裂蹄を予防するためにできること
馬の第二の心臓とも言われる「蹄」。その蹄によく発症するのが「裂蹄(れってい)」です。乾燥する時期に毎年、発症する馬もいます。飼育環境や管理環境に大きく影響を受ける蹄の疾患です。今回の記事では、裂蹄が起こる原因や予防するための管理方法などについて、深掘りします。
裂蹄が起こる原因
まず、裂蹄はどういう症状の病気なのでしょうか。簡単に言ってしまうと、蹄壁(ていへき)に亀裂が入ってしまうことを裂蹄と言います。蹄壁は馬が立っているときに見えているあの固い部分です。そこに縦や横に亀裂が入ってしまうことを裂蹄と呼んでいます。しかし、縦裂蹄と横裂蹄では、原因が違うため、対処方法も変わってきます。
乾燥する冬場によくみられるのが縦裂蹄です。原因は主に乾燥だと言われています。乾燥すると蹄がもろくなるため、何等かの衝撃を受けて欠けてしまいます。人間でも、乾燥肌の人がいるように、乾燥すると蹄が欠けやすくなる馬もいるんですよ。
横裂蹄は蹄冠部分の異常が原因で発症します。蹄冠に異常が発生する要因には、さまざまなものがあります。よくあるのは蹄冠部への怪我です。
どちらの裂蹄も表層にとどまっているのであれば、跛行(はこう、歩様が乱れること)しません。予後も良好です。ただし、亀裂が広がって、深層にまで達してしまうと痛みから、跛行はもちろん、予後が不良になってしまうケースもゼロではありません。
しかし、管理をきちんとすれば、ある程度は発症を予防できることも分かっています。
飼養環境の衛生管理
縦裂蹄の予防策としては、乾燥させないというのが一番です。蹄をきれいにしたら、蹄油を塗って乾燥をしないように心がけてあげてください。また、蹄は過度な湿気にも弱く、濡れることと乾燥を繰り返すことによって、徐々にもろくなっていくとも言われています。そのため、馬房はきれいに保ち、蹄がボロや尿でずっと濡れていることがないようにしましょう。水分を含んだ馬場で運動したあとも汚れと湿気を手早くとってあげます。しかし、運動後に毎回、蹄を洗う必要はありません。乾いた馬場での騎乗の後は、裏掘りで十分なことも多いです。蹄を洗うのは必要があるときだけに留めましょう。
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適度な運動量
蹄が第二の心臓と呼ばれていることの理由に、血流の多いことが挙げられます。馬の蹄は地面に着地したときに拡張されて、蹄を上げると収縮し、血行が促されます。馬にとって運動をすることは蹄を健康に保つ上でも、大切なことなんです。
蹄の血行が良くなれば、蹄も伸びるようになります。蹄はもともと、あまり早く伸びません。蹄がすべて伸び変わるには1年かかるとも言われています。しかし、血行が悪くなると、もっと時間がかかってしまうかもしれません。蹄の代謝は治療に不可欠な要素なんです。理由は治療法にあります。
蹄の正しいケア
裂蹄が発生してしまったら、早めに装蹄師に診てもらうのがいいでしょう。表層のみにとどまっていれば、これ以上、亀裂が広がって悪化しないように処置をしてくれるでしょう。亀裂が深く、痛みが出ているようであれば、獣医師から痛み止めや抗生物質の処方をしてもらう必要があるかもしれません。状態によっては、馬房での休養が必要になるかもしれません。蹄が伸びてきて、裂蹄部分が削蹄できたら完治となります。
しかし、正しくケアをしていけば、ある程度の発症や悪化を防げる病気でもあります。丈夫な蹄にするために、工夫できることも。まず、栄養面。蹄も、人間の髪の毛や爪を形成しているケラチンが主な成分です。つまり、人間の髪や爪にいいと言われている栄養素は蹄にも◎。特にビオチンは水溶性のビタミンB群に属していて、蹄も人間の爪も健やかに保つ効果があると言われています。ビオチンの入ったサプリメントを餌に混ぜて与えると良いでしょう。クリームなど塗るタイプのものもありますが、クリームの上から泥や砂がついてしまうと逆効果だと考える獣医師もいるようです。
一方で、過剰な摂取を控えなくてはならない栄養素もあります。セレンです。セレンは命を維持していくために必要な必須ミネラルではありますが、摂取しすぎると中毒症状や裂蹄を起こすことがあります。4本の蹄が同じタイミングで裂蹄を発症する可能性もあり、こうなると治療の難易度が上がります。アメリカ食品医薬品局では成馬の摂取量が3mg/日を超えないようにとアドバイスをしているようです。与えすぎない注意が必要です。
装蹄師と相談をしながら、蹄の管理方法を定めていくのもいいでしょう。血液循環を促すような形に蹄を削蹄すれば、裂蹄の予防にもなるようです。毎年、裂蹄を発症する馬には、このような削蹄が効果的かもしれません。
まとめ
今回は裂蹄について、ご説明しました。発症初期に適切な処置をすれば、予後は良好です。もし発症した場合はすぐプロに助けを求めて、悪化しないように管理しましょう。蹄は生え変わるのに1年以上かかります。年単位で管理方法を見直し、裂蹄を発症しない蹄づくりを目指しましょう!