馬の妊娠から出産まで
乗馬を習っている人でも、あまり立ち会う機会がない馬の出産。私たちが乗っている馬たちは、どのように生まれてくるのでしょうか?今回の記事では、馬の妊娠期間や、生後間もなくの様子などを紹介します。
馬の妊娠期間
私たち人間の妊娠期間は、およそ280日間とされています。一方、ネコの妊娠期間はわずか65日間ほど。動物によりかなりの差がある妊娠期間ですが、馬は一体何日間くらいなのでしょうか?
妊娠期間は人より長い
馬の平均的な妊娠期間は330~340日(約11カ月)。人間と比べると、平均50日ほど長いです。妊娠を経験した人ならば「あんなに動きにくくて体調も大変な期間が、人間よりも1カ月半も長いの?大変そう…」と感じるかもしれませんね。
「3歳までの馬は人間の6倍の速度で成長する」「馬の30代は人間に換算すると80~90代」と言われていることから考えても、母胎の中で過ごす馬の赤ちゃんにとって50日は人間で言うと6カ月くらいの感覚かもしれません。
馬の中でも品種によって体格差はありますが、ミニチュアホースは約340日、身体の大きなペルシュロンも約350日と妊娠期間にはあまり差がないようです。
馬の出産
馬の胎児は、一般的に背中を下にした状態で母馬のおなかの中にいます。しかし、出産間近になると外の世界に出てくる準備として、背中が上になるように子宮内で回転。その頃から母馬の落ち着きがなくなり疝痛のときに似た様子を見せます。
人間の赤ちゃんも産道をうまく通過するために分娩まで何度か回転しながら出てきますね。お母さんが陣痛を感じるとともに胎児の第一旋回が始まると言われているので、疝痛と同じく辛そうに前掻きしている母馬も陣痛を感じているのだと考えられます。
それから間もなく破水が起き、30分ほどで仔馬が生まれます。同じ草食動物でもヤギや羊は一度に2~3頭の子供を出産しますが、馬は1度の出産で1頭の子馬を生むのが一般的です。
妊娠期間が長い理由
身体の大きな動物は小動物に比べると妊娠期間が長い傾向にあります。また、馬に限らず草食動物は、肉食動物と比較して妊娠期間が長いようです。
例として、いくつか動物の妊娠期間を比べてみましょう。身体の小さい動物から見てみると、ネズミは約20日、ウサギは約30日。ライオンは約110日(3.5カ月)、陸上最大の肉食動物とされるホッキョクグマは約200日(6.5カ月)です。馬と同じく草食の家畜であるウシは270日(9カ月)前後で、馬より少しだけ短いようですね。
身体の大きさと妊娠期間の関係に関しては、おそらく寿命が関係していると考えられます。ネズミのように体の小さな動物は寿命が3~5年と短く、簡単に言えば時計の針が他の動物の何倍もの速度で進んでいる状態です。そのため、妊娠期間も短いのは自然なことかもしれません。
そして、草食動物の妊娠期間が長いのは、生まれてすぐに天敵から逃げることができる身体能力が必要だから。馬は生後間もなく立つことができるので、人間でいえば生後8~9カ月くらいの状態まで身体が出来上がってから生まれてきていると考えて良いでしょう。
妊娠に適した年齢
野生の馬は2歳を迎える前に妊娠することもあるため、生物学的には1歳を過ぎれば妊娠することができると考えられます。しかし、飼育下にある馬の場合は母馬になる馬の身体的な負担や仕事での活躍なども考慮して2歳以上で繁殖を始めるのが一般的。
そして馬は10代半ばで人間換算での45歳を迎えるとされているので、人間の感覚で「無理のない妊娠・出産年齢」を考えれば10代前半までと言えそうです。
ただし、競馬界での最高齢出産記録は25歳。人間でいえば70代での超高齢出産です!しかも、25歳の母馬から生まれた競走馬として有名な“ピンクカメハメハ”は、なんとサウジアラビアでダービーを制覇!健康に生まれてきてくれたことが分かりますね。
生後間もない子馬の様子
最後に、生まれたての子馬の様子と数時間での成長について見てみましょう。出産と育児という母馬にとってデリケートな時期、飼育している人はどのようにかかわっているのでしょうか?
生後数時間で走ることができる!
胎内では羊水に包まれていた子馬は、お湯をかぶったように濡れた状態で外の世界に出てきます。子馬を産み落とした母馬は、子馬の身体に付いた膜や水分を取るように舐めてあげます。親子の絆を感じるひとときですね。
母馬は子馬を守り、また立ち上がろうとする子馬の支えになるように子馬のすぐそばに立って見守ります。初めは首だけしか起こせなかった子馬も、よろめいたり転んだりしつつも立ち上がろうと踏ん張って、1時間ほどで立つことができるようになります。
その後は生後2時間前後で母乳を探し当て、初めてのミルクを摂取。3時間ほど経てば、少し不安定ではありますが走ることもできちゃいます。「草食動物は生後間もなく立ち上がることができる」と知っていても、この成長速度を実際に見るとビックリ&感動ですね!
母馬や人間との関係性
生まれたばかりの子馬が一生懸命に立ち上がろうとしている姿を見ると、手伝ってあげたいという気持ちになるかもしれません。しかし、生後間もないこの時期は母馬が子馬を「自分の子」と認識する大切な時間でもあります。
そのため、人間は少し距離を保ちながら母親が適切に面倒見ることができているか、母子ともに健康状態に変化などは無いか見守ることが多いようです。そして、子馬が自分で自由に動けるようになったら人間も直接的なかかわりを持ち始めます。
その後は、母馬との関係を妨げない程度に頻繁に世話をする必要があります。特に生後3日目までに努めて手をかけることで、子馬は人間という存在に信頼感を抱きやすくなるそうですよ。
まとめ
成長速度は違えど、人間と共通点もある馬の妊娠・出産。どんな風に生まれてきたのか、どう成長してきたのかを知れば、いつも乗っている馬たちがさらに愛おしく思えるのではないでしょうか?もし馬の出産に立ち会えるチャンスに恵まれたら、ぜひ実際に見てみてくださいね!