馬たちの部屋「馬房」について
通常乗馬クラブでは、会員が騎乗後に馬の手入れをして馬房に戻すところまでおこないます。
早く馬房に戻りたくて、洗い場で前掻きをする馬もしばしば見受けられます。馬にとって馬房とはどのようなところなのでしょうか。
今回は、馬たちの部屋である「馬房」についてまとめました。
馬房ってどんなところ?
馬たちが日々過ごしている建物を厩舎といいます。
厩舎の中には、複数の馬が1頭ずつ生活をする部屋があり、その部屋のことを馬房といいます。
厩舎は、いわば馬の住む集合住宅なのです。
競走馬や乗馬は、1日の大半を馬房で過ごします。飼い葉を食べる時は馬房の中で食べ、寝るのも馬房の中です。馬は1日のほとんどの時間を馬房で過ごします。
一般的な馬房の大きさはおよそ2.5m~4m四方で、高さが2~3m、それぞれに引き戸やスライド式の扉、もしくは馬栓棒でふさぐタイプの入口がついています。
壁の材質は木製もしくは金属でできており、風通しを良くするために上半分は格子状になっていることが多いです。床はコンクリート製で、その上にオガか敷き藁が敷かれています。オガや藁の下にゴム板を敷くこともあります。
放牧時は複数頭の馬が一緒に過ごす場合もありますが、馬房ではそれぞれ専用の馬房に戻ります。
馬の健康管理はとても難しく、飼い葉や日々の運動は健康維持のため、非常に重要です。
バランスの良い食事や十分な運動が不可欠なのはもちろんのこと、馬房の環境も馬にとってはとても大切なポイントなのです。
馬房で馬が行う悪癖
馬が繰り返してしまう良くない行動を悪癖と呼びます。馬は1日のほとんどの時間を馬房で過ごすので、悪癖も馬房の中でやってしまうことが多いです。
悪癖は原因を特定することが難しく、ストレスから始めてしまうこともあれば、他の馬がやっているのを見て真似し始めたことが、いつのまにか癖になってしまったという場合もあります。
馬が馬房内でよくおこなう悪癖を以下に3つ挙げます。
さく癖
さく癖はグイッポとも呼ばれ、空気を飲み込んでしまう悪癖です。上歯を馬栓棒や壁板などに当て、それを支点にして頸に力を入れ、空気を飲み込みます。空気を飲む際に、人間のげっぷのような音を出すため、そこからグイッポと言われるようになりました。
馬は人と違い、鼻呼吸しか出来ません。そのため口から飲み込んだ空気は食べ物と同様に胃や腸へと運ばれます。さく癖を繰り返すことでお腹に空気が溜まってしまい、疝痛を引き起こす場合があるので、さく癖防止のバンドを喉に装着することもあります。
熊癖(ゆうへき)
熊癖は別名「ふなゆすり」とも呼ばれています。
馬体が左右にゆらゆらと揺れてしまう悪癖です。貧乏揺すりのようなイメージで、左右の肢に交互に重心を移し、ゆっくりとしたステップを踏みます。熊が檻の中で左右に体を動かす様子に似ていることから、この名が付きました。別名の「ふなゆすり」は、船をこぐ様子に似ていることからの俗称です。
熊癖は短時間ならあまり問題はないのですが、1日中やってしまうような場合は、足や蹄に負担がかかってしまいます。
旋回癖
旋回癖は、その名の通り、馬房の中で円を描くようにクルクルと回り続けてしまう悪癖です。ほとんどの場合、同じ方向に回り続けるので、馬体の左右のバランスが悪くなってしまいます。また、馬房の中で動き続けるので、怪我をする可能性が高くなります。旋回癖はストレスが原因で起こると言われています。
上記以外にも、蹴癖や咬癖など、不用意に馬に近付くと危険を伴うような悪癖を持っている馬もいます。乗馬クラブなどでは、危険な悪癖がある場合は馬房の入り口に掲示されている場合もあります。馬装の際に馬を出すため馬房に入る場合は、インストラクターに確認を取ってから入るようにしましょう。
馬房へ入る時の注意点
馬房は、馬にとって非常に大切な空間です。
馬たちが健康に気持ち良く過ごすことができるように、いつも綺麗な状態を保ち、馬房の中では馬のプライベートを尊重してあげます。そのために気をつけたいことを以下にまとめました。
いきなり馬房に入らない
馬に接するためにいきなり馬房の中へ入ったり、無理に触ろうとすることは禁物です。馬房は馬のテリトリーです。不用意に馬房の中へ入ってしまうと馬が驚いてしまい、身を守るためにとっさに攻撃してくる場合があります。
馬房に入る時はまず馬に声をかけ、こちらへ注意を向けてもらいます。馬は基本的に臆病な動物なので、急に入って驚かせてしまうと危険な場合もあります。
馬の様子を観察しながら上手にコミュニケーションを取ることを第一に考えます。そうすれば馬の方から歩み寄って来てくれるでしょう。
大声を出したり、急な動きをしない
馬は非常に臆病な動物なので、大声や急な動きで驚かせないように気をつけつつ、馬の死角である後ろ側には決して立たないようにしましょう。後肢で蹴られる恐れがあり、大変危険です。馬房という限られた空間の中では、逃げようと思っても逃げ場がありません。
馬房には危険もたくさん潜んでいることを忘れないで下さいね。
また、馬房の中で馬と触れ合う際は、馬の目の前にいきなり手を出したり、馬から見えない位置から触ることは止めましょう。人に慣れていない馬は、真正面から向かい合って顔を触ろうと手を出すと、驚いて手を噛んでしまうことがあります。
馬に触る時には声をかけながら首や肩付近をぽんぽんと優しく触りましょう。そうすることで馬を怖がらせることなくコミュニケーションを取ることができます。
常に馬の動きに注意する
馬もそれぞれ性格が異なります。近づいた際に逃げるようなしぐさや、怒っている様子を見せた場合は、無理に近付こうとせずにそっとしておくことも大切です。
また、馬房の中で多い事故として足を踏まれてしまうことがあります。馬は蹄の裏に蹄鉄を装着しているので、踏まれるとかなり痛いです。もし踏まれてしまった場合は、無理に足を引き抜こうと動くと大きな怪我に繋がることもあるので、焦らずに馬の肩を押して踏んでいる足を退けてもらいます。
馬に足を踏まれないためにも、馬の動きに常に気を配りましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回は、馬が過ごす馬房についてまとめました。
馬房は馬にとって大事なプライベート空間です。馬房の中で気をつけないといけないことはたくさんありますが、特に大切なのは馬房に入る際には馬を驚かせず、常に馬の動きを見ることです。また、不用意に馬房へ入って馬にストレスを与えない様に気をつけましょう。馬房内でのストレスは悪癖につながることもあります。
馬房が馬にとってリラックスできる空間であるということを忘れないで下さいね。