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馬の顔はなぜ長い?

目から鼻先までが長く、鼻筋が緩やかに前方に湾曲している様子を「馬面(うまづら)」と表現するのは、みなさんも聞いたことがあると思います。では、なぜ馬の顔は長くなったのでしょうか?今回の記事では、馬の進化や身体構造に注目しながら「馬の顔が長い理由」について考えていきます。

理由その1:歯

馬の顔はなぜ長い?

馬の顔が長い理由の1つめは「歯」です。馬は近くに生えている草や乾燥した牧草などをゴリゴリと噛んで食べますが、これができるのは歯が非常に発達しているから。一説には、この「歯の発達」により馬の顔は長くなったといわれています。

臼歯が発達して顎骨が大きくなった

私たちが普段見る馬の歯といえば、人間でいう前歯の部分ではないでしょうか。馬は前歯(門歯)と奥歯(臼歯)のあいだに歯のない部分があるので、普通に生活していると滅多に奥歯は見えません。

しかし、繊維質な草をすりつぶすように噛むために、馬の臼歯は非常に発達しています。この大きな臼歯がシッカリとおさまるように、馬の顎骨は前後に長くなったようです。

馬からは少し話が離れますが、私たちになじみが深い犬や猫のことを思い出してみましょう。犬種にもよりますが、多くの犬が猫よりも顔が長いですよね。これは、猫が鋭い歯で「引き裂く」噛み方をするのに対して、犬が「噛み砕く」ために奥歯を発達させてきたからだともいわれています。

大型草食動物は顎の筋肉がすごい!

噛むのに必要なのは、丈夫な歯だけではありません。食べ物を噛むためには、筋肉も必要です。噛むための筋肉は顎関節付近にあるので、一般的には顎関節から顎先までが短いほうが噛む力は強くなるといわれています。

そのため、同じ草食動物のなかでも身体の小さな動物たちは、顔がそこまで長くありません。しかし、先ほどお話したように馬は大きな臼歯を並べるために顎の骨を発達させました。

これができたのは、筋肉量のおかげといわれています。牛や馬などの草食動物をよく見てみると、顔が長いだけでなく意外と「エラが張った」輪郭をしています。この輪郭は、下顎骨の付け根あたりが広くなり、そこに大きな咬筋(噛むための筋肉)が付いているからです。

馬と牛の咀嚼

牛は「反芻(はんすう)」をするので、馬よりも「すごく噛んでいるな」というイメージがあると思います。反芻とは、一度飲み込んだものを口腔内に吐き戻して再び咀嚼すること。牛が食事の時間以外もモグモグと口を動かしているのは、この反芻をしているからです。

しかし、馬は反芻ができない消化管の構造をしています。そのため、馬は食事中の咀嚼だけでシッカリと食物を細かくしなければなりません。そう考えると「噛んでいる時間」は牛のほうが長いですが「一定時間で食物を細かくする力」は馬のほうが強いといえるでしょう。

理由その2:鼻

馬の顔はなぜ長い?

馬の顔が長く進化した理由の2つめは「鼻」です。記事の前半で書いたように、顔が長くなれば顎も伸びます。しかし、それと同時に長くなるのが鼻腔です。鼻腔とは、外鼻孔(鼻の穴)から内鼻孔(鼻と喉の合流地点)までの空間。哺乳類ではおおよそ鼻先から目の高さ辺りまでの高さで、奥行きは喉くらいまでのことが多いでしょう。

馬の祖先といわれているヒラコテリウム(エオヒップス)と現在の馬の頭蓋骨を比較すると、進化の過程で徐々に鼻腔が広くなっているようだとわかってきています。大きな鼻の穴も馬の特徴ですが、そこから体内に続く鼻腔の広さは、馬の運動能力を支える大切なポイント。早速、顔が長くなることと運動能力の関係を見ていきましょう。

鼻腔が広いと肺への負担が少ない

走る速度・持久力ともに優れた馬ですが、たくさん運動をすればそれだけ酸素が必要になります。馬は鼻の穴も非常に大きく、特に運動した後は息が荒いので、たくさんの空気が出入りしていることがよく分かりますよね。

「じゃあ、大切なのは鼻の穴の大きさなのでは?」と思うかもしれませんが、外気はホコリを含んだり、体温よりもかなり低い温度になっている時期もあります。そこで活躍するのが「鼻腔」

馬は主に鼻腔の粘膜で、吸い込んだ空気中のホコリやチリを吸着するようにブロックしているんです。つまり、大量の空気を吸い込んでも鼻腔が広ければ、肺に届けるまでに空気をキレイにしやすいというわけですね。さらに、空気が冷たい季節も広い鼻腔の中で温めた空気を肺に送り込むことで、呼吸器の組織が傷つくリスクも下げているそうですよ。

鼻腔が広いと嗅覚情報が得やすくなる?

上記の理由以外に、馬の鼻腔が広く進化したのは「嗅覚情報を得やすくするため」という説もあります。確かに、なじみのある動物の中で最も鼻がいいのはゾウだという論文もあるので、鼻腔の長さが嗅覚細胞の数や鼻のよさに直結するというのは納得感がある気もしますね。

また、私たちも乾燥した寒い季節よりも湿度があって暖かい季節のほうがさまざまなにおいを感じやすいと思います。そのため、嗅覚細胞の話とは別に吸い込んだ空気の湿度と温度を上げることで、同じ空気からより多くの嗅覚情報を得ようと進化したとも考えられますね。

色々な「馬面」

馬の顔はなぜ長い?

ここまで、馬が馬面になった理由について考えてきました。しかし、馬にあまり親しみがない人にとっては「顔の柄や色が同じだと全部同じ顔」に見えるかもしれません。そこで、最後に馬面にもいくつかのタイプがあることを紹介したいと思います!上の写真も見ながら読んでみてくださいね。

直頭
直頭とは、額から鼻先までがまっすぐな形の顔を指します。最も一般的な馬の顔の形で、サラブレッドやアラブ馬など身近な品種にも多いタイプです。

兎頭
兎頭は、額から鼻先までのラインがゆるやかに前方へ湾曲した形の顔を指します。丸みを帯びた鼻梁がウサギのようだというイメージからついた名前です。

半兎頭
額から鼻梁までは真っすぐなラインで、鼻梁から鼻先が兎頭のようにカーブを描く形の顔を指します。鼻の穴が小さいことが多いため、競馬の世界では好まれないようです。

羊頭
額が丸みを帯びてやや前方に突出している形の顔を指します。成長するにつれて直頭になる馬が多いですが、幼いころに羊頭だと「性格に難が少ない」として好まれます。

楔頭
直頭と区別がつきにくいですが、顔が口先に向かって急に細くなっている形の顔を指します。繊細で臆病な性格の馬に多いといわれています。

鮫頭
額はまっすぐだが、鼻先にむけて鼻梁が膨らむようにカーブしているため、鼻梁の中ほどが凹んでいるように見える形の顔を指します。鮫頭の馬には勝気な性格が多いようです。

まとめ

馬と実際に触れあったことがない人でも、イラストや写真・映像で馬を見る機会は多いのではないでしょうか?そのため、見慣れた動物に対して「なぜあんなに顔が長いのか」とあらためて疑問に感じる機会は少ないはず。しかし、あの顔の形は馬が生き残るために遂げてきた“進化の結晶”といっても過言ではありません。みなさんも、今度馬を見かけたら顔の形にも注目してみてくださいね。

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