馬の筋肉
馬が優れたスピードや跳躍力を発揮するために重要なのが「筋肉」。みなさん、この筋肉に種類があるってご存知でしたか?もちろん馬だけでなく、私たち人間にも大きく分けると「速筋」と「遅筋」という2種類の筋肉があります。今回の記事では、これらの筋肉がそれぞれどのような筋肉なのか、どのような部位にどちらの筋肉が付いているかなどについて解説します。
速筋
まず最初に、馬の速さの秘密ともいえる「速筋(そっきん)」について、どのような働きをしていて、どのような特徴があるのか見ていきましょう。
速筋とはどのような働きをする筋肉?
速筋は、文字どおり瞬発的で強い力を発揮する筋肉です。短時間で大きなエネルギーを生み出せるため、馬が短距離での競争や障害飛越のような短期的な運動をする際に役立ちます。人間の場合は、ボールを投げたり重いものを持ち上げたりする瞬間に使われるのが速筋ですね。
こうした運動は無酸素運動とも呼ばれ、主に酸素ではなくATP(アデノシン三リン酸)が消費されて速筋を収縮させるエネルギーとなります。
速筋の特徴は?
速筋の一番の特徴は、収縮速度の速さです。瞬間的に強く収縮する筋肉だからこそ、一瞬の力強い動きを発揮できるというわけですね。ただし、一気にエネルギーを使ってしまうため、遅筋に比べて疲労しやすいのが短所となります。
なお上記は機能的な特徴ですが、速筋の外見的な特徴としては「白っぽい色」であることが挙げられます。これは筋肉内で酸素の貯蔵を担うミオグロビンという物質が少ないため。
「筋肉の色なんて、直接見ることもないしピンと来ないよ…」という方は、ぜひ白身魚を思い出してみてください。白身魚は速筋が多いため身が白く、捕食や逃走の際に一瞬で短距離を移動する場面が多いといわれています。
速筋は馬の身体のどのあたりに付いているの?
速筋は主に、馬の後肢・前肢の筋肉に多く見られます。なかでも、大腿部や臀部(おしり)に速筋が集中しているといわれています。これらの部位は加速やジャンプを支える重要な役割を果たしています。
遅筋
速筋とは逆の性質を持つ筋肉として「遅筋(ちきん)」が挙げられます。こちらについても、どのような筋肉なのか見てみましょう。
遅筋とはどのような働きをする筋肉?
遅筋は長時間にわたり収縮を続けたり繰り返したりできる筋肉です。長時間の運動でも疲れにくいため、持久力が求められる運動をする際に役立ちます。こうした性質から、エンデュランスや馬場馬術などの競技中には特に遅筋が使われていると考えられます。
人間の場合はウォーキングやジョギング・水泳などの際に遅筋を使用する割合が高く、こうした運動を有酸素運動といいます。無酸素運動で主に使用する速筋が酸素をほとんど消費しないのに対して、有酸素運動で使用する遅筋は酸素を利用してエネルギーを生成しています。
遅筋の特徴は?
遅筋は、速筋とは逆に収縮速度は遅いものの、一定の収縮力を長時間維持することが可能です。また、エネルギーを効率的に供給できるため、長時間にわたる運動でも疲労しにくいといわれています。
なお色にも違いがあり、白っぽい速筋に対して速筋は赤みがかった色をしています。これは血液中の酸素を効率よく取り込むため、多量のミオグロビンを含んでいるから。先ほども魚の例を出しましたが、遅筋の多い魚といえば赤身魚です。マグロをはじめとする赤身魚は遠洋を絶えず泳ぎ続ける「回遊魚」が多いことからも、遅筋と持久力の関係が深いことが分かりますね。
遅筋は馬の身体のどのあたりに付いているの?
遅筋は主に、馬の体幹部(背中や腹部)のほか肩周辺に多く分布しています。体幹部は馬のおしりや肩に比べると筋肉質な印象がないかもしれませんが、実は遅筋が絶えず全身の運動を支えているというわけです。
速筋と遅筋の割合
速筋と遅筋それぞれの特徴が分かってきましたが、馬の身体のなかで速筋と遅筋はどれくらいの割合なのでしょうか?
馬の速筋と遅筋の割合は?
馬は品種によって体形や得意とする運動が異なり、速筋と遅筋の割合も異なります。一般的には、競走馬のようにスピードが求められる馬では速筋の割合が高く、持久力を必要とする作業馬(農耕馬や馬車馬)では遅筋の割合が高い傾向があります。例として、競走馬では速筋が約70%、遅筋が約30%程が平均値です。
ちなみに、馬の筋肉率(体重に占める筋肉の割合)は約50%!人間の筋肉率が25~30%と考えると、すごい筋肉量ですね。人間で筋肉率50%になると、見た目としてはボディビルダーレベルだそうですよ。
動物の種類によって速筋と遅筋の割合は違うの?
動物の種類や用途に応じて速筋と遅筋の割合は異なります。例えば、チョコチョコと動きが素早い小動物や、チーターのような瞬発力に優れた動物は速筋の割合が非常に高いとされています。一方で、冬眠する習性のある動物や大型動物では遅筋の割合が高いそうです。
馬は上記のように品種や生活状況により遅筋と側近の割合が異なるため、「馬」という種すべてを平均すると速筋と遅筋の割合は全体の中間くらいに位置するのかもしれません。
ちなみに、スポーツ選手など特殊なトレーニングを積んでいる人間の場合、その競技内容により速筋:遅筋が3:7程度の人もいれば7:3と全く逆の割合にもなりうるのだとか。こう見ると、筋肉の割合は生まれ持ったものだけでなく生活環境で大きく変わる可能性があるんですね。
まとめ
馬の身体のなかでは速筋と遅筋という2種類の筋肉がバランスよく配置され、運動能力を支えています。こうした筋肉の位置や割合を知ることが、馬の特性を理解したり適切なトレーニングにもつながりそうですね。乗馬を習っている皆さんも、ときには指示の出し方や接し方だけでなく、馬の身体の仕組みに目を向けると新しい発見があるかもしれませんよ。