馬の目の秘密
大きな体につぶらな瞳。馬のチャームポイントでもある目。あのかわいらしい馬の目も野生だったころの環境に適応して生き残っていくため、進化した結果だそうです。馬には世界がどのように見えているのか気になりますよね!今回は馬の目の秘密に迫ってみましょう。
付いている位置と視野
顔の側面に目がある理由
馬の目は顔の側面から少し出っ張ってついています。これは、馬が敵から身を守るために進化してきたからだと言われています。馬の先祖であるヒラコテリウムの目は犬や猫と同様に顔の正面についていました。5,000万年ほど前に誕生したと言われるヒラコテリウムは葉食性で森に住んでいました。そこから、少しずつ進化を進めて2,000万〜2,500万年前に現れたメリキップスのころには、目は後方に位置するようになったのです。このころ、馬の祖先が住んでいた北米で気候変動があり、草原が広がるようになりました。食料を確保するため、馬の祖先たちは葉食性から草食性へと進化を進めます。草原では、それまでの住みかであった森林ほど身を隠す場所がなく、肉食動物から身を守るためには視野を広げる必要性がありました。そのため、馬の目は顔の正面から側面に位置するように進化を進めて、敵をいち早く認識できるようになったのです。
馬の視野の特徴は?
その結果、馬には広い視野が備わり、死角はお尻の後ろ側の約10度だけと言われています。視野が350度あるうち、両目を使ってみることのできる範囲が60〜75度で、それ以外は片方の目で認識します。また、明るいところでも、広い視野が確保できるように瞳孔は横長になっています。同じように側面に目のついている鳥も340度ほどの視野を持つと言われていますが、両目で認識できる範囲は23度しかありません。また、人間の視野は約180〜200度と言われており、後ろがほとんど見えません。馬の目は前方にある程度、注意しながらも、側面や後方の様子も見ることができるつくりになっています。しかし、目が顔の正面にあり両目で見える範囲が広い動物と比べて、距離感を測るのは苦手なようです。
色覚や視力
馬の視力は0.6〜0.8ほどと言われています。車の免許で矯正器具の装着を求められるのは、両目の視力が0.7未満かつ片目の視力が0.3未満の場合です。馬には、運転免許の取得時に矯正なしで、ぎりぎりパスできるかくらいの視力があるということになります。
動物の目には桿体(かんたい)と錐体(すいたい)と呼ばれる視細胞があります。錐体は明るい場所で色を認識できると言われています。馬や人間の目にも錐体細胞が存在しているため、色が認識できますが、その発達の度合いはその生き物の生活環境によって違うようです。人間は錐体を3種類持つため、3原色(青・赤・緑)が見えますが、馬は2種類しか持っていないため、青と緑の2原色は見えているけれど、赤は認識できないとされています。生き物でも例えば、コイは人間と同程度、ハトは20色も認識できると言われていて、昆虫は紫外線まで見えるそうです!
オレンジ色が緑に?
イギリスにある大学の研究で、オレンジ色が馬には緑に見えているということが分かりました。イギリスの競馬場では、障害のクロスバーや踏切板の色を人間が見やすいオレンジ色に塗っていました。しかし、馬にはオレンジ色が緑に見えているため、コースに生えている芝生や緑色の障害と一体化してしまっており、馬たちにとっては認識をするのが難しいのではないかとの研究結果に。オレンジ色に塗られた障害を白、黄色や青などの色に塗り替えて、トライアルをしたところ、人間にとっても馬にとっても白が適切だという結果になりました。イギリスの競馬場ではすでに白に塗り替えられた障害でレースを実施しています。
しかし、そうなると、好物のニンジンも緑色に見えていることになります。これはちょっと驚きですね!
残像作用
馬の残像作用は人間よりかなり短いとされています。残像作用とは目に入った光が消えてしまっても、まだ残っているように見える作用のことを言います。写真撮影でフラッシュを見てしまうと、しばらく目に残ることがありますよね。あれが残像作用です。
残像作用が短いことは逃げながら、敵の位置を正確に把握するのに適しています。例えば、馬に乗って駈歩をしているとき、乗り手には横目で景色が流れるように見えるとします。これは人間の目の残存作用によるものです。しかし、同じスピードで走っていても、馬の目の残存作用は短いので、流れるようには見えません。1コマ1コマ見えており、走りながらも視野に入っているものを正確な位置で捉えることができるのです。しかし、野生の世界は厳しいもので、同じ能力が馬の敵である肉食動物にも備わっているものと考えられています。
暗視能力
馬は昼行性ですが、暗いところでも目が見えます。馬の生産地では、夏の間、昼夜放牧といって、若駒の体力を養うために昼間だけではなく、夜間も放牧に出します。しかし、馬たちは夜でも目が見えるので、問題はありません。
秘密は目の奥の反射板!
動物の目の奥に位置する網膜にある桿体細胞と錐体細胞のうち、暗いところで働くのは桿体細胞です。桿体細胞がわずかな光を捉えることができるため、夜でも目が見えるのです。しかし、さらに網膜の後ろにタペタム(輝板)という組織がある動物もいます。ネコや犬の写真を撮影して、目が光ったことはありませんか。あれはタペタムの作用によるものです。タペタムは網膜を通り過ぎた光を反射させてもう一度、視神経を刺激します。タペタムがちょうど反射板のような役割をして光を増強させたために起きた現象なんですよ。馬の目にもタペタムがあり、目に入った光を増強させることができるため、暗闇でも物を認識できるのです。夜間に活動をする肉食動物から身を守る必要があったためであると考えられます。
このように、馬は物の見え方が人間と全く違います。馬の視覚がどのようなものなのかを可視化した動画がありました。下のリンクから是非、体感してみてくださいね。
まとめ
今回は馬の目について考えてみました。色の識別能力や視力が低いものの、動体視力には長けています。そのため、ふいに何かが視野に入ってきたら、逃げるのが馬の生き残るための術であり、本能です。目の見え方などの特性を理解して、馬たちを不安にさせないように、騎乗できるようにしていきたいですね。