海を泳いで渡る野生の馬「シンコティーグポニー」
陸上で走る姿を見ることが多い馬たち、実は泳ぐのも得意なのはご存知でしょうか。
北米に住む野生のシンコティーグポニーは、海峡を泳いで渡ることで知られています。
この記事では、シンコティーグポニーの起源や毎年行われる恒例行事の「ポニースイム」についてご紹介します。
シンコティーグポニーとは
生息地
野生のポニーが生息するのは北米ワシントンD.C.から南東におよそ100km、車で3時間ほどのところにあるアサティーグ島とシンコティーグ島。
隣合う2つの島は道路で結ばれ、車などで行き来することも可能です。
シンコティーグ島はバージニア州に属しますが、アサティーグ島にはメリーランド州とバージニア州の州境があり、フェンスで分断されています。
管理
アサティーグ島のメリーランド州側に生息するポニーは、国立公園局が管理するアサティーグ島国定海岸に住んでいます。
野生動物として扱われており、個体数が増え過ぎないための避妊処置と緊急時の治療のみが行われています。
一方、バージニア州側に生息するポニーはシンコティーグ野生動物保護区内に住み、シンコティーグボランティア消防団(Chincoteague Volunteer Fire Company)が所有。
獣医師による定期検査や治療を年2回受け、オークションで購買された場合には一般の馬と一緒に飼うことができるようにしています。
呼び名
州境のフェンスによって分けられたアサティーグ島のポニー。
メリーランド州側のポニーは「アサティーグ馬」、バージニア州側のポニーは「シンコティーグポニー」と呼ばれますが、元々は同じ系統です。
シンコティーグポニーの歴史
起源
シンコティーグポニーの起源にはいくつかの説があります。
1つめの説はスペインの馬の子孫。16世紀、ペルーに向かう途中にバージニア海岸の沖でスペイン船が難破。その船に乗せられていた馬たちが陸地にたどり着き、命を繋いできたというものです。
2つめの説は、17世紀に人によって島に持ち込まれたというもの。
2022年に発表された論文では、プエルトリコで発見された500年前の馬の歯を調べたところ、この馬とシンコティーグポニーはどちらもスペインを起源とすることが示されました。スペインの馬の子孫という説の有力な根拠となりそうですね。
1800年代から現在
1835年に「ポニーぺニング」、すなわちポニーを囲いに入れて集め、本土に連れていく習慣が始まりました。
1924年、シンコティーグボランティア消防団が初めて「ポニーぺニングデー」を正式に開催。
消防設備の資金を集めるため、ポニーをオークションに掛けました。
このイベントは毎年1回、ほぼ中断されることなく行われています。
シンコティーグポニーの特徴
体格
体高は野生の状態では約137cm、飼養下で栄養状態が良い場合は約147cmまで成長。
体重は約390kgです。
毛色
様々な毛色の馬がいますが、特にオークションで人気なのは駁毛(ぶちげ)です。
特徴
19世紀後半から20世紀初頭にかけ、近親交配を解消するために外部の馬が導入されました。
また、1960年代から1980年代にかけてシンコティーグポニーの牝馬とアラブ種の牡馬の交配が定期的に行われ、その後もアラブ種の牡馬が導入されているため、多様な外観を持ちます。
一般的に丈夫で飼いやすく、粗食に耐えることができます。
また賢く、調教しやすい傾向があるとのこと。
観光客にも人気の「ポニースイム」
「ポニースイム」は毎年7月にシンコティーグボランティア消防団が開催する「ポニーぺニングデー」の中で行われます。
シンコティーグポニーをアサティーグ島からシンコティーグ島まで連れていくため、およそ5分から10分の距離を泳がせます。
泳ぎ始める前に、妊娠後期の牝馬やまだ小さい子馬を連れた牝馬は群れから外され、歩いて移動。泳いでいる途中も、特に子馬は人がフォローします。
泳いだ翌日に子馬のオークションが開催され、その次の日、まだ小さい子馬や大人の馬はアサティーグ島に戻されます。
オークションでは一部のポニーは買い戻しを条件として購入され、入札した人はお金を消防団に寄付し、ポニーはアサティーグ島に戻します。
およそ5万人もの観光客が見学するポニースイムは、夏恒例の一大イベント。
2020年と21年は新型コロナウイルス感染症のパンデミックのため、ポニースイムは第二次世界大戦後に初めて中止されました。オークションのみ、オンラインで開催されています。
2022年、オークションは現地で対面開催に戻り、10頭の買い戻しを含む63頭を販売。総売上は初めて45万ドルを超え、最高額は1頭32,000ドルだったそうです。
まとめ
泳ぎが得意、丈夫で賢いシンコティーグポニー。
こちら(YouTube、https://www.youtube.com/watch?v=2ulkBctY_JM)からポニースイムの様子を動画で見ることができますので、ぜひご覧ください。