺れ」がツライと感じている方は少ないのではないでしょうか?

これは、左右の足をバランスよくついて進むため、脚で地面を蹴る力は左右に流れず重心がまっすぐ前方に進んでいくためです。一方、側対歩は右で地面を蹴っているあいだに左側が進むような歩様であり、重心は一歩踏み出すごとに左右にぶれます。また、基本的に斜対歩よりも一歩を大きく踏み出せるので、これも振れ幅が大きくなる一因といえるでしょう。

繋駕速歩競争

【ちょっと特殊な走り方】側対歩

繋駕速歩競走(けいがそくほきょうそう)とは競馬の種目の一種ですが、一般的な競馬でみられる襲歩や駈歩は禁止。名前の通り、速歩での競争です。この競技は速歩のなかでも、トロット(斜対歩)とペース(側対歩)で種目がわかれています。

歩様だけでなく、人間が馬に騎乗せず馬車に乗るという点も、日本で見慣れている競馬とは違う点ですね。もちろん、馬車とは言ってもおとぎ話に出てくるような箱型ではなく一人乗りの二輪馬車で、古代の戦車競走に由来するといわれています。

国内では非常に競技人口が少なく、なんと「日本一競技人口の少ないスポーツ」とも呼ばれているのだとか。側対歩で走る馬を見てみたい!という方や、馬と一緒にできる珍しいスポーツを見てみたい!というかたは、ぜひ調べてみてくださいね。

まとめ

私たちが普段目にする速歩といえば斜対歩が多いでしょう。もう一つの速歩である「側対歩」は、出会える機会が少ないもののさまざまなメリットがある走り方。みなさんも、純血の日本在来馬などに乗る機会があったら、ぜひ側対歩を体験してみてくださいね!

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