【品格のある正装】燕尾服について

「馬場馬術」という競技において、ライダーの装いは単なる衣服を超え、パートナーである馬と、競技そのものへの深い敬意を示す象徴です。その中でも最高峰の正装とされる「燕尾服」は、伝統に裏打ちされた品格と、アスリートとしての機能美を兼ね備えています。
今回は、馬術用燕尾服の基礎知識から、美しさを引き出す着こなし、知っておくべき厳格な規定まで、競技場で最高のパフォーマンスを披露するためのポイントを解説します。
燕尾服とは

馬術における燕尾服は、主に馬場馬術の高度なクラス(Lクラス以上や国際競技会など)で着用される伝統的な正装です。その最大の特徴は、前身頃が短くカットされ、後ろ身頃が二股に長く伸びた「燕の尾」のような独特のシルエットにあります。この形状は、騎乗した際に鞍の上で裾が美しく左右に流れ、脚の動きを妨げないように設計された機能美の結晶です。
もともと18世紀のヨーロッパで紳士の日常着や軍服として発展した燕尾服は、時を経て夜間の最礼装となり、それが馬術の世界では最高難度の演技を披露する場にふさわしい正装として定着しました。伝統的な色はブラックやネイビーが主流ですが、近年では技術の進歩により、上品なグレーや深みのあるボルドーなど、現代的なカラーバリエーションも増えています。
燕尾服を着用することは、単なるドレスコードの遵守を意味するだけではありません。それは、審判員や観客、そして共に演技を行うパートナーである馬に対する深い敬意の表明でもあります。また、燕尾服の長い裾はライダーの腰の安定感やバランスを強調し、人馬一体となった優雅なパフォーマンスをよりダイナミックに演出する効果も持っています。格式高い競技場に足を踏み入れる際、燕尾服はライダーに自信と規律を与え、精神を研ぎ澄ませる特別な衣装なのです。
着こなしやサイズ選びのポイント

燕尾服を美しく着こなすための最大のポイントは、ミリ単位での「ジャストフィット」にあります。競技中の激しい動きの中でもシルエットを崩さず、かつライダーのパフォーマンスを最大限に引き出すためには、一般的なジャケット以上の細かなチェックが必要です。
まず重要なのが肩幅です。肩が落ちていたり、逆に窮屈すぎたりすると、手綱捌きに影響が出るだけでなく、全体のシルエットがだらしなく見えてしまいます。次に袖丈です。手綱を保持する形に肘を曲げた状態で、シャツのカフス(袖口)が1センチほど覗くのが理想的です。ウエストラインの絞りも重要で、前身頃のボタンを留めた際に、胸元からウエストにかけてシワがなく、体に沿った美しいラインが出ているかを確認しましょう。
さらに、燕尾服特有の「重り」のチェックも欠かせません。裾の裏側には、風や運動で裾が跳ね上がらないようリードウェイト(重り)が仕込まれています。この重りが適切に機能し、静止時も運動時も裾が垂直に美しく垂れるかどうかが、プロフェッショナルな着こなしの鍵となります。近年ではストレッチ性に優れた高機能素材も多く登場しており、伝統的な見た目を維持しつつ、アスリートとしての機動性を確保したモデルを選ぶのが現代流のサイズ選びと言えます。
馬場馬術での服装規定

馬場馬術における服装規定は非常に厳格であり、大会のグレードや主催団体によって細かく定められています。原則として、燕尾服の着用が許可されるのはLクラス以上の競技会です。これより低いクラスでは、一般的なジャケット(じょうらん)が推奨されることが多く、クラスに見合わない装いはマナー違反とされる場合もあります。
燕尾服を着用する際は、インナーには白の立ち襟シャツにストックタイ、あるいはボウタイ(蝶ネクタイ)を合わせるのが基本です。下半身は白またはオフホワイトのキュロットを着用し、足元は黒の革製ロングブーツ(ドレッサージュブーツ)を合わせます。また、頭部については安全性の観点から近年ルールが改正され、現在はすべての競技会において安全基準を満たしたヘルメットの着用が義務化されています。
色の規定についても注意が必要です。燕尾服の色は原則として「暗色」とされていますが、近年は色の明度や彩度に数値基準を設けている場合もあります。規定を守ることは、競技という神聖な場を重んじるアスリートとしての第一歩であり、ルールの誤解による減点や失格を避けるためにも、最新の規定を必ず確認することが不可欠です。
まとめ

燕尾服は、馬場馬術における最高峰の正装であり、伝統と機能が融合した特別な衣装です。完璧なフィット感、重りの効いた美しい裾、そして厳格な規定への理解が、ライダーの品格を際立たせます。正しく着こなすことは、パートナーである馬や審判、観客への敬意を払うことと同義です。ルールに基づいた洗練された装いを選び、自信を持って競技場へ臨みましょう。








