【馬場馬術】演技を彩る音楽選びの舞台裏

選手を乗せた馬が、まるで音楽に合わせてステップを踏むように演技する競技・馬場馬術。馬に細かい指示を伝える騎乗技術はもちろんですが、もう一つの重要な要素が「音楽」です。今回の記事では、馬場馬術で使用される音楽に焦点を当てて、その役割や選び方を掘り下げていきます!
馬場馬術とは

乗馬のなかには、障害馬術・馬場馬術・クロスカントリーといった種目があります。最初に、今回のテーマである馬場馬術について「そもそもどんな競技?」「どんなルールがあるの?」といった部分を見てみましょう。
基本的なルールは?
障害馬術が陸上競技のハードル走に例えられるとすれば、馬場馬術はフィギュアスケートのような競技、とイメージするとわかりやすいかもしれません。
演技を行う時間に規定はありますが、ほかの競技のようにクリアまでのタイムを競うのではなく事前に決められた要素(歩様や移動経路)を満たした演技を行い、その完成度が評価される競技です。
馬場は20m×60mの長方形で、周囲にはアルファベットの標記(マーカー)が配置されており、選手はそれを経路の基準にしています。基本となるのは、乗馬をしている人にはおなじみの常歩(なみあし)・速歩(はやあし)・駈歩(かけあし)という3つの歩様。
さらに上級クラスになると、左右の肢を交差させるハーフパス、一歩ごとに力強く脚を上げるパッサージュ、その場で足踏みをするように見えるピアッフェ、後肢を中心に旋回するピルーエットなどの高度な技も披露されます。
演技の際に選手が馬へ送る合図(扶助)は、ほとんど目立たないほど控えめなもの。大きな動きはないほうがよいとされます。そのため、上級者の演技は馬が自ら音楽に合わせて踊っているように見えて「こんな複雑な動き、どうやって馬に伝えているの?」と不思議に感じるかもしれません。
どうやって採点しているの?
競技は、すべての選手が同じプログラムを行う「規定演技」と、定められた要素を含めつつ自由に構成し音楽を合わせる「自由演技」に分かれます。どちらを行うかは競技会によっても異なり、オリンピックでは予選と団体決勝が規定演技、個人決勝では自由演技が行われます。
演技は複数の審判員によって採点されます。まずは、各審査員が一つひとつの運動に対して完成度に応じた0~10点で評価。例えば「決められた要素を実施できなかった場合は0点」「基本的にできていれば6点」「良好なら8点」といった基準があります。
さらに、自由演技では使用している音楽との調和や芸術性なども評価の対象となり、各点数をすべて合計してパーセンテージに換算した結果を競います。
馬場馬術と音楽の関係

馬場馬術には規定演技と自由演技があり、自由演技では必ず音楽をかけながら運動を行う必要があります。このように、馬場馬術とは切っても切れない「音楽」。どんなことを考えながら選ぶのでしょうか?
音楽選びも大切な要素
自由演技では技術点に加えて芸術点も評価されます。その際には音楽の使い方も大切な要素。音楽が馬の動きに合っているかどうかも採点対象となります。単なるBGMではなく、音楽と馬のステップが一体となってこそ高評価につながるというわけですね。
また、音楽が持つ力は観客や審判に与える印象にも直結します。例えば、同じ動きのダンスでも音楽が変わるだけでその印象はガラッと変わりますよね。そのため、運動のテンポだけでなく演出したいイメージを固めてから選ぶことが多いでしょう。
なお、演技には時間の規定があるため、1曲をそのまま使うのではなく複数の曲をつなぎ合わせてメドレー形式に編集するのが一般的です。
音楽選びのポイント
音楽に関する規定として、公序良俗に反する歌詞や露骨に下品・差別的な表現を含む音楽は不可とされますが、ジャンルに制限はなく工夫次第で多彩な表現が可能です。
演技で特に重要なのは、馬の歩様と音楽のテンポが合っていること。馬ごと歩幅やリズムは異なるので、常歩なら約50~60BPM、速歩なら約75~85BPM、駈歩なら約95~110BPM程度を目安にしながら自分の馬に合わせて音楽を選ぶことで、演技がより自然に見えます。
さらに、人馬の個性や雰囲気を反映させることも欠かせません。力強さを持つ馬なら壮大なオーケストラや映画音楽、軽やかな馬ならポップスやジャズなど、印象に合わせた選曲をすることも評価につながるでしょう。
音楽の構成はどうやって考える?
複数の曲を組み合わせてメドレーのように流すなかで、統一感とメリハリをどのように出していくかという構成・編集も評価を左右するポイントとなります。
次々と異なる動きを正確にこなすのに合わせ、歩様ごとに曲調を変えることが多いでしょう。例えば、エクステンデッド・トロットのように大きな動きで魅せる場面では力強い旋律を、ピルーエットのように移動の少ない技では逆に音を抑え、馬の動きそのものを際立たせるといった演出もアリ。
そして何より大切なのは、複数の曲を違和感なく編集し、一つの作品としてまとめ上げること。こうした工夫の積み重ねが芸術点の向上につながります。
どんな曲が使われるの?

実際に選ばれる音楽は幅広いですが、有名な映画音楽やクラシックが多い傾向があります。こうした曲は知名度が高く候補に挙がりやすいのはもちろん、観客や審査員にも馴染みがあり、曲自体が持つイメージで演技全体の印象を強めやすい傾向があります。
また、映画やオペラの楽曲は、一つの作品の中に異なる雰囲気の曲が含まれていることが多く、同一作品のなかから曲を選べば雰囲気の統一感を持たせつつ変化をつけやすいのが特徴です。
選手は自分の馬と向き合いながら、「自分たちの演技にはどんな音楽が合うだろう?」と試行錯誤を重ねます。その過程そのものが、演技をより深めていく大切な時間なのかもしれません。
まとめ
人と馬が静かな対話を積み重ねた結果が評価される馬場馬術。障害馬術に比べ「見ていても点数が出るまで評価がわかりにくい」と感じる人も多い競技ですが、馬の歩みや個性、そして人との関係性が音楽と重なり合った三位一体の演技は圧巻の一言です。みなさんも、馬場馬術を見る機会があったらぜひ、馬の動きとともに音楽にも注目してみてくださいね。








