可愛いすぎ、仔馬の成長過程
皆さんは、馬の赤ちゃんを見たことがありますか?繁殖を行っていない乗馬クラブも多いので、乗馬をやっていても見たことが無いという人が意外と多いかもしれません。今回の記事では、生まれて間もない馬の体重や離乳の時期、仔馬にとって放牧が大切な理由などを解説します。
生まれた時の体重は?
多くの馬は春から初夏にかけて妊娠し、翌年の春から初夏に出産します。これは飼育下でも野生でもほぼ同じで、生まれたばかりの仔馬が厳しい暑さや寒さにさらされないちょうどよい時期です。妊娠期間は約330~340日なので、人間より少しだけ長いです。
サラブレッドやアングロアラブなど乗馬クラブでよく見かける品種は、出生時の体重が50~60kgほど。大人の馬に比べればもちろん小さいですが、生まれたばかりですでに人間の大人と同じくらいの体重があります。
ちなみに、ばんえい競馬や観光馬車で見かけるペルシュロンは出生体重65kg前後、ポニーは30kg前後、ミニチュアホースに至っては15kg前後しかありません。15kgといえば中型犬(柴犬など)の成犬と同じくらいなので、かなり小さいですね。
知っている人も多いかもしれませんが、馬は生まれて数時間経つと自分で歩けるようになります。これは牛やヤギなどの草食動物と同じで、野性では生後間もなくても肉食動物から逃げる必要があるためです。
離乳時期の目安
仔馬はすくすくと成長して、やがて離乳の時期を迎えます。馬は生後どれくらいで、どのように離乳していくのか見ていきましょう。
身体的な条件
離乳のための第一条件は、母乳に頼らず十分な栄養を摂れることです。では、その状態まで成長するために、具体的には生後何か月くらいかかるのでしょうか?
生まれたばかりの仔馬にとって、唯一の栄養源が母乳です。しかし、生後10日~2ヶ月ほど経ったところで固形の飼料や牧草を与え始めます。そこから徐々にたくさんの飼料を食べられるようになり、それにつれて必要な母乳の量は減っていきます。
離乳の目安となる食事量は1~1.5kg。この量の飼料を食べられるようになれば、母乳なしでも十分な栄養を摂ることができるとされています。ちなみに、この量を食べられるようになるまでにかかる期間は4~6ヶ月ほどです。
また、離乳に関しては食べられる量だけなく体重も1つの目安となります。離乳を始めるのに適切な体重は220kg以上です。半年もしないうちに体重が4倍近く増えるなんて、仔馬の成長スピードはすさまじいですね。
離乳には親離れも重要
馬が離乳する際には「もう母乳を飲まなくても栄養的には大丈夫」と判断されると、母馬を仔馬から引き離します。そのため、身体的には問題が無くても精神的に親離れできていないと、ストレスから体重が落ちてうまく離乳できないことがあります。
では、仔馬はどれくらいで精神的に自立を始めるのでしょうか?生まれて3週間くらいの間は、母親にすぐ駆け寄ることができる半径5mほどのエリアが仔馬の行動範囲です。しかし、3週間を超えると徐々に母親から離れた場所まで行動範囲を広げます。
最終的に、ほぼ自由に行動するのは生後3ヶ月半~4ヶ月くらい経った頃。ここまでくれば、精神的に親離れできたと言えそうです。離乳の際は、同年に生まれた仔馬同士を群れのように過ごさせるなど仔馬のストレス軽減に努めます。
放牧の必要性
仔馬は、離乳する前から放牧を始めます。広い放牧場で過ごす姿は確かに気持ちよさそうですが、早い時期から放牧すると仔馬にはどのようなメリットがあるのでしょうか?
運動量を確保する
成体の馬でも、馬房に閉じこもったままでは運動不足になってしまうので放牧したり、乗馬クラブで生徒さんが少ない日にはインストラクターたちが騎乗して運動させたりします。
仔馬も体が小さいとはいえ、馬房の中で生活しているだけでは運動量が足りません。また、調教が始まっていない仔馬は人の指示で運動させることも困難です。そのため、健康のための運動としては放牧が理想的です。
また、放牧場で馬同士が競うように自由に走り回っているときは、人間が運動させる以上に筋肉や関節をよく使います。実際に、仔馬の頃から放牧を続けた馬は放牧を行わなかった馬と比べると骨や腱が丈夫になるそうですよ。
こうして基礎体力を付け骨や関節も強くしておけば、調教が始まってからも馬の身体への負担は減りますしケガでつらい思いをするリスクも下がりますね。
社会性を身に付ける
仔馬がたくさん生まれる牧場では、放牧の際に同じ年の仔馬同士を一緒に放牧します。これは、仔馬にとって飼育下にありながら群れで生活するチャンスです。群れに順応する中で、仔馬には自然と社会性が身についていきます。
他の馬との折り合いが悪いと部班や放牧での扱いも難しいので、たとえ普段は個々の馬房で過ごすとしても馬の社会性を深めることは重要です。
ストレス解消も大切
ここまでは「将来のために体力や社会性を付けて…」と、ちょっと英才教育的な理由になってしまいましたが、放牧することは仔馬自身のストレス解消にもなっていると考えられます。
例えば、放牧中に寝そべっている仔馬をよく見かけます。自由に過ごす中で、駆け回るだけでなく休息を取るのも大切なこと。青草の上で眠っている仔馬は本当に気持ちがよさそうで、こちらまで癒されます。
ちなみに、日光浴をすると気持ちが良いだけではなく体内でビタミンDなどが合成されるそうです。現在は便利な飼料もあるので食事で摂取することも可能ですが、放牧場での日光浴も積極的にさせたいですね。
まとめ
馬は春から初夏にかけて生まれることが多く、母親と過ごす期間を経て4ヶ月ほどで離乳します。仔馬はその間に、母親や同年代の仔馬たちとの関係性の中で体力や社会性を身に付けていきます。乗馬クラブでは仔馬に関わる機会が少ないかもしれませんが、こうした成長過程を知ると人と馬だけでなく馬同士の関係性がいかに重要か実感できるはずです。