馬に伝わりやすい指示の出し方
人馬一体とよく言いますが、乗馬は馬とのコミュニケーションがとても大事なスポーツ。乗馬を楽しむ第一歩として意識したいのは、扶助を出して馬に指示を聞いてもらう事です。扶助とは馬に合図や指示を伝える動作、または馬の動きを補助したり促す動作。馬は賢い動物ですから乗り手が上手に合図を送る事ができればきちんと応えてくれます。乗り手の意思が伝わり切らなかったり、指示を出しても反抗されてしまったり…。そんな時は自分の指示の出し方が正しかったのかを再確認してみましょう。
最初から上手に指示を出すのは難しいと思いますので、まずは馬が不快に感じることを取り除いていき、馬にとって指示に従いやすい環境作りから始めてみるのはどうでしょうか。
タイミング
扶助を出すタイミングとして最適なのは、馬が要求を受け入れられる準備ができている時です。集中が切れている時やぼんやりしている時に突然強い指示を出せば馬は驚いてしまうでしょう。このような事態を避ける為、扶助を出す前に軽く予告をしておく方法があります。
キックする場所に事前に軽く足を当てたり、手綱を引く前に軽くハミをかけて口に意識を向けておいたりと、これから何かあるかもしれないと馬に予感させるのです。
これは仕事に置き換えてみると理解しやすいかもしれません。
今日は余裕をもって仕事を終えられると思っていたのに、終業間際いきなり仕事を頼まれたら「もっと早く言ってほしかった…。」と思う方も多くいらっしゃると思います。事前に「今日の夕方に仕事を頼みます。」とひと言あれば心構えもできますし、頼まれる仕事の準備ができた可能性もありますね。
馬にとってもそれは同じです。気持ちよく指示に従ってもらう為に馬の状態を見つつ、ちょっとした予告をしてあげるのも思いやりのひとつではないでしょうか。
強弱の使い分け
できれば少しの力で扶助を出して意思疎通を図れるのが理想。扶助を出すたび力んでいては乗り手も疲れてしまいますね。しかし馬によって扶助の強弱と反応には個体差があるので、これは見極めが難しいところです。弱すぎると反応してくれませんし、強すぎると驚いて興奮してしまう場合も。そこで扶助の強さのレベルを弱いところから徐々に上げていきながら馬の様子に気を配って、ちょうどいい強さを探っていきましょう。
強さのレベルを徐々に上げたにも関わらず反応してくれなかったとしても、指示にきちんと反応するまで扶助を出し続けることも大切です。反応が悪いからといって乗り手が扶助を出すのを諦めてしまうと、馬が「このくらいでいいんだ。」と思ってしまうことがあるそうです。とは言ってもしつこいと機嫌を損ねてしまいそうで悩ましいところですね。
指示の効果や意味の理解
【脚扶助】
扶助の中でも代表的なもので、ふくらはぎで馬の腹の部分を軽く圧迫し、前進の指示または常足や速歩、駈足といった速度を変える時に使います。
もし弱めの脚扶助で伝わらなければ「かかとを上にあげる」事で馬のお腹を刺激したり、さらには「かかとで蹴る」事で強く指示を出したりと、少しずつ力の度合いを上げてみましょう。
【拳扶助】
手綱を持った拳の位置や力加減、手綱を引くといった動作で、左右に曲がったり一時停止したり、早さの調整の指示を伝えます。
むやみに激しく手綱を動かすのはNGですよ。
【騎座扶助】
座り方や体重を移動させることで馬の速度やバランス調整をしたり、旋回を促したりすることができます。
以上の3つが主な扶助ですが、副扶助として鞭や拍車といった道具を使ったり、声や舌鼓などの音で扶助のアシストをすることもあります。
このように扶助の種類も色々あり、組み合わせることで指示がより伝わりやすくなるのです。ですが組み合わせた扶助がそれぞれ別々の指示になっていると、馬は混乱してどうしてよいのかわからなくなってしまいます。
加えて不一致な指示を受けて馬なりに考えて行動したにも関わらず間違っていると言われれば、乗り手への不信感にも繋がりかねません。
また馬を惑わせるものとして、乗り手自身がどのように乗りたいのかしっかり決めていないまま出す指示があります。例えば速歩の指示は出したもののどのくらいの速さで走るのか決めていなかったら、指示が曖昧になってしまうのは当然のこと。指示を出すからには何故このタイミングでこのような指示を出すのか、自分でもしっかりと理解しておく必要があります。
馬を困らせてしまうような指示は適切とは言えないので気をつけたいですね。
まとめ
乗り手の技術が上達したとしても、いつでも根底にあるのは馬への気遣い。その愛情とも言える心配りは伝わりやすい扶助となって、スムーズな乗馬生活を後押ししてくれるはずです。言葉を交わせない馬に意思を伝える事は難しくもありますが、コミュニケーションをとってこその乗馬。大切なパートナーである馬には配慮を怠らず、分かりやすく指示を伝えたいものですね。
