あまり知られていない馬の性別の秘密?
馬房に表示された性別を見ていると「牡」や「牝」ではなく「セン」という表示があると思います。乗馬を始めたばかりの頃「セン馬って何?」と気になったことがある人も多いのではないでしょうか?今回の記事では、馬の性別による差やセン馬のメリットについて解説します!
馬にはオスとメス以外の性別がある!
馬には3つの性別がある?
今回のタイトルを見て「え?動物の性別ってオスとメスだけじゃないの?」と驚いた人も多いのではないでしょうか?もちろん馬が特別というわけではなく、生まれたときにはオスとメスしかいません。
しかし、競走馬の情報や乗馬クラブの馬房を見るとオスである牡馬(ぼば)、メスである牝馬(ひんば)の他に「セン馬」と表示された馬がいます。
実は、このセン馬というのは“去勢したオス”のこと。しかし、なぜわざわざ牡馬とは区別して呼んでいるのでしょうか?その理由を考える前に、少し牡馬と牝馬の特徴を見てみましょう。
牡馬と牝馬の体格差
まず、人間でも平均身長は女性よりも男性の方が大きいですよね。馬も同じで、平均的にはオスの方が少し身体が大きいとされています。サラブレッドの場合、オスの平均体高は161cm、体重は468kg。一方メスは体高159cm、体重448kgが平均値です。
オスは見るからにムキムキ!というわけではないのですが、オスの方が筋肉量が多い傾向にあります。そのため、競馬ではオスの馬の方がウエイトの斤量は+2kg重いものを付けて走っているそうですよ。2kgというとかなりのハンデに思えますが、人間と馬の体格差を考えれば馬から見た2kgは人間にとっての200gくらいですね。
気が荒いのはどっち?
どんな動物でもそうですが、雌雄による気性の差以上に個々の性格差は大きいものです。そのため、一概に「どちらが気が荒い」と決めることはできないのですが・・・ここからは、一般的に言われているオスとメスの性格差についてお話しします。
もともと、馬は数匹のメスと1匹のオスで群れを作って暮らしていました。そうした状況下では、オスには群れ全体を守る縄張り意識の強さや闘争心が求められる場面もあったと考えられます。そのため、基本的にはオスの方が気性が荒い傾向があるようです。
ただし、一方でメスの方がテンションのムラが激しいと言う人もいます。競技前に興奮しすぎてしまうと余計な体力を消耗してしまうので、このあたりは特に競馬をやっている人は気になるところかもしれませんね。
出られる試合に差はあるの?
乗馬では、基本的に馬の性別によって試合のエントリーが制限されることはありません。一方の競馬では、桜花賞やエリザベス女王杯など牝馬だけが出られるレースがあります。逆に牡馬だけに限定されたレースというのは今のところありませんね。
比較的制限を受けることが多いのはセン馬です。もちろん牝馬限定のレースには出られませんし、クラシックレースや一部のGIにも出走できません。
なぜかというと、こうしたクラシックやGIは繁殖牡馬の選定を兼ねていた…という歴史があるからなんです。ちょっとかわいそうな気もしますが、繁殖能力のないセン馬たちは参加の権利が得られないわけですね。
第三の性別「せん馬」のメリットは?
落ち着いた気質
牡馬と牝馬の差が分かったところで、その中間とも言えるセン馬のメリットについて見てみましょう。
まず、去勢すると男性ホルモンの量も減ります。これによって、オス特有の気性の荒さが抑えられて人間からの指示も入りやすくなるというのが一番のメリットでしょう。もちろん、もともとメスではないのでテンションのムラなども少ないと言われています。
さらに、現在は牝馬の発情期は薬などで軽減できますが、牡馬は発情期の牝馬が近くに居ると落ち着きが無くなったり集中力を欠いてしまいがちです。セン馬はそうしたこともないので、いつでも安定した力を出しやすいと言えるかもしれません。
柔軟な身体
体格や筋肉量には恵まれている牡馬ですが、身体の柔軟性に関しては牝馬に劣ると言われています。これは男性ホルモンの働きによりオスのほうが筋肉が大きく固く発達しやすいため、可動域が多少狭くなるというのが主な理由のようです。
しかし、セン馬は男性ホルモンの割合が非常に少なく女性ホルモンが優位になります。その結果、もとは牡馬でありながら牝馬に近い柔軟性が手に入るわけですね。
筋肉や関節が柔軟ということは、伸びのある動きができてバネも強いので運動能力も向上します。さらに、しなやかな筋肉はケガや故障の予防にもなるので馬から見てもメリットはあると言えますね。
デメリットは無いの?
良いことずくめに見えるセン馬ですが、去勢手術をするデメリットは無いのでしょうか?
まず、人間視点で競走馬の世界を見てみると ①優秀な成績を残しても種牡馬にはなれないこと ②一部の大きなレース(日本ダービーや皐月賞など)に出られないことが代表的なデメリットです。
しかし、もう少し馬に寄り添って見てみると一番のデメリットはやはり「手術のリスク」でしょう。もちろん、獣医師の技術や治療に使われる道具の利便性などは年々向上しています。そのため成功率も非常に高く、怖がり過ぎる必要はないと言えます。
ですが、リスクがゼロの手術は存在しません。まれに創部からの感染など術後合併症が起きたり、麻酔によるショックを起こしてしまう馬がいることも事実です。また、術後は急なホルモンバランスの変化により一時的に人間の更年期障害のような症状が出る馬もいるそうですよ。
馬主さんの中にも「健康なのに手術なんて可哀想!」「リスクがあるなら去勢したくない!」と感じる人はいるはずです。ただし、気性が落ち着き発情も抑えられるというのは馬にとって暮らしやすくなることでもあります。また、乗馬クラブや牧場内で計画外に牝馬が妊娠するというトラブルを予防するためにも去勢は有効です。
もし当事者になったら、メリットとデメリットをよく知った上で愛馬の将来を見据えて選択しましょう!
せん馬の名馬たち
乗馬の世界では、セン馬は珍しくありません。2021年に開催された東京オリンピックでも入賞を果たした馬の多くがセン馬でしたね。しかし、日本の競馬界ではまだまだ牡馬のほうが多いのが現状です。そのため、自然と強い馬にも牡馬が目立ちますね。でも「セン馬も頑張ってるよ!」ということで、最後は名馬として名を残したセン馬たちを紹介します。
レッドデイヴィス
大きなレースでの勝ち星こそないものの、クラシック三冠を制した名馬・オルフェーブルを破ったという伝説を残す“影の最強馬”レッドデイヴィス。競馬では珍しく、デビュー前に去勢したというのも当時とても注目されていましたね。
レガシーワールド
なかなか有名なレースで勝ち星を挙げるチャンスが少ないセン馬。しかし、レガシーワールドはジャパンカップを制し、日本調教馬としては初めてGⅠで勝ったセン馬となりました。有馬記念でも2着と見事な成績でしたね。
マーベラスクラウン
調教中も騎手を振り落とすなど気性の荒さが目立ちましたが、去勢したことで落ち着きが出たマーベラスクラウン。こちらもジャパンカップを制し、セン馬としてはレガシーワールドに続いて2頭目のGⅠウィナーとなりました。
まとめ
牡馬を去勢して「セン馬」にすると、気性の荒さが抑えられるだけでなくケガのリスクも減るなど多くのメリットがあります。日本の競馬界にはまだまだセン馬は少ないですが、そのなかでも好成績を残している競走馬が居るので要チェックですね。乗馬の世界ではよく見かける性別なので、皆さんも馬房に行ったら馬の性別に注目してみてください!