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馬の歩き方と走り方

人間の「歩く」と「走る」の違いは、脚を動かす速さや歩幅くらいかもしれません。しかし、馬には足の運びにより数種類の歩様があります。それぞれの歩様には、どのような特徴があるのでしょうか?今回の記事では、馬の歩き方・走り方について詳しく解説していきます。

歩き方の種類

馬の歩き方と走り方

馬の歩き方は、基本的に常歩のみです。ただし、世界には限られた種類の馬だけができる「アンブル歩法」という歩き方があるのだとか。まずは、通常の常歩とアンブル歩法について、それぞれどのようなものか確認していきましょう。

常歩(なみあし)

常歩は、馬がリラックスしてゆっくり進んでいるときの歩様です。人間が歩いているのと同じく、最も長い時間進み続けることができる歩様といえるでしょう。品種にもよりますが、サラブレッド・アラブ馬の常歩は時速6kmほどといわれています。

アンブル歩法とは

アンブル歩法とは「常歩と速歩の中間」のような歩き方です。ただし、どの馬にもできる歩様ではありません。馬の中には、生まれつきアンブル歩法をできる馬・できない馬がいます。たとえば、サラブレッドたちはアンブル歩行ができない品種です。

この差にはDMRT3という遺伝子が関わっていて、アンブル歩法を容易にできる馬はDMRT3遺伝子に変異があることが分かったそうです。この遺伝子に変異がみられる代表的な品種としては、下記が挙げられます。

・スタンダードブレッド
・アイスランドホース
・テネシーウォーキングホース
・ペルー・パソ
・アメリカンサドルブレッド
・ケンタッキーマウンテンサドルホース
・ミズーリフォックストロッター
・ロッキーマウンテンホース

アンブル歩法は常歩よりも早く、かつ反動が少なく、馬の体力も温存できる歩法です。そのため、馬に乗って長時間の移動・労働をする人々に重宝されました。しかし、野生の世界ではアンブル歩法ができる馬はほぼいないのだとか。

実は、DMRT3遺伝子に変異があると、歩いている状態から駈歩へスムーズに移行することができないのです。つまり、野生では即座にスピードを出すことができず生き残るのが難しいということですね。

違い

馬の歩き方と走り方

何拍のリズムで全ての足が移動するかを「〇節」と表現します。たとえば、人間の歩行は右左の足を「いち、に」と出せばすべての足が移動したことになるので2節ですね。人間は、走るときも歩くときも、2節になります。

ちょっとわかりにくいですが、たとえば、足が2本あったとしても両足をそろえて一歩前にポンと飛ぶカンガルーのような進み方ならば「1節」です。この方法に則ると、馬の常歩は4節になります。

アンブル歩法も4節ですが、アンブルのなかにもさまざまな歩様があり「速度をあげると2節に近くなる」という歩様もあります。それでも「走る」ではなく「歩く」に分類されるのは、速歩と異なり全ての足が地面から離れる時間が無いからでしょう。そう考えると、人間の「競歩」に似ているかもしれませんね。

走り方の種類

馬の歩き方と走り方

次に、走り方の種類について解説します。ここからは再び、乗馬を習っている方にもなじみのある歩様の話です!日頃よく見ている馬の動きも思い出しながら読んでみてくださいね。

速歩(はやあし)

速歩は人間でいう「ジョギング」のようなものです。つまり、全速力ではないものの歩くよりは速く、比較的長時間進み続けることができる歩様になります。馬が歩いている状態との一番の違いは、4本の足が全て地面から離れる「空間期」という時間があることです。

ブリティッシュスタイルの乗馬を習っている方が普段見ている速歩は「斜対歩」と呼ばれる速歩。斜対歩とは、対角線上にある足(右前脚と左後脚、左前脚と右後脚)が同時に前へ出る歩様という意味です。

これに対して「側対歩」と呼ばれる速歩があり、こちらは右の前後脚・左の前後脚がそれぞれ同時に前に出ます。馬にとっても自然な歩様ではなく、初めて見た方は少し違和感を感じるかもしれませんね。

しかし、側対歩は揺れが少ない歩様とされており、日本・モンゴルの古式馬術では頻繁に見ることができます。斜対歩・側対歩いずれの場合も、速歩の速度は時速13kmほどです。

駈歩(かけあし)

騎乗者にとって、駈歩は上下にうねりながら前後に加速するようなような感覚の歩様です。速歩の縦に跳ねるような反動と異なり「心地いい」と感じる方も多いはずです。

駈歩のスピードは時速20kmほどで、馬にとっては「全速力ではないけれど速いスピードが出せる走り方」といえます。人間でいうと中距離走のような感覚のスピードでしょうか。

ちなみに常歩・速歩は「対称歩法」と呼ばれ、人間が歩くときのように左右で交互に同じ動きを繰り返します。一方で、駈歩は「非対称歩法」と呼ばれ、左右の脚が異なる動きをします。駈歩のレッスンが始まると、騎乗者が「手前」に悩まされるのはこのためですね。

襲歩(しゅうほ)

襲歩は駈歩と似ていますが、馬の全速力が出せる走り方で時速は60kmにも達します。乗馬では使用することがない歩様で「競馬に出走している馬たちの走り方」というとイメージしやすいでしょう。

馬の身体構造から考えると効率の良い走り方とされますが、やはり全速力なので体力は非常に消耗します。そのため、たとえば「1日でなるべく長距離を移動したい」といった条件では、今回紹介した歩様の中で最も短い距離しか進めないともいわれています。

違い

馬の歩き方と走り方

厳密にいえば四肢の着地スピードには少し時間差がありますが、速歩は「おおよそ2節」の歩様です。斜対歩・側対歩ともに、2足1組になって「いち・に、いち・に」というリズムで進んでいきます。

これに対して駈歩は、基本的には脚が地面に着地する順番は下記のようになります。2節目で対角線上にある2足がほぼ同時に着地するので3節の歩様です。

①運動の回転方向からみて外周側の後脚
②内周側の後脚・外周側の前脚
③内周側の前脚

上記の2節目で2本の足が着地したときには、1節目で着地した足も地面に残っています。そのため、駈歩では最大3本の足で体重を支えている瞬間があります。

なお、襲歩の足の運びは駈歩とほぼ同じです。ただし、駈歩の場合は2節目で2本の脚が地面に着いた瞬間には、すでに1節目で着地した足が地面を離れています。そのため、同時に地面に付いている足は最大で2本ということになります。

まとめ

馬にはいくつかの歩様があり、それぞれ出せるスピード・進み続けられる時間・騎乗者が感じる振動などが異なります。乗馬のレッスンで見かける基本的な歩様のほかにも、各国に残る伝統的な歩様などもあり興味深いですね。みなさんも、気になる歩様があればぜひ動画投稿サイトなどで探して実際にみてみましょう!

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