プロヴァンス地方で生きる「カマルグの白い馬」
南フランス・カマルグに生息し「フランス最後の野生馬」と呼ばれるカマルグ原産の馬たち。謎に包まれた部分も多く、また日本ではあまり知られていない品種といえるでしょう。今回は、このカマルグ馬について掘り下げていきます。
「カマルグ馬」の起源
日本で野生に近い状態の馬といえば、在来種である御崎馬(みさきうま)が有名です。フランスの野生馬も、同じく古くからその土地に根付いてきた馬なのでしょうか?まずは、カマルグ馬の歴史や分類についてみてみましょう。
カマルグ馬の歴史は古い
カマルグ馬の歴史は非常に古いとされ、一部の研究者のあいだでは「彼らは旧石器時代後期に人間たちが狩っていた馬の子孫ではないか」と考えられています。旧石器時代後期といえば、有名な「ラスコーの洞窟壁画」が描かれたとされる時期ですね。
そこからどのような経路をたどって馬たちがカマルグ地域にたどり着いたかは、明らかになっていません。しかし、身体的な特徴や考古学的な資料からバルブ種・アラブ馬・ケルトポニー・モンゴル馬のほか、すでに絶滅したターパンと関連が深いのではないかと考えられています。
カマルグ馬の分類と広がり
カマルグ馬は非常に強健であることから、かつては過酷な土地に連れて行く軍馬を作出する目的で交配に用いられたようです。そのため、カマルグ馬の血を引く品種は多いと考えられます。
一方、純粋なカマルグ馬について品種基準が定められたのは1976年と意外と最近の話です。現在フランス国内では、カマルグ版カウボーイともいえる「ガーディアン」に管理された半野生の群れに生まれたカマルグ馬を最も純粋な「カマルグ馬」としています。
また、上記の「カマルグ馬」と生物学的な違いはありませんが出生集団によりカマルグ・オー・マナード(Camargue hors manade)と呼ばれるカマルグ馬たちがいます。オー・マナードとは「群れの外」という意味で、カマルグ地域で生まれたものの、ガーディアンに管理された特定の群れ以外で生まれた馬たちです。
そして、カマルグ地域外で生まれたカマルグ馬をカマルグ・オー・ベルソー(Camargue hors berceau)と呼びます。このオー・ベルソーとは「ゆりかごの外」という意味だそうです。これらのカマルグ馬は細かく区別されているものの、いずれもカマルグ馬としてスタッドブック(種牡馬台帳)に登録されています。
さらに、カマルグ馬はフランス国外にも広がり、イタリアではポー川周辺の地域でカヴァロ・デル・デルタという在来種として扱われています。ほかにも、イギリスには「英国カマルグ馬協会」が設立され、イギリスで生まれたカマルグ馬たちが台帳で管理されています。
生態と身体的特徴
では次に、カマルグ馬たちの生態や特徴について紹介していきます。日本ではなかなか野生馬を見るチャンスがありませんが、彼らはどのような生活をしているのでしょうか?
カマルグ馬の生態と生活
カマルグ馬が生息しているのは、フランスとスイスにまたがる「ローヌ川」のデルタ地帯です。デルタとは河口にできる体積地形で、水が豊かな湿地帯であることが多いでしょう。ローヌ・デルタも例外ではなく、馬たちが飛節のあたりまで川に入っている光景もよく見られます。
他の野生馬と同様、カマルグ馬は1頭のオスと複数のメスによる集団を作って生活しています。群れで生まれた仔馬たちは一定の大きさに成長するまで群れで暮らしますが、オスの仔馬たちは成体になったら群れにいられません。子孫を残すためには他の群れを率いるオスと争い、その群れを自分のものにしなければならないという厳しい世界です。
カマルグ馬の特徴
カマルグ馬は綺麗な白い体毛におおわれ、豊かな尻尾とたてがみを持っています。馬の地肌の色は品種などによって変わりますが、カマルグ馬の皮膚は黒色です。そこに白い毛が生えているため、水に入って身体が濡れると灰色に見えます。
自然の中にいると大きく見えるかもしれませんが、体高は135~150cm。ポニーの基準が「147cm以下」であることから考えても、小ぶりな馬であることが分かると思います。ガッチリと筋肉質で身体も強く、40年以上生きることもあるそうです。
また、蹄は硬く足裏の幅が広いという特徴もあります。この足先の形状は湿地帯に住むカマルグ馬ならではの特徴で、ぬかるんだ地面を走るときにも足が沈みにくくなると考えられています。
生まれた時の体色は黒?
カマルグ馬は自然のなかを美しく駆け巡る「白い馬」として有名です。そのため、カマルグ馬の仔馬を見た方はビックリするかもしれませんが、なんと幼いカマルグ馬の毛色は黒鹿毛もしくは青毛かというほど濃い色をしています。地肌が黒く年齢とともに体毛が白くなるという点は、葦毛の馬たちと似ていますね。
カマルグ馬の役割
カマルグ地域で闘牛用のウシを飼育する「ガルディアン」たちは、アメリカでいうカウボーイのように馬を乗りこなして牧畜を行います。カマルグ馬の役割は、このガルディアンのパートナー。
ウシたちを半野生環境から闘牛場まで移動させる際も、トラックは使いません。カマルグ馬にまたがった複数のガルディアンがウシを囲みながら街中を疾走します!これを「アブリバド」と呼び、闘牛とともにプロバンス地方の名物にもなっているそうですよ。
そのほか、穏やかな気質・高い俊敏性・体力などの特徴から馬場馬術・エンデュランスなどでも使用されることがあります。
まとめ
フランス・カマルグの湿地帯で生活する「カマルグ馬」は、白く美しい毛と屈強な身体を持つ馬です。穏やかで忍耐強い性格・小柄な体・硬い蹄といった特徴は、日本の在来馬とも少し似ていますね。
自然の中で見るワイルドな姿も、闘牛に際してガルディアンたちと共に働く凛々しい姿も、とっても魅力的です。みなさんも、カマルグ馬のことを知るうちに「本物を見てみたい!」と虜になってしまうかも?