馬の視野と角度にビックリ!ほぼ全部見え
草食動物は人間や肉食動物に比べて視野がかなり広いと言われています。この記事の前半では、実際どれくらいの範囲が見えているの?馬の瞳が横長なのは何か関係がある?といった疑問にお答えします。後半では、馬を脅かさずに近付くコツも解説しますので、ぜひ参考にしてくださいね。
馬の目の位置がポイント
馬の目と私たち目の位置を比べると、馬の目は顔のほぼ真横に付いています。一方、私たち人間は顔の正面に目がありますね。この違いは、それぞれが野生だった頃の暮らし方の違いによるものだと言われています。
人間の祖先や猿の仲間は樹上生活をするなかで、入り組んだ木の枝の間を移動しやすいよう遠近感を正確に把握する必要がありました。また人間が狩りをするようになってからも、獲物を追うにあたって距離というのは重要です。
この距離を知るためには、両目で見たものが“重なる”必要があります。そのため、立体的に物を見る必要がある動物は、両目の視野の大部分が重なるように顔の正面に目が付いているわけです。
一方、馬だけでなく多くの草食動物は肉食動物から逃げなければなりません。つまり、立体感よりも広範囲を見ることが重要になります。その中で、顔の両脇に目が付いている姿になったと考えられます。
私たちの身近にいる犬や猫は肉食動物なので目は正面に付いていますが、自然界を見てみると意外と目が横に付いている動物のほうが多いかもしれませんね。
瞳孔が横向きで視野を確保
明るいところで馬の瞳を見ると、瞳孔が横長なのがよく分かると思います。動物の種類によって瞳孔の形はさまざまですが、なぜ馬の瞳孔は横長なのでしょうか?
はっきりとした理由は分かっていませんが、一説には「眩しい中で瞳孔が括約しても広い視野を保つため」と言われています。確かに、人間のように丸い瞳では眩しくて瞳孔が小さくなるとき、全ての方向から均等に瞳孔が狭まるので幅も狭くなってしまいます。
一方、馬の場合は瞳孔が上下に狭まるため、眩しい場所でも瞳孔の横幅はほぼ変わりません。縦長の猫の瞳孔が、左右に狭まっても上下の幅はほぼ変わらないのと同じですね。瞳孔の幅により視野がどれくらい狭まるのかは分かりませんが、たしかに肉食動物には横長の瞳孔を持つ動物は少ないので視野と瞳の形には深いかかわりがありそうです。
ちなみに、同じく横長の瞳孔を持つ動物としては牛やヤギ、ヒツジ、シカなどが挙げられます。また意外なところでは、これらの偶蹄類から見て遠い仲間にあたるクジラも横長の瞳孔を持っているのだとか。他の動物の瞳孔も、どんな形なのか気になってきますね。
馬の視界はグルっと350度
ここまでの話で、馬の目は視野を重視して進化を遂げてきたことがお分かりいただけたと思います。ところで、実際のところ馬の視野(正面を向いたまま見える範囲)はどれくらい広いのでしょうか?
私たち人間の視野は、約200°とされています。それに対して、馬の視野はなんと約350°!お尻のあたり以外はすべて見えているということになります。人間は左右に各60~70°首を回せることを考えると、私たちが首を動かして見回せるくらいの範囲を馬は正面を向いたまま見ることができるということですね。
さらに、少し馬が振り返れば真後ろも視野には入ります。ですが、人間も視界の端に「人がいるな」と何となく認識していても、いきなり肩を叩かれれば驚きますよね。それと同じく、視野の限界である腰角より後ろから触れたり近付かれたりすれば、馬も驚きます。
馬は驚くと身を守るために蹴ることもあり危険です。馬に安心してもらうためにも、自分がケガをしないためにも馬を驚かさないようにしましょう。
馬を驚かさない近づき方
では、馬に近付くときはどのような点に気を付けたら良いのでしょうか?大切な3つのポイントをおさらいしてみましょう。
よく見える方向から
まずは、今回のテーマでもある“視覚”に関することからです。先ほどもお話ししたように、馬の視野が広いといえど真後ろはもちろん死角になります。また、視野の端は正面ほどはっきりと見えているわけではありません。こうした見えにくい位置から近付くことは避けましょう。
近付くときは「馬によく見える前方から」が基本です。さらに、皆さんは馬を曳くときや世話をするとき、基本的には馬の左側に立つことが多いと思います。そのため、右側から近づいても大きな問題はありませんが、どちらかといえば左前方から近付くのが一番良いと考えられます。
ちなみに、世話をする中で馬の後ろ足付近や真後ろに立つこともあると思います。そうした場合も、前から近付いて身体などに触れながら「今後ろにいるのはさっき前から近付いた私だよ」と馬が分かるように動きましょう。
ゆっくり近づく
馬は視界の中で急に動くものに強い警戒心を見せます。例えば、人が駆け寄ったり大きく手を振ったりすると、驚いて後ずさったり耳を伏せて不快感を顕わにする馬もいるほどです。特に、走って近づくと人間の動きだけでなく足音に驚く馬も多いでしょう。
前方からゆっくりと近づき、できれば馬のほうからにおいを嗅ぐなど「誰かな?」と認識するための時間を与えられると良いですね。馬は記憶力が優れているため、頻繁に合う人間はちゃんと匂いや顔を覚えているとも言われています。
声を掛けながら
3つめのポイントは、声をかけることです。馬は視覚と共に聴覚も優れているため、声や音に敏感に反応します。そのため、声を掛けながら近づくと、馬も「この人は私の所へ来たんだな」と認識してくれます。
声掛けの内容には特に決まりはありませんが、名前を呼んでいる人が多いかもしれませんね。馬への声掛けは、興奮した馬を落ち着かせる時と同様に、ゆっくりと落ち着いた低めの声が良いそうです。
反対に、急に高い声や大きな声を出すと、馬は脅かされたような気持ちになるはずです。愛馬に1週間ぶりに会えるのは嬉しいですが、馬にとって「いつも来ては脅かしていく人」になってしまわないように落ち着いて声を掛けましょう。
まとめ
馬をはじめとする草食動物は、自然界で生き残るために広い視野を持っています。その広さは約350°と言われており、見えないのは尻尾の周辺だけといっても良いかもしれません。
しかし、その広い視野ゆえに視覚的な刺激には驚きやすいという一面もあります。また、腰角から後ろは馬にとって“死角”となっているので、そちらから近付かれることを嫌います。
馬に近付くときには「馬に見えやすい角度から」「声を掛けながら」「ゆっくり」近づきましょう。そうすることで、馬が安心するだけでなく事故の防止にもなります。