【人間とは全然違う!】馬の食事と消化機能
乗馬をしていれば必ず見かける馬の食事風景。しかし、口やおなかの中のことは見えないので、なかなか知る機会がないかもしれませんね。今回は、そんな馬の味覚や消化について詳しく解説していきます。
馬の味覚
多くの人が「馬の好物といえばニンジン」というイメージを持っていると思います。まずは、なぜニンジンが好きなのか、馬が好む味はどのようなものなのか考えてみましょう。
甘みのあるものが好き
馬が好む食べ物を思い浮かべると、ある共通点が浮かんできます。それは甘みがある食べ物であるということ。ニンジンも野菜の中では甘みの強い部類に入りますね。
また、果物を好んで食べる馬は非常に多いです。ニンジンと同じくパキッとした歯触りのリンゴは、とっても人気ですね。中には柔らかなバナナが好きという馬もいて、味だけで無く食感の好みにも個性が感じられます。
ただし、馬の主食はあくまで草。糖を摂りすぎることは体調不良の原因にもなります。甘いオヤツは、たまにご褒美として与える程度にしましょう。
酸っぱいものは苦手?
馬の好みについて「刺激の強いものは好まない」と言われることがあります。特に酸っぱいものを避ける馬が多いことなどから、これは自然界で危険な食べ物を避けるための習性と考えられます。
そのため、甘みの強い果物であってもパイナップルや柑橘類のように酸味のある果物はあまり馬に人気がありません。一方、苦いものや匂いの強いハーブなどは意外と食べる馬もいるようです。
馬の咀嚼
ここからは、馬の消化器官について紹介していきます。まずは、馬の歯と咀嚼について詳しく見てみましょう。
歯の種類と役割
皆さんが馬のようにハミを口に入れたら、ハミが歯に当たって口が閉じられないですよね。では、なぜ馬は大丈夫なのでしょうか?馬装をするときに見ている方が多いと思いますが、馬は顎の中程に歯が生えていないエリアがあります。
このエリアを歯槽間縁(しそうかんえん)と呼び、これよりも前(鼻側)に生えている歯が門歯(切歯)。そして奥に生えている歯が臼歯です。門歯は草をちぎるために使うので毛抜きのように先端が薄く、臼歯は草をすりつぶすように細かくするための歯です。
ちなみに、雌の馬には12本の門歯と、24本の臼歯があるので歯は合計36本。ですが、雄の馬は36本の歯に加えて4本の犬歯があるため歯は全部で40本になります。
とってもよく噛む!
馬の餌は私たちの食べ物よりもとても硬いので、たくさん噛む必要がありそうですよね。餌の内容によって噛む回数は変わりますが、馬は1回の食事に40分ほどかけることが多いようです。
馬の咀嚼回数は10分で1000回ほどと言われているので、1食で4000回も咀嚼していることになりますね。現代人が平均して1食に620回ほどしか咀嚼していないことを考えると、かなり多いことがわかると思います。
また、同じ草食動物のなかでも、牛と比べると馬の食事時間は長いと言われています。これは、牛は「反芻(はんすう)」できるけれど馬はできないから。反芻とは、胃に一度入れた食物を口の中に戻して咀嚼しなおすことです。
牛はある程度咀嚼した食物を一旦胃に収めて、またあとで反芻を繰り返すことで徐々に食物を分解していきます。一方、馬は胃の容量が小さく反芻もできないため、飲み込む前にしっかりと時間をかけて咀嚼する必要があるというわけです。
消化にかかる時間
咀嚼されて飲み込まれた餌は、馬の中でどのように消化されるのでしょか?馬の消化管の特徴や、消化にかかる時間について見てみましょう。
馬の消化管について
胃では、主にタンパク質の消化を行います。胃の容量(一度に入れることのできる食物の量)は10~12リットル。草食動物としては胃が小さいほうです。
小腸では、タンパク質・脂質・炭水化物の消化と、ミネラルやビタミンの吸収を行います。小腸は約22m。容量は胃よりもかなり多く、70リットルほどあります。
大腸では水分の吸収やセルロース(食物繊維)の分解を行います。人間の大腸は大部分が結腸であり、「盲腸」といえば大腸の端っこに付属している尻尾のようなイメージですよね。しかし、馬の大腸は6~8mの結腸と1.2mほどの盲腸から成っています。
臓器ごとの所要時間
馬が飲み込んだ食物が排泄されるまでの所要時間は約30時間。食物は、人間と同じく胃→小腸→大腸という順で進んでいきます。食べ物が胃に滞在する時間は意外と短く、約2時間。その後、小腸に送られた食物は4時間ほどかけて大腸に到着します。
人間も胃での消化には2~3時間、小腸での消化に5~8時間を要すると言われているので、ここまではあまり大きな差はありませんね。食べた物の内容にもよりますが、人間のほうが少し時間がかかっているようです。
最後に大腸の通過にかかる時間は、人間は15~20時間ほどなのに対して、馬は24時間と言われています。馬は大腸でセルロース(食物繊維)の消化も行っているので、そのぶん人間よりも大腸での消化・吸収に時間がかかるようです。
ちなみに私たち人間も食物繊維を摂りますが、食物繊維を消化・吸収できるわけではありません。食物繊維は身体には吸収されず、便のまとまりをよくしたり、腸内にいる乳酸菌の餌になったりと間接的に人間の腸内環境に好影響をもたらしています。
餌やオヤツをあげるときの注意点
馬と過ごしていると、厩務の一環として餌を配ったり息抜きにオヤツをあげたりする機会があると思います。このようなとき、なにか気をつけるべきことはあるのでしょうか?
一度にたくさんあげない
消化管の仕組みでもお話ししたとおり馬の胃は容量が多くありません。また消化不良を起こしても、嘔吐ができない消化管の構造をしています。そのため、一度にたくさんの餌を与えすぎると食べきれずに残した餌が傷んだり、食べ過ぎて胃で処理しきれなかった食物が腸で不調を引き起こす可能性があります。
餌の内容を変えるときは少しずつ
食物の消化・吸収には、消化管内の細菌による発酵や分解が深くかかわっています。餌に含まれる材料や栄養素のバランスを変えるときは、消化機能が餌の内容に徐々に慣れていくように数週間かけて少しずつ切り替えていきましょう。
アレルギーや持病を把握する
馬に食べ物を与えるときは、消化機能だけでなく「アレルギーや持病を持っている馬もいる」という点にも注意する必要があります。普段と違うものを食べさせるときや嗜好品を与えたい場合は、乗馬クラブのスタッフなどに確認してからあげましょう。
まとめ
馬の食事と消化には、私たち人間とは違う部分もあります。同じ部分と違う部分を知ることで、馬にとって負担の少ない餌のあげ方を知ることができるはず。馬たちに安心して食事やオヤツを楽しんでもらうためにも、馬の好みや消化の特性を覚えておきましょう!