【馬をしっかりコントロール!】騎座での推進
乗馬のレッスンを見学していると、馬の動きを邪魔せずスムーズについていくことができる乗り手や、その逆で、馬が動き難そうになるほど邪魔をしている乗り手がいるのを目にすることがあります。
違いは何かと言えば、騎座(きざ)でのコントロールができているか否かの差です。
馬上で馬の動きを邪魔せずに推進することは難しいですが、練習を重ねていくことで騎座での推進はできるようになります。
今回は、騎座での推進をマスターするための手順や方法についてまとめました。
騎座とは
騎座とは「馬に乗った時に鞍との接点になる部分」のことで、言い換えると「鞍のまたがり方」です。 英語ではシート(seat)と呼ばれています。
JRAの教本によると、
「騎座とは騎手が馬にまたがったときの腰部(骨盤)・大腿・膝までのことを言い、馬に扶助を与える際の中枢をなす部分である」と書かれています。
馬への扶助といえば「脚」が一番に挙がるかと思いますが、実際には騎座によるコントロールが馬の推進には重要なのです。
前方推進と後方推進
ところで、騎座でおこなう推進は「お尻を使って、馬の背中に圧をかける技術」です。
この圧が、前方向なら馬は前に進み、後ろ方向ならば後ろに進みます。
足の間に丸太を抱えているようなイメージといえばおわかりいただけるでしょうか?
丸太を、手を使わずに足と腰で前に送り出すイメージが騎座の推進です。
この技術は、馬場馬術においては歩度を伸ばす際や収縮運動の際に必要ですし、障害馬術であれば、馬の体を起こしつつ前進するエネルギーを溜める際に使われます。
騎座での推進を行うためには、いくつか前提条件があります。
この前提条件が整わないのに推進しようとすると、馬の動きを邪魔することになってしまいます。そのため騎座による推進は、騎乗に余裕を持つことのできる方がおこなう技術とも言えます。
騎座での推進を行うための前提条件は、以下の3点となります。
騎座をしっかり作ることができる
まず騎座での推進をおこなうためには、下半身全体で騎座を作る必要があります。
というのも、先ほどの丸太を送るイメージで前に送る時には足を挟んでいましたが、お尻を後ろに戻す時は、足を開いていたと思います。
足を開かず、後ろに戻す時にも挟んでいると、丸太は後ろに流れてしまうからです。
騎座での推進でも、お尻がついている時とついていない時、馬体を挟む時と挟まない時が存在します。
お尻だけでバランスを取っていると、乗り手はお尻を離すことができません。お尻が離れたら、加速についていけず姿勢が崩れてしまうからです。
お尻を浮かせてる時は、太もも部分を馬体に添えて、体が飛んでいかないようにする必要があります。
ここで重要なのが、「騎座」と「体重の分散」です。
騎座が下半身全体でしっかり作ることができれば、お尻以外の場所に体重を乗せることが出来るのです。
随伴で馬の邪魔をしない
皆さんは正反動や駈歩で随伴の練習をしていると思いますが、騎座での推進を行う前提として随伴がしっかりとできている必要があります。
例えばブランコに乗っている時に、ブランコの揺れと自分のからだの揺れが同じだから、さらに漕いだ時に動きが大きくなるわけです。もしも全く違う動きをしていたら、ブランコの動きはおかしくなってしまいます。
馬の邪魔をしないために、手綱を楽にしても馬の動きについていける状態を維持できるようにしましょう。
肩と拳の位置を保持できる
馬場馬術の競技の際に、乗り手の上半身がのけぞるように後ろに傾いて見えることはありませんか?
そしてその時、乗り手の肩が動いていないことにはお気づきでしょうか。
この時、乗り手は肩を軸にして腰を振り子のように動かしているのです。
このような肩の軸を作るためには、一定の手綱の張りを維持し、拳の位置を保たなければなりません。
つまり、腕の形を固定することで手綱の長さを変えず、そして腕と繋がっている肩の位置も変えずに
手綱と馬のハミで支えを作り、肩の位置をズレないようにしているのです。
誤解のないよう付け加えておきますが、この時「手綱を引っ張って腰を前に出している」訳ではありません。あくまで手綱は、それ以上自分の肩が後ろに倒れない為に持ってるだけで、腰の動きは下半身だけで行うので、手綱の長さが変わることはありません。
拳と肩の位置はさほど変わっていないにもかかわらず斜めに見えるということは、腰が前にスライドしているということです。
手順とポイント
それでは、具体的に騎座での推進はどのように行うのでしょうか?
具体的な手順は3つです。
太ももで鞍を挟む
まずは太ももで鞍を挟みます。出来れば内もも全体を使いましょう。
この時股関節の付け根で挟んでしまうと、挟んでる場所とお尻とが近すぎて、前にスライド出来なくなります。
もしも全体が付けられない場合は、膝近くをで挟んで下さい。
お尻を引き締める
次に、内ももを挟んだ状態でお尻を引き締めるよう筋肉に力を入れましょう。
そうすると、足が締まると同時に腰が前方に送り出されます。この動きが、馬を前に推進させるパワーになります。
なお、このスライドの動きを大きくすればするほど、馬を押し出す効果も大きくなります。
脱力し、お尻に体重を戻す
そのまま足を挟んでいると、お尻を後ろに戻した際に馬を後ろに送り出してしまいます。
そうならないために、一瞬脱力して馬の体を挟まない状態でお尻を後ろに戻しましょう。
この後は体重をお尻に乗せて繰り返します。
ところで、騎座での推進の手順をお読みになり、
「この動き、別の推進の際にもやっている…」と、気づかれた方はいらっしゃいませんか?
実は騎座での推進の動きは、駈歩の随伴とほぼ同様なのです。
駈歩の随伴の場合、馬体の前半分が着地で沈むので、肩を前に出す動作が入りますが、それ以外の内股を挟む動作や腰を送り出す動作は、騎座での推進も駈歩も同じなのです。
言い換えるならば、駈歩の随伴の時よりも馬体を挟んでもっと前に送り出すのが、騎座での推進です。
騎座で押し込む駈歩は、馬の前進気勢がとても強くなってしまうので、騎座での推進の練習をするのであれば、正反動の練習で腰を送り出す感覚をつかんでみて下さい。
よくある悩み
前述しましたが、騎座での推進は、上級者向けの技術となります。そのため、お尻で推進しているのに、馬が思うように進んでいかないとお悩みの方が多くいらっしゃいます。
また、馬と同じリズムで推進しているつもりなのに、馬の歩様と推進が合っていないとお悩みの方も非常に多いです。
それらの原因は、騎座での推進と一緒に脚も動いていることが挙げられます。
騎座での推進は、脚の位置は変えずにお尻で推進します。骨盤の角度を意識して動かしてみて下さい。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回は、騎座での推進についてまとめてみました。
簡単なようで、実はとても高度な技術なのだと改めて気づかされますが、
騎座の推進も練習あるのみ!です。
まずは下半身で騎座を作ることを意識して練習して下さいね。