【知ってほしい】引退した競走馬たち
競走馬を引退した馬たちのその後について、みなさんはご存知でしょうか。「乗馬用の馬になる」「食肉用になると聞いたことがある」など少しの知識はあるかも知れません。
華々しい世界で活躍した馬たちの余生、是非とも幸せなものであってほしいと考える人も多いと思います。
そんな馬たちの引退後、セカンドキャリアについて紹介します。
引退した馬たち
競走馬は人間の娯楽である「競馬」というスポーツのために、人為的な交配によって繁殖・飼育されています。サラブレッドの生産は年間で7000頭以上。そのうち競走馬登録される馬は毎年5000頭弱です。さらに3歳のうちに一定の成績が収められない馬は別の道を行くこともあります。
その中で予定通り競走馬となって活躍した後、引退した馬たちがどのような生活を送っているかご存知でしょうか。サラブレッドの平均寿命は25年。残念ながら競走馬は「生涯現役!」というわけにはいかず、5~6歳、遅くとも7歳を迎える頃には引退します。馬の5~6歳は人間の23~28歳です。人生まだまだという頃、引退した馬の余生はどんなものなのか紹介します。
余生は悠々自適?
人間も「老後は悠々自適に過ごしたい」と考える人も多いと思います。しかし一方で老後に不安を感じている人も多くいます。
では、引退した馬たちの余生はどのようなものなのでしょう。悠々自適に過ごすことができているのでしょうか。
5~6歳で引退なのでまだまだ老後ではありません。競走馬を引退した馬のセカンドキャリアとして挙げられる4つについて詳しく説明します。
繁殖馬
繁殖関係へ進めるのは、ほとんどが牝馬です。牡馬は、良い成績を残すか、良い血統でない限りは種牡馬にはなれません。
ではどれくらいの成績を残すと繁殖馬になれるのか。その割合はどれくらいなのか説明します。
繁殖馬になるためにはG1で何勝もする必要があります。そのG1で勝てるのは0.3%ともいわれています。繁殖馬への道は一握りの馬どころか一つまみにも満たない狭き門になります。
誘導馬
誘導馬とは、競馬場でパドックや馬場において競走馬を先導する馬のことです。その他にもパレードや楽隊を先導したり、馬場管理のため人を乗せたりすることもあります。また、競馬場で騎手を落として乗り手がいない馬をなだめたり、動かなくなった馬に寄り添ったりと、馬を落ち着かせる役目もあるため誘導馬の仕事は幅広くなっています。
そんな誘導馬は、レース前の馬たちと一緒に興奮しては仕事になりません。誘導馬には落ち着いた性質が求められます。また、見た目も重要視され芦毛が多く選ばれています。その他にも、知名度はあるが繁殖馬になれなかった馬が誘導馬になることもあります。
これらの仕事は、競走馬引退後、すぐに出来るわけではありません。さまざまな状況でも誘導馬として活躍できるよう、誘導馬になるために改めてトレーニングされます。
乗用馬
引退した馬の転職先として有名なのが、乗馬クラブではないでしょうか。しかし、競走馬と乗用馬では求められるものが異なります。そのため、ここでも改めてトレーニングを行う必要があります。
例えば、それまではひたすら速く走ることを教えられていた馬を、初心者でも安全に乗せることができるようにならなければなりません。また、競争馬は障害物を跳ぶことがなかったため、ジャンプすることも新たに覚えることになります。
このようなトレーニングは馬の気質を見ながらプログラムが組まれ、半年~1年ほどかかるといわれています。その間の餌代、世話やトレーニングをする人の人件費、そして時間もかかることからすぐに受け入れられる乗馬クラブは限られています。
このように私たちが普段お世話になっている乗馬クラブの馬たちは、どんな人が乗っても安全に乗馬を楽しむことが出来るように、改めてトレーニングを受けた馬たちなのです。
セラピーホース
ここ数年、馬の転職先として「セラピーホース」という職業が出来てきました。海外ではポピュラーな職業ですが、日本ではまだまだポピュラーな職業とはいえません。
このセラピーホースとは、アニマルセラピーの一つであるホースセラピーに使われる馬です。ホースセラピーは精神機能・運動機能に障がいを抱えている人が馬とふれあうことで不安・恐怖感・攻撃的傾向を減少させるためのものです。
また乗馬をすることで腹筋・背筋・足腰などの筋肉を鍛え、内臓を刺激することからも内臓機能を向上させる効果もあります。
人によっては騎乗するのが難しい場合、馬の世話や厩舎管理をするだけでも責任感・自立性・協調性などの社会性が養われ、また出来る範囲のお世話を継続的にすることで運動機能の向上にも効果的です。
このセラピーホースになるために必要なものは、競走馬のように速く走ることでもなく、障害物を跳ぶスキルでもありません。人間との信頼関係ができており、人懐っこいこと、大きな音がしても反応しないほどの穏やかな性格が求められます。
悲しい現実も…
人間が人為的な交配によって生産された馬たち。そんな馬たちの命を、人間の都合で絶たせてはいけないと多くの人が思いますよね。しかし、そのような悲しく残酷なニュースもあります。
では、なぜそのようなことが起きてしまうのか。そこには、様々な問題があります。
例えば、自分が所有する牧場で1頭の馬を引き取りたいと考えた場合、餌代の他にも馬房の床材などの費用が毎月3~8万円程度、年間にすると100万円程度かかります。その他にも、馬の世話や馬房の掃除など時間もかかります。
乗馬クラブに預託する場合は、世話などの時間はかかりませんが、預託金や獣医の費用、装蹄の費用などを合わせると年間200万円かかるといわれています。
その金額を1年や2年ではなく、馬が生きている間、支払い続けることができるか、まだまだ若い馬より自分が長生きする自信があるか、などを考えると引き取るというのは簡単なことではありません。
「引退した馬たちを支援したいけれど、馬を引き取るのはハードルが高い!」そんな人もいると思います。実はもう少しハードルが低い、支援の方法があることを知っていますか。自分たちができる支援について紹介します。
支援の輪
引退した馬を支援する団体や支援の方法は複数あります。
例えば認定NPO法人引退馬協会では、寄付の受付以外にも、自分に合った種類の会員となり支援する方法・実用的且つかわいらしい馬のグッズを購入して支援する方法・ボランティアとして支援する方法などがあります。ボランティアとしてもイベント運営の補助・経理・レポーター・IT関連など多種多様なものがあります。
その他にもTCC(サラブレッドコミュニティ)という団体でも支援をすることができます。こちらの団体は競走馬の一口馬主システムを引退馬にも応用した支援をする団体です。つまり、多くの支援者がいるからこそできる制度で、支援する一人一人のハードルはそれぞれが決めることができます。
引退馬を支援する団体は、これだけではありません。支援の輪は広がっています。気なる支援の方法を探してみると新しい発見があるかも知れませんね。
まとめ
競走馬の引退後、セカンドキャリアとして繁殖馬・誘導馬・乗用馬・セラピーホースなどがあります。しかし、簡単に転職できるわけでなく再トレーニングが行われます。
中にはセカンドキャリアに就けず、悲しい最期を迎える馬もいます。競走馬として、人間に楽しみを与えてくれた馬たちが安心して余生を送れる環境を、人間が作っていく必要があります。
支援の方法はさまざまです。また支援=(イコール)寄付だけではありません。それぞれに合った支援方法で馬たちを支えることができます。