騎乗時に目線を上げる理由
みなさんも、乗馬のレッスン中に「目線を上げて」とアドバイスされたことがあるのではないでしょうか?そう言われても、手綱や手前が気になって「どうしても下を見てしまう」という人もいるかもしれません。今回の記事では、騎乗中に目線を上げたほうがよい理由と、正しい目線の目安について詳しく解説していきます。目線の高さに悩んでいる人はもちろん、姿勢がなかなか整わないという人も参考にしてみてくださいね。
危険度を下げる
目線を上げるべき理由の1つめは、安全な騎乗につながるからです。なぜ目線を上げると危険度が下がるのか、視界が広がる・馬に意識が向くという2つの視点から解説していきます。
視界が広がる
騎乗中は「手綱を張れているか」「拳が寝ていないか」「馬の手前は合っているか」など気になることがたくさんあるので、どうしても自分の手や馬の肩に目が行ってしまいがちです。
しかし、目線を下げれば当然ながら視界が狭まり、これから向かう方向や周りの状況までは確認しにくくなってしまうでしょう。騎乗中は自分の姿勢以外にも、周りに障害物がないか、部班の場合は周りの人や馬との距離を保てているかなど、確認すべきことがたくさんあります。
そのため、視線を上げて周りの環境を確認しやすくなることで「気付いたら障害物や周りの馬にぶつかるほど近づいてしまっていた」といったトラブルを防ぐことができるはずです。
馬に意識が向く
騎乗中の事故やヒヤッとした体験は、馬が驚いたり怯えて急に動いたタイミングで起こりやすいといわれています。馬が驚くのは止められないかもしれませんが、馬が何かを急に警戒したことに気付けば、急な動きの中でもバランスを取る準備はできるでしょう。こうした馬の気持ちに気付くサインとなるのが、耳の動きや視線の向きです。
このサインを見逃さないためには、視線が馬の顔や耳が見える程度まで上がっている必要があります。逆に、視線が下がっているときは馬の肩あたりに視線が向いているので馬の首から上にはあまり意識が向かず、馬が何かを警戒しているのにも気付きにくいため急な動きへの対処も遅れがちです。
なお、馬が周囲を警戒しているときには、周囲の音を探るように耳を落ち着きなくクルクル動かしたり、両耳をピンと立てて慣れない音がする方向に耳と視線を向けたりします。また、周囲の馬や人が近付きすぎたときは、耳をぺたんと伏せて威嚇することもあるでしょう。こうした様子に気付いたら、急な動きにも対処できるよう体勢を整えるなどの対策をしてみましょう。
正しい姿勢を保つ
目線を上げるべき理由の2つめは、目線を上げると正しい姿勢を保ちやすくなるからです。目線が下がっているとき、多くの人は目線だけが下がっているのでなく、頭もうつむき加減になっています。
うつむくと、頭のぶんだけ重心が前にずれるので、前傾しやすくなってしまいます。また、逆に姿勢は意識しているのに頭がうつむいてしまうと、バランスを取るために体幹はやや後傾気味になってしまうことも。すると、肩甲骨のあたりが猫背のように丸まり、正しい姿勢が保てなくなってしまうでしょう。
姿勢が崩れると、扶助が出しにくい・必要以上に疲れるとデメリットも大きいので、姿勢が気になったときも視線の高さも再確認してみてくださいね。
馬が動きやすくなる
目線を上げるべき理由の3つめは、目線を上げると馬が動きやすくなるからです。ここまで解説してきたことと重なる部分もありますが、どういうことなのか詳しく見ていきましょう。
余裕のある指示で動きやすい
おそらく、みなさんも道を歩いたり運転しているときに十字路に入ってから「右に曲がって!」といわれるよりも、十字路に差し掛かる少し手前から「そこを右に曲がって」といわれるほうが落ち着いて曲がれるのではないでしょうか。
馬も同じで、実際に手綱ではっきりと合図を出すのは曲がるときであっても、体重移動などで「次はこちらに曲がるのかな」と予測できてから手綱の扶助があれば落ち着いて曲がることができます。また、障害のコースなどで急なカーブがある場合などは、カーブがきついことを見越してカーブ前で少し外側にコースを膨らませると馬も曲がりやすくなるでしょう。
このように、早めに次の進行方向へ行く準備を始めたり、次の動きを見越したコースを馬に指示するためには、人間が進行方向の先を見据える必要があります。前述のとおり、目線が下がれば視界は狭くなってしまうので、先を見るには目線を上げるとよいですね。
バランスが整って動きやすい
目線を上げると馬が動きやすくなるもう一つの理由は、人間のバランスが整うから。先ほど解説したとおり、目線を上げると人間の重心は整いやすくなります。
騎乗者の重心がブレにくくなれば、馬も重心が予想外にずれることがないので動きやすいというのは想像がつくのではないでしょうか。また、騎乗者のバランスが整っていれば「扶助としての体重移動」とバランスの崩れを混同することが無くなり、馬の混乱も減るでしょう。
目線はどこに?
ここまで、騎乗中に目線を上げたほうがよい理由について解説してきました。では、具体的には目線をどのあたりまで上げればよいのでしょうか?
馬の耳のあいだ
乗馬クラブやインストラクターにより教え方や表現はさまざまですが、目安としては「馬の両耳のあいだから前方を見る」イメージが分かりやすいでしょう。ただし、馬の首の角度により耳のある高さは簡単に変わってしまうので軽快に走っている場合の耳の高さを目安にしてください。
部班では「前の人の頭」
馬の耳の高さは変わってしまうので分かりにくかったり、普段のレッスンは部班が多かったりという場合は、列を組んでいるときの「前の馬に乗っている人の頭の高さ」も目安になります。
ただし、部班では前の人だけでなく、そのさらに前の人が急に止まった場合に玉突き事故のようになってしまう場合があります。そのため、前の人の頭はあくまで目線の高さの目安にして、周囲の状況もしっかり見ることも大切です。
まとめ
騎乗中は「ちゃんとできているかな」と気にしなければならないことがたくさんありますよね。そのため、つい気になるところに目線も行ってしまいがち。ですが、目線を安定させることも上達の鍵になるので、少しずつ目線を上げて広い範囲を見渡せるように慣れていきましょう!