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障害馬術のコースデザイン、どうやって設計しているの?

走行前は「コースは覚えられたかな」「ちゃんと飛べるかな」とドキドキな障害馬術。では、そのコースは一体だれがどのように設計しているのでしょうか?今回の記事では、障害馬術の魅力やコースを設計する“コースデザイナー”について紹介します!

障害馬術の魅力とは?

障害馬術のコースデザイン、どうやって設計しているの?

ダイナミックな動き

乗馬未経験の人は特に、馬場馬術と比べると障害馬術の観戦が楽しい!という人が多いのではないでしょうか?たしかに、障害を飛び越える馬の動きはダイナミックで「どう難しいのかな?」なんて分からなくても引き込まれますよね。


馬たちは余裕で飛んでいるようにも見えますが、オリンピックなどハイレベルな大会では障害の高さが2mになることもあります。乗馬用の馬は平均体高が1.5mくらいなので、肩よりも高いバーを飛んでいることになりますね。

人馬一体の妙技

実際に乗馬をやっていても、最初は「ちょっと怖いな…」と思っていたのに1度飛べたら「爽快感で障害馬術が大好きになった!」という人は多いと思います。特に気持ちが良いのは、馬と自分の動作がぴったりと合って飛び終えた瞬間でしょうか?


馬と人間の動作や呼吸がきれいに合っていることを“人馬一体”と言いますが、障害馬術はそれを感じ取りやすい種目ですね。レベルの高い選手ほど難なく走行しているように見えますが、適切な扶助や重心移動、障害に向かう速度や角度…など、実はかなりたくさんのことを考える必要があります。

障害馬術コースデザイナーについて

障害馬術のコースデザイン、どうやって設計しているの?

では、そんな障害馬術のコースはどのように作られているのでしょうか?ここからは、そのコースを作っている“障害馬術コースデザイナー”と、コースを作る際のルールについて紹介します。

必要な資格は?

日本馬術連盟の主催・公認大会や国体などでは、日本馬術連盟が認定する障害馬術コースデザイナーがコースを作っています。障害馬術コースデザイナーのランクは2級・1級・S級の3区分。取得条件については、下記のとおりです。


2級
日本馬術連盟認定「審判員資格」取得
講習会の受講+試験に合格


1級
2級の取得
主催・公認競技会での実務経験or実務研修受講
講習会の受講+試験に合格


S級
1級の取得
主催・公認競技会での実務経験
障害馬術本部および資格委員会が認めた者

デザインの決まりは?

いろいろな勉強が必要なコースデザイナーですが、実際にコースを作るときには全てがデザイナーに委ねられているわけではありません。日本馬術連盟には「競技会規程」というものがあり、障害馬術については配置する障害の高さ・幅・個数などの上限が定められています。規定の範囲内でどのようなコースを作るかがコースデザイナーの腕の見せ所ですね。

飛越力を試す高さや幅のある仕掛け

障害馬術のコースデザイン、どうやって設計しているの?

では、実際の競技会ではどんな障害が使われているのでしょうか?ここからは、障害の種類と必要な技術を見てみましょう!

垂直障害

垂直障害は、バーを地面と水平に設置する障害です。主に高く飛ぶ技術が必要となりますが、必要以上に高くジャンプするとタイムのロスになるのが難しいところですね。


また、高く飛ぶということはそれだけ馬の背の角度やジャンプの衝撃も大きいので素早く前傾やツーポイントの姿勢をとれること、そのあとすぐに体勢を立て直せることも大切です。

幅障害

幅障害とは奥行きのある障害のことです。競技会では、垂直障害を組み合わせた“オクサー障害”や箱状の障害をよく見かけますね。グレードの高い競技になると障害の幅が180cmという場合もあるので、かなり大きなジャンプが必要ですね。


高さに加えて幅があるため、当然ながら同じ高さの垂直障害より高難度です。また、勢いを付けて向かいたいところですが、奥行きがあるので踏み切り位置は垂直障害を飛ぶときよりも近くが良いと言われています。


実際に奥行きを見てみると「こんなに幅があって危なくないの?」と心配になるかもしれませんが、国際馬術連盟の競技規定を読むとオクサー障害は一番手前のバー以外はセーフティカップ(強い力がかかると外れる掛け金)を使用することなどがしっかり決められています。

水壕障害

水壕と聞くと、クロスカントリーの池のような大きなものを思い浮かべる人も多いと思います。ですが、障害馬術でも障害の下にウォータートレイを置いた“リバプール障害”があります。


奥行きは2m以内と定められているので、幅障害と同程度かそれ以上ということになりますね。さらに「普段飛んでいる障害の下にプールがある」というだけでも非常に怖がる馬は多いものです。


そのため、リバプール対策としてたまには練習中も障害の下にビニールシートを敷いてみるなど馬を慣らしておくことが大切です。また、馬が選手に対して「この人が進めと扶助を出しているなら行っても大丈夫」と信頼感を持っているとさらに良いですね。


障害馬術ですべての障害物をクリアするには、飛ぶ技術だけでなく慣れや信頼関係も大切になってきます。

全体の流れを演出するコースデザイン

障害馬術のコースデザイン、どうやって設計しているの?

障害物の連続性

障害物の概要が分かったところで、最後に障害馬術の審査対象が“コース”の走行である意味を考えてみましょう。


単に高さや幅を競うなら、人間の走り高跳びのように単発のジャンプでも良いはずです。しかし、普段の練習で100cmの障害を単発で飛べていれば小障害Aグレード(障害物は100cm以下)も難なくクリアできるものでしょうか?


「競技経験が浅くてあまりピンと来ない…」という人は、コンビネーション障害を思い浮かべてみましょう。1個目の障害を飛び終えてから次のことを考えるのではなく、おそらく1個目の障害に入る時点で2~3個目の踏み切り位置や歩数を意識しているはずです。


実は、障害馬術のコース全体もコンビネーション障害と同じ。デザインするにも走行するにも「1つひとつの障害物をクリアしていく」というよりは、スタートからゴールまでの障害物を「一連の流れ」として考えることが必要です。

障害の間で何をするか

そう考えると、ジャンプしている間だけでなく「障害間で何をするか」の重要さが見えてきますね。例えば、1個目の障害で体勢が崩れたら立て直す必要がありますし、歩幅が大きく変わってしまったら次の障害までの歩数を意識して調整できなければ適切な位置で踏み切れません。


コースデザイナー側としても、障害の個数や高さには制限があるので「障害から次の障害への向かいかた」でコースに変化を付けています。そのため、障害自体を飛ぶことに慣れてきたら、付けられた“変化”に気付けるようになることが大切ですね。


障害馬術は、単に大きな障害物に挑戦する競技ではなく、コースデザイナーの「次の障害までの間に何をしますか?」という問いに馬と一緒に答えていくような競技と考えても良いかもしれません。

まとめ

障害馬術競技のコースは、馬術連盟の競技会規定に則って障害馬術コースデザイナーが設計しています。競技では、障害を飛ぶこと自体も重要ですがコース全体をどう走行するか意識すると良いでしょう。実際に飛ぶのは馬ですが、障害や経路、馬の状態などを総合的に見ながら適切な扶助を出すのが人間の大切な役割です。

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