動いてくれない馬の動かし方
乗馬を始めて何鞍か騎乗してみると、馬の特徴が見えてきます。その中でも気になるのが、動いてくれない馬です。優しく声をかけてみても、お腹を蹴ってみても動いてくれない、それなのに他の人が乗るとしっかり動いていることがあります。
そんな場面を目にすると、「どうして私のときは動いてくれなかったの?」「自分って乗馬にむいていないのかも」など、落ち込んでしまうこともあります。
ここでは、動いてくれない馬がなぜ動いてくれないのか、また動かすために必要なことを説明します。
馬が動くときの理由
馬は「お腹を蹴られたら進む」というように調教されているため、騎乗する人間は「前に進むときには、脚を使って馬のお腹を蹴る」と教わります。それなのに動いてくれない馬もいるのはなぜでしょうか。場所が悪いのか、力が弱いのか、試行錯誤する人も多いでしょう。
そもそも、なぜ馬はお腹を蹴られると動くのでしょうか。
馬はなぜ動くのか
馬のお腹を蹴ることで前に進む理由を、蹴られると痛いから動くのではないか、と考える人もいると思います。しかし、実際は「蹴られて前に進めばプレッシャーがなくなり、楽になる」ということを調教の際に何度も経験しているため、楽を求めて前に進んでいるのです。
馬も楽になりたい
馬が動く理由が「プレッシャーから解放されて、楽になりたい」ということがわかれば、いくら強く、何回も蹴って苦痛を与えても動くことはないということがわかります。
また、馬も楽になりたいから動いていることが分かれば、乗り手の人間も動かない馬に対して何か対策ができるのではないでしょうか。
馬が動いてくれないときの理由
馬が動いてくれないとき、焦ってしまったり、何がいけないのかパニックなってしまうこともありますよね。馬が動いてくれないとき、考えられる理由がいくつかあるのでその例を紹介します。冷静に馬への対応を振り返ってみましょう。
その1:人間の指示が伝わっていない
馬を動かすには、脚を使って馬のお腹に指示を送ることが必要です。しかし、この指示を人間が送っているつもりでも、馬に伝わっていなければ馬は動きません。
指示の送り方に問題がないか、確認してみる必要があります。
その2:進んでも楽になれないと思っている
馬が動く理由には、前に進んだら楽になれると思っているからです。ところが、進んでも楽になれないと思っていたらどうでしょう。動く気もなくなりますよね。
また、なかなか進んでくれない馬は、「やっと動き出してもすぐに止まってしまう」という傾向があります。
人間にしたら「やっと動いてくれたのにどうして止まるの?!」とさらに焦りがでてきます。
しかし馬にしたら、進んだら楽になれると期待していたのに、進んでも楽になれないと思うと動く気もなくなり止まってしまうのです。
その3:動かなくてもいいと思っている
人間も動かないといけないときと動かなくてもいいときってありますよね。朝起きるときにも、時間にまだ余裕があれば「起きたくない、もう少しゆっくりしよう」と思うでしょうし、予定の起床時間を過ぎていれば「起きないと!」と動き出します。
馬もレッスン中に「動きたくない、動かなくてもいいか」という気持ちになることもあります。そのときに、意識を動かないといけないというように変える必要があります。
例えば、寝起きが悪い家族を起こすようなイメージで「今は動く時間だよ」と馬にアプローチをする必要あります。馬に対する具体的なアプローチの仕方を説明します。
動かない馬を動かすために必要なこと
動かない馬を「動かないと!」と意識させ、実際に動かすために必要なことはいくつかあります。ここからは具体的は方法を説明します。
指示をもっと強く出す
寝起きの悪い家族を起こすとき、最初はやさしく優しく起こしていても、なかなか起きないと声が大きくなってきたり、口調が強くなってきたりします。そうするとやっと起きる。
起こされる方としては、最初は「はいはい、おきますよ」なんて空返事をしていたところ、相手の変化によって、「そろそろ起きないとまずいぞ!」なんて気持ちも対応も変わってきます。
