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蹄鉄の基本知識

馬に関するツールとして一般的に広く知られている蹄鉄。
装蹄という技術はおよそ2500~2600年前のヨーロッパで生まれました。当時輸送手段であった馬が長距離を歩く際、蹄が過剰に摩耗するのを防ぐために発明されたと言われています。
ラッキーチャームとして用いられることも多くあり、馬と言えば蹄鉄を思い出す方も多いのではないでしょうか。
ヨーロッパでは蹄を守ることからお守りとして、イタリアでは古い言い伝えから富のシンボルとして、また縁起のいい数字とされる「7」本の釘で打ち付けることから幸運の象徴にもなっています。
日本ではもとより馬そのものを吉兆としていて、基本的に人を踏まない性質=安全と考え、安全運転のお守りとする習慣も見受けられます。
馬にとって必要不可欠な蹄鉄、実際はどのようなものなのでしょうか。わたしたちも知っておいて損はありませんから、今回は蹄鉄について理解を深めていけたらと思います。

蹄鉄の役割

蹄鉄の基本知識

蹄は第2の心臓とも言われる大切なところ。着地する時に蹄が開き、脚を上げる時に蹄が元通りになることで血液を押し戻し、ポンプのような働きをして血液循環をサポートしています。

その蹄につける蹄鉄の役割は主に2つです。

まず1つは「蹄の保護」。
もともと輸送手段としての馬の蹄を守るためというのは前述の通りですが、今の時代において馬は輸送よりも乗馬や競走馬としての役割を多く占めています。乗馬や競馬では人間を乗せて走ることが多く、蹄にも大きな負担がかかります。蹄鉄はその負担を軽くするための保護具。
馬にとって蹄鉄を装着するということは、わたしたちが靴を履くのと同じだと思えばイメージしやすいですね。
蹄の裏が金属製の蹄鉄によって守られ、蹄の削れ過ぎや裂蹄、病気を起こすのを防いでくれます。

さらには馬が立っている時の脚の状態(肢勢)の矯正や治療補助を目的として、特殊な装蹄がほどこされる場合も少なくありません。

そしてもう1つは「運動能力向上」です。
蹄に蹄鉄を装着すると地面をしっかりと蹴ることができるので早く走れるようになりますし、障害馬術では踏み込みが安定し、より高い障害を飛越できると言われているそう。
まさにパフォーマンスの進化を求められる現在の馬に合致する用途と言えるのではないでしょうか。

このように蹄鉄は馬のコンディションを整え、高いパフォーマンスを発揮するため、今も昔も欠かせないものとなっています。

競走馬、乗用馬、野生の馬では使う蹄鉄が異なる?

蹄鉄の基本知識

実は馬がどのような目的で歩いたり走ったりするのかによって使う蹄鉄が違います。

競走馬ではアルミニウム合金製の蹄鉄を使用するのが一般的。JRA(日本中央競馬会)の規定で、レースで使用する蹄鉄には重量制限が設けられているので重い蹄鉄は使えません。
かつては調教時に鉄製のものを使用し、レース時にアルミニウム合金のものに打ち替えていましたが、蹄にかかる負担が難点でした。
今は100gほどと軽く、2~3週間の耐久性を持ち、日常生活も調教時もレース時も使用できる「兼用蹄鉄」が主流になっています。

乗用馬では鉄製の蹄鉄を使うのがほとんど。鉄製の蹄鉄はアルミニウム合金のものに比べて重いですが対摩耗性に優れており、滑りにくいという利点があります。
また蹄鉄の中でも特殊なものとして通常の蹄鉄に突起が複数ついている「クランポン」があります。
これはサッカーや野球でのスパイクシューズと同じようなもの。日本の競馬では突起は2mm以下と規制があるので使用できませんが、乗用馬では蹄鉄に規制がなく、主に障害馬術競技やクロスカントリーなどで使用されています。

野生の馬はもちろん蹄鉄を装着していません。しかし厳しい自然界を生き抜くために速く走ることよりも長く走るための進化を遂げた結果、野生の馬の蹄は固く丈夫になりました。
また蹄が伸びた分は走り回るうち摩耗していくのでお手入れはいりません。
このような理由で野生の馬には蹄鉄が必要ないのです。

交換の手順

蹄鉄の基本知識

蹄鉄の交換は装蹄師の仕事になります。どのような工程で行われるのでしょうか。

まず「除鉄」といって、古い蹄鉄を外します。

次に蹄鉄をきれいに装着するために、伸びた蹄を切って整える「削蹄」をします。おおまかに蹄を削った後に細かく切り揃え、やすりを掛けるように蹄を平らにしていきます。この時ただ整えるのではなく、その馬の歩様の癖や重心の位置によって消耗しやすい部分と消耗しにくい部分を見極め、多少の高低差をつけるようにします。

削蹄が終わると新しい蹄鉄をその馬の蹄の形に合わせる作業です。蹄鉄はあらかじめ馬蹄形に整形されていますが、個々の馬に合わせて修正が必須。装蹄師は微妙な形状を読み取り、手鎚で叩いて蹄鉄の形を合わせていきます。
さらに乗馬では修正した蹄鉄を熱して蹄に押し付ける「焼付け」を行います。焼付けには蹄鉄と蹄をより密着させ、そして殺菌作用が得られるというメリットがあるそうです。
競走馬の蹄鉄はアルミニウム合金を使用しているので、焼付けは行わずに形状修正した蹄鉄がそのまま蹄に装着されます。
気になるところだと思いますが、馬の蹄は熱を伝えにくく火傷することはないそうなのでご心配なく。

ここまでで新しい蹄鉄の準備が整いました。いよいよ蹄釘(ていちょう)という特殊な釘を装蹄槌(釘を打つハンマー)で打ち付けて装着します。蹄の表面に出た釘は抜けないように先端に傾きをつけ、仕上げに蹄釘の断端をなめらかにしたら完了です。

蹄に釘が打ち付けられていく様は一見痛そうに思いますが、馬の蹄の先端近くには痛覚がないので痛みは感じません。ですが痛覚がない範囲だけに釘を打ち付けるのは難しく、装蹄師には熟練された技術が要求されます。
また蹄がボロボロにならないよう、前回と釘の位置をずらすという工夫もされています。

交換のタイミング

蹄鉄の基本知識

蹄鉄を交換するタイミングは馬の状態によって変わりますが、目安としてはこの通り。
・乗用馬、競技用馬は1ヶ月~1ヶ月半
・中央競馬の競走馬は2週間程度
・地方競馬は2~3週間程度
蹄鉄の痛みが激しかったり、蹄のバランスが悪くなっていればもっと短いスパンで取り替えることもあります。
逆に蹄鉄がそれほど摩耗していなかった場合でも定期的な蹄鉄の交換、伸びた蹄の整形はしなくてはなりません。蹄が伸びた状態では関節や筋肉、腱、靱帯にトラブルを引き起こす可能性が高くなるためです。

まとめ

馬の脚を支える蹄を守る蹄鉄。馬が生き生きと健康な生活を維持するため、またパフォーマンスの向上ため、知れば知るほどとても重要なパーツだということが分かりました。
見慣れたものだと思いますが、ふとした時に重要性を再確認できるといいですね。

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