モンゴルの民族楽器「馬頭琴」
モンゴルの民族楽器である「馬頭琴」をご存知ですか。モンゴルでは「モリンホール」と呼ばれています。現地の言葉で馬は「モリン」、楽器は「ホール」。「モリンホール」は「馬の楽器」という意味なんです。小学校の国語の教科書に出ている「スーホの白い馬」で馬頭琴をご存知の方も多いのではないでしょうか。今回は馬頭琴について調べてみましたので、ご紹介します。
馬頭琴の構造
馬頭琴は弦を弓で擦って音を出す擦弦(さつげん)楽器です。先端に馬の頭が彫られている棹、音を響かせる共鳴箱、2本の弦の3つに大きく分けられ、棹や共鳴箱には木材が使用されています。地域や製作者によっても変わりますが、松、シラカバやカエデなどを使用します。昔は共鳴箱に馬、羊やラクダなど家畜の皮革を張っていたそうです。弦や弓には、馬の尾を束ねて使います。これがあの憂いのある深くて美しい音色の秘密ですよ。高音を出す弦(内側の弦)には80〜100本ほど、低音の弦(外側の弦)には120〜130本ほどの馬の尾を束ねて使います。弓にはさらに多くの馬の尾が使われています。最近では、ナイロンの弦もあるのだとか。この弦を爪の生えている指の表側で横から押さえて、弓を使い音を出します。横から弦を押さえる奏法は、馬頭琴以外にもインド発祥のサーランギーなどにみられます。
音階
地域や製作者によってまちまちだそうです。高音弦を「ド」、低音弦を「ソ」で調整する地域もあれば、高音弦を「シ♭」に低音弦を「ファ」とする地域も。また、馬頭琴は演目などによって音域を調整することもできるそうです。音域は、だいたい2オクターブ半と言われています。
音には、伸びがあり、柔らかい温かさを感じます。なぜかじんわりと心に訴えてくる、浄化作用があるかのような響きです。モンゴルでは、初産後にショック状態で育児放棄をした家畜に馬頭琴の演奏を聴かせる音楽療法を用います。家畜は馬頭琴の美しい響きに癒され、涙を流しながら、赤ちゃんに乳を与えるようになるそうです。
さらに、その音色には幸せを運んでくる、魔除けになるとの言い伝えがあり、新築した家のお祝いや結婚式などでも演奏されています。モンゴルの方にとっては、身近な楽器なんですね。
由来にまつわる物語「スーホの白い馬」
馬頭琴の由来にまつわる民話が、モンゴルでいくつか伝承されています。そのうち、日本で最も有名なのが、小学校の教科書にも採用された「スーホの白い馬」。覚えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。ご存じでない方もいらっしゃると思いますので、簡単にあらすじを説明します。
スーホは生まれたばかりの白い馬を拾います。スーホと白い馬は、友達のようにいつも一緒に過ごし、立派に育っていきました。ある日、王様主催の競馬に白い馬と出場したスーホは見事に優勝。しかし、美しい白い馬は王様が強引に連れ去ってしまいました。白い馬はスーホのところに戻りたい一心で、隙を突き、逃げ出します。王様の家臣に弓で射られながら息絶え絶えにスーホのもとにたどり着きますが、白い馬はじきに死んでしまいました。何日も泣き続け、疲れて寝てしまったスーホの夢に出てきた白い馬は、自分の骨や皮を使って楽器を作ってほしい。そうすれば、ずっと一緒にいられるとスーホに伝えました。それでスーホが作ったのが馬頭琴なのですと、いうお話です。
「スーホの白い馬」はもともと、モンゴルで伝承されていた話を編集し、中国で書籍化されていました。この書籍が日本人によって翻訳され、のちに教科書に採用されました。実はモンゴルには、同じような民話がいくつかあるそうで、「スーホの白い馬」はモンゴルでは知らない方も多いそうです。馬頭琴にまつわる民話で、モンゴルで最も有名だと言われているのが「フフー・ナムジル」。ナムジルの翼が生えた愛馬の話です。スーホの馬と同様にナムジルの愛馬も死んでしまい、ナムジルが愛馬から作ったのが馬頭琴だというストーリーです。どちらも馬頭琴の哀愁を帯びた音色に共鳴するかのような悲しい物語です。
「スーホの白い馬」を子供向けに編集した際には、幼い子供が読むことも考えて、馬頭琴の記述を避けたバージョンもあったそうです。確かに子供にとっては、仲の良かった馬から楽器を作ると言うのは、少しショッキングな内容かもしれません。しかし、難しいところではありますが、この話から馬頭琴を外してしまったら、この話の持つよさや深みのようなものが少しそがれてしまうような気もしますね。
実は、馬頭琴で演奏する「スーホの白い馬」も作曲されているんですよ。Youtubeで演奏を聴けますので、ぜひ。
まとめ
今回は馬頭琴について調べてみました。馬頭琴の音色には、人だけではなく、動物たちも癒してしまう不思議な魅力があります。なかなか生の演奏に接する機会はないかもしれませんが、YouTubeでもプロの奏者が奏でる美しい調べを楽しむことができます。馬頭琴の音色の美しさや癒し効果を是非、体感してみてくださいね。