【ぐったりするのは人だけじゃない】馬の「夏バテ」

厳しい夏は、私たち人間だけでなく、愛する馬たちにとっても過酷な季節です。
気温や湿度が上昇すると、馬も人間と同じように体調を崩し、「夏バテ」と呼ばれる状態になることがあります。
食欲不振や元気がないといったサインを見逃してしまうと、重篤な熱中症に繋がる危険性も。馬の夏バテは単なる一時的な不調ではなく、彼らの命に関わる重要な問題なのです。
今回は、馬が夏バテになるメカニズムから夏バテのサイン、そして私たちにできる具体的な対策をまとめました。
馬の体温調節の仕組み

馬は私たち人間と同じように、暑さを感じると体温を調節する機能が備わっています。主な方法として、発汗と呼吸があります。
運動したり気温が上昇したとき、馬の体は汗をかいて熱を放散します。
特に馬の汗は人間よりもタンパク質を多く含んでいるため、体表で蒸発する際に効率よく熱を奪います。
運動後に鞍を外すと、馬が泡立った白い汗をかいていることはありませんか?実は汗が白く泡立つのは、彼らの体温調節に欠かせない仕組みなのです。
馬の汗にはラセリンという特殊なタンパク質が豊富に含まれています。このラセリンは界面活性作用を持ち、まるで石鹸のように汗を体全体に広がりやすくし、さらに泡立てることで空気との接触面積を劇的に増やします。
これにより、水分が効率よく蒸発し、気化熱として体温を効果的に下げることができるのです。馬の高い運動能力を支えるこの独自の機能は、暑い夏を乗り切る彼らにとって非常に重要です。
また、パンティングと呼ばれる速い呼吸をすることでも体内の熱を排出します。
パンティングは口や鼻からの水分蒸発を促すことで、気化熱によって体内の熱を効率よく放散し、体温を下げる役割があります。これは犬などにも見られる体温調節の手段です。
しかし、これらの体温調節機能には限界があります。
特に日本のような湿度が高い環境では、汗が蒸発しにくくなるため、体から熱をうまく逃がすことができません。
また、消化活動も熱を発生させるので、食欲不振に陥ると、さらに体温調節が難しくなることもあります。
夏バテのサイン

馬が夏バテになっているかどうかを見極めるには、いくつかのサインに注意が必要です。
最も分かりやすいのは食欲不振です。普段はよく食べる馬でも、夏バテになると飼料を残したり、全く食べなくなったりすることがあります。
次に元気がない、ぐったりしているといった行動の変化も重要なサインです。運動量が減ったり、普段は活発な馬がおとなしくなったりする場合も警戒が必要です。
また、飲水量の増加や尿量の減少が見られることもあります。汗を大量にかくことで脱水状態になりやすく、水を多く飲む一方で、腎臓の働きが低下して尿の量が減ることもあります。
さらに、被毛のツヤがなくなる、目の輝きが鈍くなるといった外見の変化も、体調不良のサインとして現れることがあります。
これらのサインが見られた場合は、早めに対処することが大切です。
熱中症との違いは?

「夏バテ」と「熱中症」は混同されがちですが、厳密には異なる状態を指します。
夏バテは、暑さによる食欲不振や倦怠感など、体力が低下している状態を指すことが一般的です。体温調節機能の低下によって引き起こされる軽度な症状で、適切なケアをすれば回復が見込めます。
一方、熱中症は体温調節機能が破綻し、体温が異常に上昇することで多臓器にわたる深刻な障害を引き起こす緊急性の高い状態です。
具体的な症状としては、体温の異常な上昇(40℃以上)、多量の発汗や発汗停止、呼吸困難、心拍数の増加、意識障害、痙攣などが挙げられます。
熱中症は命に関わる危険性があるため、疑われる場合は直ちに獣医師の診察が必要です。
夏バテは熱中症の初期症状や前段階と捉えることもできるため、夏バテのサインを見逃さず早めに対策を講じることが熱中症予防に繋がります。
夏バテ防止の対策

馬の夏バテを防ぐためには、日頃からのきめ細やかなケアが欠かせません。
最も重要なのは十分な水分補給です。常に新鮮な水が飲めるように用意し、塩分を補給できる塩の塊(ソルトブロック)なども設置すると良いでしょう。
次に涼しい環境の提供です。日中の暑い時間帯は厩舎で過ごさせたり、扇風機やミストファンを利用したりして、馬が快適に過ごせるように工夫しましょう。馬房の換気を良くすることも重要です。運動は涼しい時間帯に行うようにし、炎天下での激しい運動は避けてください。
飼料についても消化しやすいものに変更したり、ビタミンやミネラルを補給できるサプリメントを与えたりすることも効果的です。
馬の様子をこまめに観察し、異変があればすぐに獣医師に相談する、といった日々の気配りが、馬の健康を守る上で最も重要な夏バテ対策となります。
まとめ
馬の体温調節の仕組みを理解し、夏バテのサインを見逃さず、熱中症との違いを認識することで適切な対策を講じることができます。
日々のきめ細やかな観察と涼しい環境の提供、適切な水分・栄養補給が馬の健康を守る鍵となります。
馬が元気に、そして快適に過ごせるよう日々の管理をおこなっていきましょう。