飴と鞭の使い分けが大切!
「馬は褒めるのと叱るのどちらが言うことを聞いてくれるのだろうか」と気になっている方は多いのではないでしょうか。しかし、どちらかが大きな効果を発揮するのではなく重要なのは「使い分け」。今回の記事では、馬にとって飴って何?馬に鞭を入れるのはかわいそうでは?といった疑問に答えていきます。
鞭を使うのは可哀想?
鞭に対して「言葉の通じない動物に痛みを与えて制御するための道具」というイメージがあるかもしれません。もしそうであれば、鞭を使うのはかわいそうですよね。では、実際のところ馬にとって鞭とはどのようなものなのでしょうか?
強く使えば馬も当然嫌がる!
馬に鞭を入れる際は、大体の方が「パシッ」っと音が鳴る程度の力で鞭を入れているのではないでしょうか。鞭に強い恐怖感や嫌悪感を抱いている馬でなければ、この程度の鞭で痛さに不快感を感じることはないといわれています。
しかし、もっと思い切り馬をたたけば当然馬も苦痛に感じます。そのため、安易に「言うことをきかない場合はこうすればいいのか」と認識しないように要注意。強く鞭を入れるのは最終手段で、馬にとっては嫌なことなのだと覚えておきましょう。
鞭はあくまでも「合図」
では「苦痛だから動いている」のではないとしたら、馬にとって鞭とはどのようなものなのでしょうか?
実は、鞭は合図のようなもの。馬は痛みにより従っているわけではなく、合図によって「いまが頑張ればいいときなんだな!」「人にもっと注意を向けるべきなのか」と気づいて扶助に反応してくれるようになります。
イメージとしては、人間同士で相手に話しかけても気付いてくれないからと、いきなりバシッと叩いたりしないのと同じです。このような場合、おそらくみなさんも声をかけてダメならば「気づいてる?」というように肩をトントンと叩くはずです。
それと同じく、鞭は「通常の扶助より少し強い合図」と認識することで、鞭を使用することへのイメージや鞭の使い方も変わってくるでしょう。
鞭を使うタイミング
では、実際に鞭が必要なのはどのような場面なのでしょうか?今回は、2つほど例を挙げて簡単に解説していきます。
推進の副扶助として
先ほどお話ししたとおり、鞭は馬に対して「注意を人に向けてね」という合図になります。そのため、脚扶助を出しても動きが重い場合などに使用することで、扶助への反応がよくなるでしょう。
このように、乗馬に少し慣れ始めた時期には「脚扶助に追加して馬を推進するための合図」というイメージで使用することが多い鞭。しかし、実はほかにも使えるタイミングがあります。
進行方向の調整
推進以外の鞭の使い道。それは、馬の進行方向の制御です。「あれ?方向を変えるなら手綱じゃないの?」と思った方もいるかもしれませんね。
たとえば、馬はそれぞれ得意な運動や不得意な運動があるため「左回りの時だけカーブが大きく外に膨らんでしまう」という悩みを経験したことはないでしょうか?
このような場合には、手綱を使って馬を右に向けるとともに、左に壁を作ることで右に小回りできるように誘導するのが基本的な対策ですね。
しかし、それでもうまくいかない場合は左手に鞭を持つことで、馬が左側を意識するようになりカーブが左に大きく膨らむのを防ぎやすくなるでしょう。
鞭を使うときの注意点
ここまで「鞭は馬を苦しめるためのものではない」ということと、鞭を使うことで馬の動きがスムーズになる場面についてお話してきました。
読んでみて鞭への抵抗感が少し和らいだ方もいると思いますが、やはり鞭を使用する上では注意しなければならないこともあります。
馬の反応を見ながら使用する
脚扶助への反応が良い馬と悪い馬がいるように、鞭への反応も馬によってそれぞれです。同じように鞭を入れても「重さがちょっと良くなったかな」程度しか変わらない馬もいれば、興奮したように走り出す馬もいるでしょう。
そのため、初めて乗る馬の場合にはインストラクターにあらかじめ鞭への反応について確認しておくことをおすすめします。また、実際に鞭を入れたときにも馬がどのような反応をするのか観察して、次に鞭を入れるタイミングでは反応に合わせて強さを調整しましょう。
なお、なかには鞭に強い不快感・恐怖感をおぼえている馬もいます。こうした馬は、実際に鞭を入れなくとも騎乗者が鞭を持っているだけで、大きな反応を見せる可能性が高いもの。
本当に必要な場合に短時間だけ鞭を使用して、動きが良くなったらすぐに鞭を持つのをやめて馬場の端に落としたり、途中でインストラクターに鞭を預けたりすることも検討しましょう。
必要ないときは鞭で馬を刺激しない
当然のことではありますが、馬が手綱や脚の扶助だけでしっかりと動いてくれる場合には鞭は必要ありません。むしろ、しっかり動いているときに鞭が当たると「ちゃんとやってるのにどうして!?」と馬が混乱する可能性もあります。
むやみに鞭を入れないことはもちろん、間違えて馬の身体に鞭が当たったり視界に鞭の先がチラつかないように、鞭を持つ位置・角度にも注意しておきましょう。
飴の意味を持つ合図
今回のテーマは「飴と鞭の使い分け」。ここまで鞭の話しかしていませんが、馬にとっての飴にあたる合図にはどのようなものがあるのでしょうか?
おそらく、多くの方が「馬が指示通りに動けたときには首や肩を手で優しく叩いてあげましょう」と教わったはず。馬は頭の良い動物なので「この合図は人間が褒めるときにする動作だな」と分かっているようです。
しかし、犬が頭をなでて欲しがるような感じで「首をポンポンして欲しがって馬が集まってくる」という光景はなかなか見ませんね。
おそらく馬にとって合図自体がご褒美なのではなく、人間が「今ので合ってるよ」と伝えることが飴の意味を持つのではないでしょうか。そう考えると、扶助のとおりに動けた後で手綱を譲るなど「出していた扶助を一度緩める」こともご褒美になり得ると考えられます。
まとめ
馬にとって、飴と鞭がどのようなものなのか少しイメージが湧いてきたでしょうか?障害馬術と馬場馬術では、鞭の使い方に多少の違いがあります。もしレッスン中に鞭を入れるタイミング・使い方に悩んだら、乗馬クラブのスタッフや先輩ライダーにも相談してみましょう!