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馬の口周りの秘密

柔らかくて、とてもかわいらしい馬の口周り。実は馬にとっても、自分たちを守るためにとても大切な部分なんです。その一方で、とてもセンシティブな面もあり、扱いには注意が必要です。今回は、上唇、舌、ヒゲの意外な役割など、馬の口周りの秘密に迫ります。

器用な上唇

馬の口周りの秘密

何かを触っているときに、よく動いているのが上唇です。馬は上唇を人間の手のように、器用に動かすことができます。グルメな馬は上唇を動かして、自分の好きなものだけを手繰り寄せて食べることや嫌いなものだけをきれいに残すことができます。なかには、飼い桶から放り投げる馬もいるようです。仲間をグルーミングするときや水を飲むときにも上唇を上手に使います。

また、かゆいところを掻いてあげると上唇を伸ばして、気持ちいいと表現します。口周りは馬の気持ちがよく現れる部分です。嗅いだことのないにおいに出会ったときは、上唇を鼻腔に押し付ける「フレーメン」と呼ばれる行動をします。フレーメンは特に異性の尿など、フェロモンを嗅ごうとするときによくみられます。

上唇や鼻先がとっても敏感な部分であることから、上唇から鼻の部分をねじって、馬を制御する「鼻ねじ」と呼ばれる道具があります。鼻ねじは馬が嫌がる治療や処置などをする場合に馬の動きをコントロールするために使うものです。鼻ねじの効果は、大きく分けて3つあります。まず、鼻がねじられていることに気を取られ、馬が治療などを受け入れてくれやすいこと。種付けのときなども、人馬ともに怪我のないように鼻ねじを使うことも。また、鼻をねじると馬が頭を動かしづらくなるので、馬が暴れづらくなります。3点目に鼻をねじるとエンドルフィンが分泌されることが挙げられます。エンドルフィンは脳内麻薬とも呼ばれ、幸福感や鎮痛作用をもたらす物質です。ただし、エンドルフィンは鼻ねじ装着からある程度の時間が経過しないと分泌されません。鼻ねじ装着後、5分程度は待ってから処置をすべきだとされています。

長く細い舌

馬の口周りの秘密

グルメな馬が多いのは、この長い舌に秘密があります。馬の舌には味覚を感じる味蕾が多く存在します。馬は塩味と甘味のあるものが好物です。馬の脳に必要なエネルギーを摂取するために、ナトリウムや炭水化物を積極的に取り込む必要があるためだと考えられています。また、毒を摂取しないために苦みにはとても敏感だと言われています。酸味も好みません。舌の中でも、舌先は特に敏感であり、上唇で避けきれなかった嫌いな食べ物も舌先に触れると瞬時に察知することができます。

そんな馬の舌はピンク色をしており、表面はなめらか。しかし、とても繊細でもあります。ハミで傷ついてしまうことも少なくありません。ハミの脱着時には舌を損傷しないように優しく扱いましょう。騎乗時も拳を柔らかく使うことを心がけましょう。競走馬は気道を広く確保する目的で、舌を縛ることがあります。しかし、この「舌縛り」が競走時にどれほどの効果を発揮するかについては、未だ判断が難しいようです。馬の舌は人間の舌と同様に筋肉の塊。舌を縛るとその筋肉を損傷させてしまうことがあるのも分かっており、舌を縛ることを禁止している国もあります。

様々な役割を持つヒゲ

馬の口周りの秘密

馬のヒゲにはセンサーの役割があります。ヒゲは神経につながっており、距離感を測ったり、温度や質感を感知したり、暗所での状況を把握したりするのに役立っていると言われています。ヒゲが口の周りや目の周りに生えているのにも理由があるようです。ヒゲの生えているところは馬にとって死角であり、目で見ることができない部分をヒゲのセンサーで補っていると言われています。また、仔馬には生まれたときから、とても立派なヒゲが生えています。このヒゲのセンサーを利用して、母馬の乳房を探しているそうです。

以前はヒゲがトリミングされている馬もたくさんいました。トリミングをしていた理由は主に2点あります。一つは見た目の問題。ヒゲのない方が馬もすっきりと見えるためです。もう一つの理由は馬具を装着する際に邪魔になってしまうためでした。しかし、国際馬術連盟が、治療や不快感を取り除く目的以外で、ヒゲのトリミングを行うことを禁止しました。これに続く形で、日本馬術連盟も22年にヒゲのトリミングを禁止しています。ヒゲをトリミングをすることによって、馬が不快感を感じたり、怪我をしてしまったりする可能性があるためです。

馬のヒゲは人間のヒゲとは、つくりがかなり異なります。馬のヒゲは「洞毛(どうもう)」、「血洞毛(けつどうもう)」や「触覚毛」と呼ばれることもある、毛状の感覚器官です。一方、人間のヒゲはセンサーの役割を持つ感覚器官ではなく、体毛の一種とされています。同じヒゲでも、つくりも役割も大きく違います。

まとめ

今回は馬たちの口周りの秘密についてご紹介しました。とても柔らかくかわいらしい口周りですが、馬たち自身を守るための機能が集約された、とても大切な部分です。そのため、とてもセンシティブな一面もあります。優しく扱ってあげましょう。

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