馬も、指示が出ていることはわかっていても「動かないと!」という意識がないと動きません。その意識にもっていくには、指示をもっと強く出してみることです。
指示を強く出すことで、馬に反抗されることを怖がる人もいます。確かに、馬も乗っている人間が危険な人だと思えば、人間を振り落としてでも逃げるでしょう。しかし、動いてもらうためにはもう少し強い指示が必要なことがあります。力を調整しながら試してみましょう。
また指示の出し方には、脚を使う方法のほかに鞭を使う方法があります。しかし、馬によっては鞭が嫌いな馬もいます。まずはインストラクターなどスタッフに相談してみることもおすすめです。
指示を細かくたくさん出す
人を起こすときにも、一度起こして起きられる人もいますが、なかなか起きられない人もいます。そんな人に対しては、何度もしつこいくらい起きるように声をかけると思います。
動かない馬に対しても同じように細かく指示を出し続けましょう。ポイントとしては、馬が活動を始められるくらい、意識がしっかり覚醒するまで継続することです。
この方法は、そんなに大きな力でやり続ける必要はありません。少しの力で継続することが大切です。そのため、指示を強めに出すことが苦手な場合は、こちらの方法を試してみるのもおすすめです。
放っておかない
せっかく頑張って起きても、何もすることがないと気持ちよく二度寝したくなったりしませんか。馬も「頑張って活動します!」と思っても、何もすることがないと「それならもう少し休みます」とやる気も落ちてきます。
そうならないためにも、馬を放っておかないようにしましょう。最初の頃は話を聞くなど待つ時間が多かったり、ただ歩くだけの時間が多く、馬を放っておく時間が多くなりがちですが、そんな時間も馬にメッセージを送り続けるようにします。
リーダーは人間
乗馬は馬と人間が一緒に楽しむスポーツですが、馬が動いてくれないとどうしようもありません。そこで「馬が動いてくれないし、仕方ない」と諦めるわけにはいきません。
乗馬では、人間がリーダーで馬をコントロールします。馬が「動きたくない」と思っても動くようにコントロールするのがリーダーである人間です。
そのための方法として、指示を強く出したり、細かく出し続けたりすることも必要ですが、まずは人間が「馬を動かす」という気持ちを強く持つことも大切です。
馬の気持ちになって考える
馬を動かすため、人間は脚を使い指示を出します。この指示を扶助ともいいます。つまり扶助の意味を考えると馬の動きに力を添えて助けてあげられるように脚を使うことが求められます。扶助は馬にとっても、動きを助けてくれるため楽になります。
では、具体的にどのような脚の使い方が馬にとって楽になるのでしょうか。馬の気持ちになって考えてみましょう。
まず、ホールド力をアップさせるため脚の広い範囲を使うようにします。踵だけでなく、膝から下のブーツ全体の範囲を使うように意識します。騎座が安定してきたら、太ももや股関節までの範囲も意識して広い範囲を使うようにしましょう。
そして、脚を少し後ろにずらしてみます。後ろにずらすことで、馬の後ろ肢周辺の筋肉に作用し、馬も後ろから前に踏み込みやすくなります。
またインストラクターから「下から持ち上げるように」と教わったことはありませんか。これも馬にとっては楽になります。前に進むためには荷物が軽くなると楽になるイメージです。人間が脚の広い範囲を使い、下から持ち上げるようにすることで、馬の体が引き上げられ楽になるのです。
このように人間の動きが馬にとってどのように働くのかを考えてみると、気持ちの余裕も出てくると思います。
馬を動かすことに焦らず、馬の気持ちになって考えてみることも大切です。
まとめ
馬が動いてくれないと焦ってしまったり、落ち込んでしまったりすることがあります。しかし、馬にとっては動く理由も動かない理由もあります。なぜ動いてくれないのかを考えてみましょう。
そして馬を動かすために必要なこともあります。馬の気持ちを考えながら、自分がリーダーである意識を持ち対応することが大切です。