なぜ踵を下げることが重要なの？

乗馬を習ったことのある方なら、インストラクターからきっと一度は言われたことのある「踵を下げて」。乗馬を始めたばかりの方は、踵を下げるとはどういうことなのか、なぜ踵を下げる必要があるのか、疑問に思っているかもしれません。この記事では、なぜ踵を下げる必要があるのかを掘り下げていきます。是非、レッスンの参考にしてください。

騎座の安定

「踵を下げる」と言われても、不自然に踵を下げすぎると脚が前に流れてしまう原因になります。こうなると騎座が安定しません。安定しないために、膝で馬体を挟んでしまって、馬が動きづらくなってしまいます。この状態で、さらに強い合図を送ると、馬にもフラストレーションが溜まってしまいます。

「踵を下げる」と言われると鐙から踵がかなり下がっている状態をイメージしがちですが、そうすると逆に騎座が不安定になってしまいます。鐙に乗せている足の裏が地面と平行になるイメージで乗ってみましょう。階段などの段差に足の裏を半分ほど高い部分に乗せて、足の力を抜いてみましょう。踵は多少下がりますが、そこまで極端に下がることはないですよね。それと似たような感覚です。

よく「地面に立つように鐙の上に立って」と言われることもありませんか。これも、使っている言葉は違うものの、「踵を下げる」と同じような意味です。初心者の場合、親指の付け根あたりで鐙を踏むことを意識しすぎるあまりに、つま先に力が入ってしまい、結果として股関節も硬くなり踵が上がってしまいます。「踵を下げる」は「上がった踵は下げる必要がありますよ」という意味なのです。

踵が上がっているときと反対に、踵が下がって地面とほぼ平行になっていれば、脚全体が馬体に密着するため、騎座が安定します。騎座が安定することによって、乗り手のバランスがよくなれば、馬も動きやすくなります。すると、合図も伝わりやすくなり、馬も乗り手も楽になって一石二鳥です。

脚合図がしやすくなる

乗馬を始めたばかりの方は、脚がなかなか動かせず、合図をしづらいかもしれません。脚で合図がしづらいのは、力を入れるべきでないところに力が入ってしまっているからです。脚に限れば、股関節、膝、足首に余計な力が入っている方が多いです。このどこかに力が入りすぎてしまうと、体のつくりから踵が上がってしまいます。しかし、意識的に力を入れているわけではないので、力を抜いてといわれても、どうしたらいいのか分からず難しいですよね。

乗馬の難しいところは、力を入れるところと力を抜くところがバラバラなところです。力を抜いてと言われて、全身を脱力しても、馬は動きません。逆に全身に力が入っても、もちろん馬は動きません。少しずつレッスンでコツをつかんで、実践を通して少しずつ体に覚えさせていくことなので、焦らずにやっていきましょう。

では、脚が脱力している状態というのは、どういうことなのでしょうか。鞍に座って、鐙をはかずに脚をだらんとおろしてみましょう。その状態で姿勢を整えて、鞍つぼにしっかり座りましょう。このとき、股関節、膝、足首のどの部分にも余分な力が入っていません。その状態のまま、膝や股関節を上にあげたりせずに、そっと鐙をはきます。その状態をキープすることをイメージしながら、騎乗をします。その状態で合図を送ってみましょう。すごく合図を出しやすくなりませんでしたか？その状態をキープできれば、馬も乗り手もとっても楽です。

安全のため

残念ながら、乗馬をやっていると落馬を避けられないこともあります。馬は生き残るためにも物音や気配に敏感な性格になり、すぐに逃げられるように進化を遂げてきた動物だからです。ただ、落馬をしても怪我をしないように予防することができます。その一つが「踵を下げる」ことです。

落馬事故で一番危険なのは、鐙が脱げないこと。鐙が脱げないと馬に引きずられてしまい、大けがを負う可能性があります。では、落馬したときに鐙がすぐ脱げるようにするにはどうしたらいいのでしょうか。その答えは踵が上がっていないこと。踵を下げていれば、ほとんどの場合、鐙が自然に脱げます。踵が下がっていて、落馬するときにもしっかり手綱を持っていれば、大けがをする可能性は低くなります。逆に踵が上がっていると、鐙が脱げにくくなってしまうのです。落馬事故は突然やってきます。人馬の安全のために、普段から踵を下げることを意識して騎乗しましょう。

まとめ

今回は踵を下げるとどんなメリットがあるか、どうして踵を下げる必要があるのかについて、掘り下げました。筆者は落馬時にすぐ鐙が外れずに大怪我をしてしまったことがあります。そのときの騎乗馬のショックを受けた顔を思い出すと、とても申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。本当に小さなことではありますが、踵がきちんと下げられるようになると騎乗時の安定感や安心感には、かなりの違いがあります。この記事が、乗馬を始めたばかりの方にとって、人馬ともに楽しく、楽に安全に騎乗するために、踵を下げることを意識して騎乗するきっかけになりますように。