【乗馬とテクノロジーの融合】スマート馬具がもたらす未来

乗馬は古くから伝わる伝統的なスポーツであり、人と馬との深い絆がその魅力です。しかし近年、この伝統的な世界にもテクノロジーの波が押し寄せ、乗馬体験を大きく変えようとしています。
馬の健康管理から騎手のパフォーマンス向上まで、あらゆる面でデジタル技術が活用され始めているのです。
今回は、進化を続ける馬具やデジタルツールが、乗馬の世界にどのような未来をもたらすのかをまとめました。
進化する馬具

乗馬は、馬と人との繊細なコミュニケーションによって成り立つスポーツです。その中で馬具は、両者の信頼関係を支える重要な役割を果たしてきました。
かつては革や金属を中心に作られていた馬具も、近年では軽量で耐久性の高い素材が用いられ、快適性と安全性を両立する方向へと進化しています。
特にサドルやヘルメットには、衝撃吸収性や通気性に優れた設計が施され、騎手の身体への負担を軽減しながら、馬の背中への圧力も分散する工夫がなされています。
こうした素材や構造の進化に加え、馬具は今や「スマート化」という新たな段階に突入しています。
センサーを内蔵した鞍下パッドや馬着は、心拍数・呼吸数・体温などのバイタルサインをリアルタイムで取得し、馬のストレスや疲労度を数値化します。これにより、体調不良の兆候を早期に察知し、トレーニング負荷の調整や健康管理に役立てることが可能です。
さらに、3Dスキャン技術を活用した馬具のオーダーメイドも進化しています。馬の体型を精密にデジタル化することで、個々に最適なフィッティングが実現し、馬への負担を軽減でき、より快適で安全な騎乗環境が整います。
驚きの最新テクノロジー
乗馬の世界に導入されているテクノロジーは、馬具だけにとどまりません。AIやロボティクス技術は、乗馬体験そのものを変える可能性を秘めています。
その象徴的な例が、川崎重工業が開発した水素燃料で動く四足歩行ロボット「コルレオ」です。人が騎乗可能なこのロボットは、四足歩行する動物の自然な動きを再現しており、ライダーが乗馬のように重心を移動させて操縦し、山野などの悪路を走破できる高い走破性と安定性を備えています。
「コルレオ」は、2025年の大阪・関西万博において初公開されました。生きた馬との交流に加え、技術との融合による新たな乗馬体験が現実味を帯びてきました。
また、スマート馬具の中には、鞍に内蔵された圧力センサーを搭載したものもあり、騎乗中の荷重の偏りを可視化します。これにより、騎手は自らの姿勢やバランスを調整し、馬にとって最も快適な騎乗スタイルを追求できます。
特殊なハミ(口に装着する器具)も進化しており、馬の舌の動きを制御しながら、優しい刺激で指示を伝える設計が施されています。これにより、馬への負担を軽減し、よりスムーズな操作が可能となります。
乗馬体験を豊かにするデジタルツール

乗馬のトレーニングや日常管理を支えるデジタルツールも急速に進化しています。スマートフォンアプリはその代表例で、馬の歩様(常歩、速歩、駈歩)の割合やスピード、ターンのバランスなどを自動で記録・分析する機能を備えています。これにより、騎手は客観的なデータに基づいてトレーニング内容を見直し、効率的な技術向上が可能になります。
乗馬日記機能を活用すれば、日々の騎乗記録や馬の体調、レッスンのフィードバックなどを簡単に管理できます。競技会に参加する騎手にとっては、国際馬術連盟(FEI)の公式アプリがルールや服装規定の確認に役立ちます。
さらに、AIカメラによる自動撮影・追跡機能は、騎乗フォームの分析をサポートし、コーチ不在でも自己改善が可能となっています。GPS機能を使ったルート記録や、動画解析によるフォーム改善提案なども普及しており、初心者でも安心して乗馬を楽しめる環境が整いつつあります。
まとめ

乗馬の世界は今、伝統と革新が共存する新たな時代に突入しています。スマート馬具は馬の健康と快適性を守り、AIやロボティクスは乗馬の可能性を広げ、デジタルツールは騎手の成長を支援します。これらの技術は、乗馬体験をより安全で楽しく、効率的なものへと進化させています。
乗馬用品市場も拡大傾向にあり、スマート馬具や高機能製品への需要が成長の原動力となっています。テクノロジーは伝統を脅かすものではなく、それを補完し、乗馬の未来をより豊かにする力強いパートナーです。
人と馬の絆を深めるために技術を活用することは、乗馬文化に新たな可能性をもたらす重要な一歩であり、次世代へとつながる価値ある挑戦と言えるでしょう。