【白色はかなり貴重?】馬の毛色と遺伝
白馬といえば「白馬の王子様」という言葉があったり、伝統的なお祭りで「神様が乗る馬」として登場したり、ちょっと特別な感じがしますよね。今回の記事では、毛色の種類のほか、白毛の馬が生まれる確率・白馬と呼ばれる馬の種類などについて解説します。
馬の毛色の種類
みなさんの中には「乗馬ライセンスの学科のために毛色をたくさん覚えた!」という思い出がある方もいるのではないでしょうか?まずは、白毛も含めて馬にはどのような毛色があるのか一気に紹介していきます!
サラブレッドに見られる毛色
最も毛の色が濃いのは青毛(あおげ)です。馬には「黒毛」という毛色はなく、真っ黒い馬を青毛といいます。
また、サラブレッドといえば「茶色っぽい馬が多い」というイメージがあるかもしれませんが、茶色の馬は大きく鹿毛・栗毛の2グループに分けられます。
鹿毛は身体全体が茶色く、膝・飛節から先がグラデーションのように黒くなっていくのが特徴で、色の濃いほうから順に青鹿毛(あおかげ)・黒鹿毛(くろかげ)・鹿毛(かげ)の3つに分けられます。
一方、栗毛は足先まで体幹と同じような色をしています。栗毛のなかでは栃栗毛(とちくりげ)のほうが少し色が濃く、栗毛(くりげ)のほうが薄いです。
そして、いわゆる「白馬」と呼ばれることがあるのは葦毛(あしげ)・白毛(しろげ)の2種類です。白毛が生まれつき白い体毛を持っているのに対して、葦毛は黒・茶のような濃い色で生まれて年齢とともに毛が白くなっていくのが特徴です。
その他の毛色
サラブレッド・アラブ馬の多い乗馬クラブにいるとなじみがないかもしれませんが、馬の毛色は上記以外にもいくつかあります。
公益社団法人日本馬事協会の「馬の毛色及び特徴記載要領」では、ここまで紹介した毛色に加えて下記の6つが明記されています。
・粕毛(かすげ)
・駁毛(ぶちげ)
・河原毛(かわらげ)
・薄墨毛(うすずみげ)
・月毛(つきげ)
・佐目毛(さめげ)
粕毛・駁毛とは、特定の毛色のことではなく今回紹介する毛色の馬のなかで、色のある毛に白い毛が混ざって生えるものをいいます。
粕毛は、体毛全体が本来の色より少し薄く見えるような、色のある毛の中にまばらに白い毛が混ざるタイプです。一方、駁毛は白い毛がまとまった部分に生えて、ウシのように色のある毛と白い毛がはっきり分かれているような状態です。
河原毛は黄褐色~亜麻色と幅が広いですが、鹿毛のように足先が黒っぽく、また尻尾やたてがみも黒いという特徴があります。
薄墨毛の毛色は河原毛とよく似ていますが、尻尾やたてがみは黒い個体もいれば体毛と同じ色の場合もあります。背中に比べると腹部のほうがやや色が薄いことが多いでしょう。
月毛は名前のとおり月のようなクリーム色から黄褐色の毛色で、尻尾やたてがみは体毛よりもやや薄い色の個体が多いです。とても色が薄く佐目毛に近いものもいますが、佐目毛には水色の眼をした色素の薄い個体が多いのに対し、月毛の瞳は茶色をしています。
佐目毛は、肌がピンク色で毛色は白という点では「白毛と同じ」といえるかもしれません。しかし、白毛の馬は黒~茶色の目をしていることが多いのに対して佐目毛の馬は美しい水色の目であることが多いです。
遺伝
馬の毛色には、遺伝的要素が深くかかわっています。毛色の発現には数種類の遺伝子が関係していますが、今回は白馬に重点を置いて白毛・葦毛の遺伝についてみていきましょう。
白馬の発現にはKITという遺伝子の変異が関係しており、一方の葦毛にはSTX17という遺伝子の変異が関係していることが明らかになりました。どちらの遺伝子も優性遺伝する遺伝子なので、両親のいずれか(もしくは両方)が白毛であれば白毛の仔馬が生まれる可能性があります。上の図でいうと、メスが持つグレーの遺伝子が白毛の遺伝子としたら、4頭の子馬のうち枠がグレーに塗られた2頭は白毛ということになります。仕組みとしては、葦毛も同様です。
ただし、白毛の馬が葦毛の遺伝子を持って生まれた場合、もともとの色が白いため葦毛は発現せず白馬になります。そのため、この白馬とほかの馬の子どもは白馬でなく葦毛になる可能性もありますね。
白毛馬の種類と確率
では、純粋な白馬ともいえる「白毛馬」はどれくらいの確率で生まれてくるのでしょうか?日本国内で毛色について正確な記録があるのはサラブレッドくらいなので、今回はサラブレッドについてみていきます。
白毛馬の中には、先ほどお伝えしたように遺伝によって生まれてくるものと、白毛馬ではない両親から突然変異として生まれるものがいます。
どちらも合わせて、白毛の出現確率は歴代の競走馬の中で0.04%ほど。この数字だけみても、白毛馬がかなり貴重なのが分かるでしょう。しかし、先ほどの遺伝の話からも分かるように白毛は決して生まれにくいわけではありません。
では、なぜ少ないかといえば全体に占める白毛馬の数自体が少ないので、おのずと繁殖牝馬・牡馬になる白毛馬も少なくなるからです。しかし、2023年10月に白毛で初めてのGⅠ優勝を飾った“純白の女王”ソダシが引退し、繁殖牝馬になるというニュースが流れたので、今後優秀な白毛の競走馬が増える可能性は十分に考えられるでしょう。
白毛と芦毛の見分け方
白毛は非常に貴重なので、葦毛も含めて「白馬」と呼ばれることが多いですよね。年を取ってからの葦毛は毛色で判断するのが難しいほど真っ白になりますが、見分ける方法はあるのでしょうか?
実は、意外と簡単な見分け方として地肌が黒いのが葦毛、地肌がピンク色なら白毛という違いがあります。もし見分けに迷ったら、鼻先など毛の短い部位を観察してみましょう。ちなみに、この写真の馬は「葦毛」です。
まとめ
皆さんは、どんな毛色が好きですか?馬にはいろいろな毛色がありますが、多数派である茶色系の毛色は自然界で目立ちにくく生き残りやすい色であったため現在も頭数が多いのだと考えられています。逆に、白毛は珍しい毛色ですが美しく、人間の飼育下では好んで繁殖されることもあるため目にするチャンスもあるかもしれません。馬の種類によってもよく見られる毛色は異なるため、乗馬クラブ以外でも日本在来馬・ポニーなど色々な馬をぜひ見てみてくださいね。