馬の呼吸法
馬の鼻は柔らかくて、暖かくて気持ちいいですよね。つい触りたくなってしまいます。実は、馬はその鼻からしか呼吸ができないことを知っていますか?そして、これが長い距離を速く走れる理由でもあるのです。今回はそんな馬の鼻について深掘りしていきます。
馬は鼻呼吸しかできない
競走馬は鼻血(外傷性を除く)が出るとしばらく出走できないのは、ご存じでしょうか。初めての出血なら1ヵ月、2回目なら2ヵ月、3回目なら3ヵ月と厳しく出走が制限されます(日本中央競馬会の場合)。これも実は馬が鼻からしか呼吸できないのが理由です。馬が強い運動をすると、血圧が上昇して肺の血管を傷つけてしまい、肺で一定量、出血したものが鼻血としてみられます。肺で出血すると鼻血として現れる途中で、血が気道を狭めてしまい、呼吸をしづらくなり力を発揮できないと言われており、このルールが定められています。
暑いときや負荷の高い運動をしたあとに、パートナーの鼻が大きく膨らんでいるのをみたことはありませんか?馬が酸素を鼻からたくさん取り込もうとしているからなんです。そのため、鼻が大きく動いている馬は休ませたり、体を冷やしてあげたりする必要があります。このように、鼻の動きを観察すると、馬の呼吸の状態をある程度は把握することができます。
口呼吸ができない理由
馬が口で呼吸できないのは、喉の構造のためです。主に呼吸に関係してくる「喉頭蓋(こうとうがい)」と「軟口蓋(なんこうがい)」の位置に関係があります。喉頭蓋は食べ物を飲み込む時に気管に入ってしまうのを防ぐ蓋の役割をしています。この役割がうまくいかないと「誤嚥(ごえん)」がおこり、人間では肺炎を引き起こすことも。軟口蓋は鼻腔に食べ物が入っていくのを防ぐ役割をしています。人間の場合はこの2種類の「蓋」が離れた場所に位置しているのですが、馬の場合は接しており、食べ物を飲み込む時以外は口と鼻が隔てられています。そのため、鼻は呼吸をする器官、口は食べる器官と差別化されているんです。そのかわり、鼻腔は人間より太くて長いため、人間より多くの酸素を効率的に取り込める構造になっています。だから、馬たちは長い距離を速く走れるんですね。
しかし、鼻とつながる喉に障害があると呼吸が苦しくなってしまいます。競走馬で俗に「喉鳴り」と言われる「喘鳴症(ぜんめいしょう)」は競走能力に大きく影響する可能性もある症状です。いくつか原因疾患はありますが、その代表例が喉頭片麻痺。喉の片方の神経がマヒをしてしまうことにより、喉の空気の通り道が狭くなり、苦しくなります。レースをしているときに「ヒューヒュー」と鳴ると言われています。グレードは1〜4までありますが、一番重いグレード4でも症状の出ない馬もいるのだとか。
もう一つは軟口蓋の背方変位(DDSP)。軟口蓋の下に喉頭蓋が入り込んでしまい、呼吸が苦しくなる疾患です。こちらは走った時に「ゴロゴロ」といった湿った音がすると言われています。しかし、この疾患は成長とともに喉頭蓋が発達し、自然治癒する馬も多い病気なんだそうです。
競走馬のセリでは上場馬の喉のエコー動画が撮影され、購買希望者やその代理人が喉の動きを確認できるようになっています。それだけ、鼻や鼻とつながっている喉は馬にとって大切な器官なんです。どちらの疾患も程度によっては、外科的処置を施すこともあります。
走っているときの呼吸法
駈歩時や襲歩時の馬の呼吸は1完歩1呼吸だそうです。それには馬の体重のかなりの部分を占めると言われている臓器の重さが関係してきます。前肢が着地しているときはブレーキがかかっており、馬の臓器は前方にある肺の方に移動するため、馬は息を吐いているのだそうです。前肢が地面から離れて、臓器が肺から離れていくタイミングで息を吸っているため、1完歩で1呼吸になります。襲歩時に2.5完歩/秒かかるとすると、1分間に150回以上も呼吸をしていることになるそうです!馬によっては肢の回転数が高いピッチ走法を取る馬もいるので、走り方によっても呼吸数が変わってきそうですね。疲れてくると酸素を多く取り込む必要があるので、スピードを落として1完歩にかかる時間を伸ばして、たくさん空気を吸おうとしているそうです。
1完歩に2呼吸することはできないそうですが、息を止めることはできるそうです。スタートして、数完歩は息を止めて走っている馬もいます。喉の病気であるDDSPの馬たちは走行中に息を止めることがあるのも分かっています。息を止めて、飲み込む動作をすることによって、喉頭蓋が変位から本来の位置に戻るからだそうです!
まとめ
いかがでしたか。私たち人間にとってチャームポイントである馬の鼻は、臭いをかぐだけでなく、命をつなぐために発達してきた大切な器官でもあったんですね。また、馬が鼻でしか息ができないため、ハミを口に入れても呼吸に影響しないという側面もあるようです。馬の鼻が発達をしてきたから、乗馬が楽しめるようになったとも言えるのかもしれません!