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【5,000万年のはるかな旅】馬の祖先と進化の道のり

馬たちの美しい姿を見ていると、ふと「馬の祖先はどんな姿をしていたんだろう」「何年前から今の姿になったの?」と考えることはありませんか?

今回は馬の祖先たちがどのような進化の道のりをたどってきたか、ご説明します。

ウマはヒトと遠い親戚、イヌやクジラと近い親戚

【5,000万年のはるかな旅】馬の祖先と進化の道のり

馬は、哺乳綱 奇蹄目 ウマ科 ウマ属に分類され、学名はEquus ferus caballus 。

哺乳綱は、カンガルーなどの有袋類、ハリモグラなどの単孔類、そして馬やヒト、ゾウなどを含む真獣類の3グループに分けられます。つまり、馬はヒトと共通の祖先を持つ遠い親戚。

さらに真獣類は、ゾウなどのアフリカ獣類、ナマケモノなどの異節類、ヒトなどの真主げつ類、そして馬やイヌ、クジラなどを含むローラシア獣類の4グループに分けられます。
見た目は似ていなくても、馬はイヌやクジラと共通の祖先を持つ、ヒトよりは近い親戚ということになります。

ちなみに、奇蹄目にはウマ科以外にサイ科とバク科が含まれます。

(参考文献:長谷川政美.系統樹をさかのぼって見えてくる進化の歴史.初版,ペレ出版,2014,191p)

【5,000万年のはるかな旅】馬の祖先と進化の道のり

およそ5,000万年前に誕生した馬の祖先「ヒラコテリウム」

【5,000万年のはるかな旅】馬の祖先と進化の道のり

ヒラコテリウムの誕生

三畳紀後期に出現した哺乳類は、中生代末の古代生物の大量絶滅を生き延びました。
恐竜がいなくなったことから、新生代には鳥類や哺乳類が繁栄します。
暁新世には草食の原始的な有蹄類が登場。
始新世前期、今からおよそ5,000万年前に最古のウマ科の動物、ヒラコテリウムが誕生します。

ヒラコテリウムの特徴

ヒラコテリウムは体高40~50cm、前肢が4本指、後肢が3本指。
木が多い環境を好み、草ではなく木の葉を食べる葉食性で、葉や木の芽をすり潰すのに適した低冠歯(見えている部分が短い歯)が生えていました。
頭蓋骨の前面に眼があり、現在の馬の頭蓋骨とはかけ離れた形をしていました。

別名「エオヒップス」、学名の秘密

頭蓋骨の化石の鑑定を行ったイギリスの生物学者リチャード・オーウェンが、頭蓋骨の特徴などからイワダヌキ科のハイラックスに近い生物と判断して“ハイラックスのような獣”を意味する「ヒラコテリウム」と1841年に命名。
その後、北米で全身骨格が発見され、四肢の指先に小さな蹄があることから1876年に“始新世のウマ”を意味する「エオヒップス」と名付けられましたが、命名順が優先されるため、正式な学名はヒラコテリウムとなっています。

絶滅した仲間「プロパレオテリウム」

上の写真は、ドイツで発掘されたプロパレオテリウムの化石。
ヒラコテリウムの近縁で、独自の進化を遂げたパレオテリウムの祖先にあたり、バクのような体型です。
当時のヨーロッパは亜熱帯。プロパレオテリウムは植物が生い茂る森林に生息し、木の葉を食べていました。

完全に3本指となった「メソヒップス」

【5,000万年のはるかな旅】馬の祖先と進化の道のり

始新世中期から漸新世前期頃、前後肢ともに3本指のメソヒップスが登場しました。
体高60~70cm、中央の指が両側の指に比べ明らかに長くなります。
肢も長く、ヒラコテリウムより速く走ることができるようになりました。

前臼歯が現れ、草をすり潰すのに適した歯に少し近付きましたが、低冠歯のまま。
硬い草を食べると歯がすり減ってしまうので、まだ草食性にはなっていません。

森林から草原へ。環境にあわせて進化する体

【5,000万年のはるかな旅】馬の祖先と進化の道のり

草原で暮らすために大きく進化した「メリキップス」

中新世前期から中期にかけて、気候は乾燥し、森林が減って大草原が拡大します。
森林の柔らかい木の葉や芽から、草原の硬い草を食物として利用できるよう、臼歯が高冠歯(見えている部分が長い歯)のメリキップスが登場。

草原は森林より姿を隠す場所が少ないため、肉食獣をいち早く見つけて、素早く走って逃げなければなりません。これまで頭蓋骨の前面についていた眼は、側面に移動して広い視野を獲得。

また、細かく分かれていた下肢の骨が融合して丈夫になり、速く走っても肢をひねらないように進化しました。
前後肢ともに3本の指は残っていましたが、両脇の指はさらに小さくなり、中央の指の蹄だけで体を支えていたと考えられます。

体高はおよそ1mとメソヒップスより大きくなり、長い首と頭を持つ現在の馬の姿に近づいてきました。

1本指を獲得した最初のウマ「プリオヒップス」

中新世中期から後期にかけて、完全な1本指を獲得したプリオヒップスが登場。
体高およそ1.5mとさらに大型化し、両側の2本の指はほぼ退化しました。
プリオヒップスは現在の馬に最も近い生物と考えられています。

100万年前にようやく「エクウス f. カバルス」へ

現在の馬、エクウス f. カバルスが登場するのは更新世。
それ以前に多様な分化が起こり、各地域へと分布を広げていたウマの系統の多くは絶滅し、現存しているウマ属の動物は、馬とロバ、シマウマのみとなってしまいました。

地質年代絶対年代
(万年前)
学名特徴
新生代第四期更新世258~1.17エクウス f. カバルス現代の馬
新第三紀鮮新世533~258
中新世
中〜後期
1,598~533プリオヒップス体高150cm
全ての肢が1本指
エクウスと似た容姿
中新世
前〜中期
2,303~1,163メリキップス体高100cm
全ての肢が3本指
中央の指が体重を支える
眼の位置は顔の側面
高冠歯で草食性
古第三期漸新世3,390~2,303メソヒップス体高60〜70cm
全ての肢が3本指
低冠歯で葉食性
前臼歯あり
始新世5,600~3,390ヒラコテリウム
(エオヒップス)
体高40〜50cm
前肢は4本指、後肢は3本指
眼の位置は顔の前面
低冠歯で葉食性
暁新世6,600~5,600(原始的な有蹄類が出現)
中生代白亜紀14,500~6,600(恐竜絶滅)
ジュラ紀20,100~14,500(恐竜の繁栄)
三畳紀25,200~20,100(哺乳類出現)
馬の進化(地質年代は国際年代層序表に準ずる)

(参考文献:富田幸光ほか.絶滅哺乳類図鑑.第2刷,丸善株式会社,2002,p140-145)

まとめ

現在の馬の姿とはかけ離れていたヒラコテリウム。そこから5,000万年もの長い時間をかけ、環境の変化に合わせて体を進化させてきました。

北米にはたくさんのウマ科動物が生息していましたが、今から12,000〜11,000年前に一度絶滅したことが確認されています。その原因については、気候変動による食物不足と、人間による狩猟という2つの仮説が立てられているとのこと。

馬たちが今後も血筋を繋ぎ、在来馬など多くの品種が維持されるよう、人間に何ができるのか考えたくなります。

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