拍車の正しい使い方

拍車といえばカウボーイのイメージが強いかもしれませんが、ブリティッシュスタイルの乗馬でも拍車を使用します。「馬は拍車を使われて痛くないの?」と心配な方もいると思うので、この記事では馬が痛い思いをしないためにも身につけておきたい基本や使う際の注意点について解説していきます!
使う前に習得しておくべきこと

拍車は騎乗者のアキレス腱のあたりの位置に装着する道具。ウエスタンでは歯車のようなパーツがついた「輪拍(りんぱく)」をよく見かけますが、ブリティッシュでは棒状の突起が付いたシンプルな「棒拍(ぼうばく)」が一般的です。
拍車を使用する主な目的は、かかとで圧迫するよりも扶助を繊細に伝えたり強調したりすること。「指示が伝わりやすくなるなら初心者のうちからつけてもよいのでは…」と思うかもしれませんが、実際は初めから拍車の着用を勧められることはほとんどありません。それは、拍車を使い始める前に習得すべきことがあるからです。
脚扶助の基礎を習得する
気を付けたいのは「拍車をつければうまくできる」のではなく、拍車はあくまでも脚による扶助を補ったり強調したりするための道具だということ。そのため、まずは土台となる脚扶助の基礎を身に着けることが大切です!
一言に脚扶助といっても「どんな動きをしてほしいか」により圧迫する強さや位置は異なります。どんなときにどのように指示を出せばよいのかを頭で覚えると同時に、どれくらいの強さで脚を入れたらどんな反応を返してくれるのかも感覚で覚えていきましょう。
正しい姿勢を習得する
上半身の姿勢が崩れれば自然と脚の位置も変わってくるため、いつもと同じ指示を出しているつもりでも馬にとっては「いつもと違う指示」になっている可能性があります。
この状態で拍車をつけても、間違った指示が強調して伝わるだけ。これでは馬も混乱してしまうので、拍車を使い始める前に正しく安定した姿勢を身に着けておきましょう。
また、乗馬では適度に力を抜くことも大切ですが、膝から下をぶらぶらさせていると拍車を履いたときに意図しないタイミングで拍車を当ててしまうことになります。脚を正しい位置に保つとともに、騎乗中は目視が難しい足首から下の角度も意識できるとよいですね。
拍車を使う時はどんな時?

姿勢が安定して正しい脚扶助を出せるようになってきたら、必要に応じて拍車をつけます。では、どのようなときに拍車が必要なのでしょうか?
脚扶助では反応が鈍いとき
拍車を使う場面として多いのは、脚扶助だけでは馬の反応が鈍いとき。たとえば、扶助そのものへの反応があまり見られなかったり、反応はあるものの動きが重かったりする場合です。
このようなときに拍車を使えば、馬に明確な合図を送ることができて反応がよくなります。また、扶助による刺激を少し強くすることで、馬がこれまでよりも扶助に注意を向けるようになるでしょう。
より高度な指示を与える必要がある時
馬場馬術や障害飛越など競技を意識した練習では、単に「止まる/進む」や「左右に曲がる」といった操作よりも高度な技術が求められます。
このように繊細な脚扶助が必要な場面で拍車を使うことで、指示に強弱をつけたり扶助の細かい調整をしたりしやすくなるでしょう。
細かい指示を正しく出すことで馬の混乱を減らすと同時に、馬に「この人は細かい指示が出せる人だ」と認識させることもできます。騎乗者から細かい指示が来ると感じると、馬はより注意深く指示に目を向けてくれるので反応の速度も上がるはずです。
使うときの注意点

ここまで読んで、拍車は便利な道具と感じた人も多いのではないでしょうか?たしかにそれも間違いではありませんが、効果の大きな道具は誤った使い方をした場合の影響も大きいもの。馬に嫌な思いをさせないためにも、拍車を使うときに気を付けたいことや調整方法についてしっかり覚えておきましょう。
拍車で傷ができてしまうことも
脚扶助の教え方は乗馬クラブによってさまざまですが、脚扶助を「かかとでキック」と教わった子どもや、男性など筋力があり強く圧迫できてしまう人、そしてO脚の人は特に拍車を強く当ててしまいやすいため注意が必要です。
ふくらはぎでの圧迫もうまく使いながら、必要なときだけ拍車を当てるように心がけましょう。最初のうちは特に、拍車で触れるのは「拍車なしで強めに蹴るより刺激が強いかもしれない」と思って使うくらい注意深くてもいいかもしれません。
また、意図的に強く蹴らないというだけでなく「無意識に拍車が当たっていないか」にも要注意。足首の角度によっては、騎乗者が気付かないうちに拍車が馬にあたり続けておなかの部分の毛が薄くなったり傷になってしまったりすることがあります。
もちろん、拍車傷に気を付けるべき一番の理由は「馬が傷つくことがないように」ですが、加えて拍車傷がある馬に騎乗していると競技会で失格になる可能性があることも覚えておきましょう。
拍車傷ができてしまったら?
拍車傷は騎乗のたびに刺激されて治癒しにくいため、拍車の使用をやめるだけでは不十分な場合は、しばらく騎乗をやめることも考慮しましょう。
また「傷にまでなっていないけれど、毛がちょっと薄いかも…」と気づいたら、脚の使い方を見直すほか拍車の位置や種類を変えてみるのも有効な対策です。まずは拍車の種類はそのままで、拍車の位置をブーツの拍車留めよりもやや下にさげてみてください。
それでも状況があまり変わらなければ、拍車の突起が短い&先端に丸みがあるものに変えてみるのもおすすめです。そのほか、馬装での工夫としておなかを守るためにガード用のゼッケンやベルト状のボディシールドを着けるなどの方法もありますよ。
まとめ
拍車は、痛みによって馬を強制的に動かす道具でなく、人間に注意を向けてもらうことで扶助が伝わりやすくしたり、より繊細で明確な指示を伝えたりするための道具です。しかし、使い方を間違えれば馬が傷ついてしまうことも。
馬にとって信頼できる騎乗者になるためにも、正しい脚扶助をしっかりと身につけたうえで拍車を正しく使っていきましょう!