私たちの身近にある「馬の毛」いろいろ
ブラッシングをしたり、尻尾を整えたり…と普段は捨ててしまうことも多い馬の毛。ですが、意外と世の中には馬の毛を利用した製品があるんです!というわけで、今回の記事ではみなさんも見たことがあるかもしれない「馬毛の用途」を紹介します。
ブラシ、筆類
動物の毛を利用すると言えば、真っ先に思いつくのがブラシや筆ではないでしょうか?馬の毛で作ったブラシは、どのようなことに使われているのか詳しく見てみましょう。
洋服・靴ブラシ
服飾品をキレイにするためのブラシには、馬やブタの毛がよく利用されます。この2つを比べると、馬のほうが毛足が長く柔らかいという特徴があります。馬毛ブラシなら生地が傷みにくく、サッと付着したホコリや花粉をキレイにすることができそうですね。
ちなみに、靴などの革製品のように定期的にレザーオイルを塗ってお手入れするような製品の場合は、まず柔らかい馬毛ブラシで汚れを払ってからオイルを塗り、そのオイルを凹凸などに塗り込む際には豚毛ブラシを使うと良いそうですよ。
ボディブラシ
みなさんは、身体を洗うとき何で洗っていますか?背中が洗いやすいので、長めの柄が付いたボディブラシがお気に入り!という人も多いのではないでしょうか。馬毛のボディブラシは、コシがあるのに優しい肌触りが特徴です。
一般的にはボディブラシには硬めの尻尾の毛が使われますが、それよりも柔らかいたてがみはフェイスブラシに使われることもあります。「顔をブラシで洗うの?」と心配な方もいるかもしれませんが、使ってみると尻尾の毛と硬さが全然違う!と実感できるハズです。使っているうちに柔らかさが増してフワフワした洗い心地になりますよ。
書道用筆
生活用品だけでなく、馬毛は書道用の筆にも使われています。コシが強いのでスッキリと書きやすく初心者でも使いやすいのだとか。筆には胴周りなどの細かい毛も使われますが、硬さがある尻尾は筆の芯毛として使うなど、1本の筆に複数の種類の毛を利用する場合もあります。
絵筆
書道用筆と並んで、学生が良く使うのが絵筆かもしれませんね。ここまでお話ししたとおり、馬の毛はコシが強い素材なので絵筆に使ってもボサボサになりにくく子供でも使いやすい筆になります。
絵画の世界では、油彩・水彩・日本画など手法や技法によりさまざまな毛質の筆が必要です。そのため絵筆の材料には、馬毛のほかにも、シカ・羊・ウサギ・人などさまざまな動物の毛が使われています。
調理道具
馬毛は家庭のキッチンや専門店の厨房などで活躍する調理器具にも使われています。ここまで紹介したブラシ類の仲間もありますが、それ以外にも意外なところに使われているかも…?
タレバケ・パンブラシ
肉類などにタレを塗って焼いたり、パンを焼く前に表面に卵を塗るなど、台所でもハケ類は重宝しますよね。また、小麦粉を使ってパンなどを作るときには、粉を掃除するパンブラシもあると便利な道具です。
裏ごし器
裏ごし器には金属製のものも多いですが、手作業で作られた馬毛の製品も。木枠と馬毛を使って丁寧に作られた裏ごし器は、家庭だけでなく料理店や和菓子屋さんなどでも使われています。
弦楽器の弓
日常生活で直接手に取る機会は少ないかもしれませんが、テレビではオーケストラや世界の楽器を見る機会もあるかもしれませんね。そうした楽器にも馬毛がたくさん使われています。
バイオリン、チェロ
バイオリンやチェロの弓には馬の尻尾が使われています。弓には馬の毛をピンと張られていて、これで弦を擦って音を出すという仕組みですね。イメージとしては白い毛が多いですが、黒い毛のほうが太いため引いたときの音が強いと言われています。
最近では化学繊維の弓も人気が出始めていますが、やはり自然素材である馬毛のほうが松脂を塗ったときのなじみは良いと感じる奏者の方が多いらしいですよ。
胡弓・二胡
弓に馬の尻尾の毛が張られた弦楽器、という点では日本の胡弓や中国の二胡もバイオリンなどと同じと言えます。ただし、その張り方と奏法には少し違いが。
なんと、弓には少したるんだ状態で馬毛を張ります。そして、演奏時にこの弓の毛に指をひっかけるようにして張り具合を調節しながら演奏するのだとか…。私は胡弓を弾いたことが無いのですが、かなり難しそうですね。
馬頭琴(モリンホール)
馬が素材になっている楽器と言えば「スーホの白い馬」などで有名になった馬頭琴を真っ先に思い浮かべる人も多いのではないでしょうか?
バイオリンやチェロの弦は金属やガット(羊の腸)、胡弓や二胡の弦は絹なのに対し、馬頭琴は弦も馬の尻尾でできています。いずれも、現在は傷みにくいナイロンで代用する場合もありますが、さすが馬頭琴は騎馬民族の国・モンゴルの楽器という感じがしますね。
馬頭琴の胴部分も、現在では木製が多いですが以前は馬の皮が張られる場合もあったようです。ちなみに、馬頭琴は馬由来の材料が多いだけでなく演奏の中でも馬の走るリズムやいななきを真似た音を出すことがありますよ。
伝統芸能・ファブリックの世界でも
最後に、伝統芸能の世界や布製品の製造過程で使われる馬毛について触れていきたいと思います。歴史あるものほど馬毛が使われている可能性が高いかも…?
能面・神楽面など
能や神楽などで使われる面には、頭髪やヒゲなどを表現するために馬の毛が使われています。また、そのほかの郷土芸能でも舞手の頭部などに付ける装飾として馬の毛で作った冠やたてがみのようなものをつけることがあります。
乗馬をやっているとあまり「日本に馬が少ない」というイメージが無いかもしれませんが、やはり馬が農耕や物流のパートナーとして活躍していた時代に比べると飼育頭数は激減しています。そのため、伝統芸能の世界では道具を新調するときに昔よりも馬の毛が手に入りにくくなったという苦労もあるようですね。
織物・服飾品の芯
麻や綿を縦糸、馬の尻尾の毛を横糸に使った織物を「馬巣(ばす)織り」と呼びます。布としてはかなり硬めの仕上がりになるので、その耐久性からソファーなど家具用のファブリックとして活用されてきました。
また、服飾品の製造現場では帽子や襟の芯材として馬巣織りの生地が利用されるほか、その丈夫さを生かしてバッグなども作られています。
まとめ
身近なものから高価なものまで、意外と幅広い分野で馬毛が活躍している!ということがお分かりいただけたでしょうか?馬は昔、人間にとって身近な動物であったため尻尾やたてがみもさまざまな材料として利用されてきました。現在は金属や化学繊維などで代用されている物も、元をたどると馬毛が利用されていたということもあるかもしれませんね。