干支の「午（うま）」で表す時刻

みなさんは、自分の干支（えと）をご存じでしょうか？日本では、自分の生まれ年に当てはまる動物を干支と呼ぶことが多いですよね。しかし、干支には年だけでなく、時刻や方角を示す役割もあります。今回は、干支の中でも「午（うま）」にスポットを当て、その由来をご紹介します。

干支の由来

冒頭にお話ししたように、私たちは12種類の動物を「干支」と呼ぶことがありますが、実は、これは「十二支」です。では、干支とは何かといえば十干と十二支を組み合わせた60種類の数詞（数や順番を表す語）をいいます。

十干とは？

「十干（じっかん）」は、古代中国で生まれた天文学的な概念で、次の10種類から成り立っています。

1. 甲（コウ・きのえ）
2. 乙（オツ・きのと）
3. 丙（ヘイ・ひのえ）
4. 丁（テイ・ひのと）
5. 戊（ボ・つちのえ）
6. 己（キ・つちのと）
7. 庚（コウ・かのえ）
8. 辛（シン・かのと）
9. 壬（ジン・みずのえ）
10. 癸（キ・みずのと）

これらは、もともと自然界の循環や陰陽五行（木・火・土・金・水の5つの元素）と深く関係しており、物事の順序を示す役割も担っていたようです。

現在でも、契約書や資格の種別などで1つめのもとを「甲」、2つめのものを「乙」と呼んだりしますね。どちらが優れているか決めかねることを「甲乙つけがたい」と表現するのも、ここからきているのでしょう。また、昔は成績表が数字やアルファベットでなく甲・乙・丙・丁の4段階で付けられていたようです。

上の図にもあるように、「き」は木、「ひ」は火……というように、十干の最初の文字には五行（木・火・土・金・水）の属性が割り当てられています。

一方、すべて最後に「え」か「と」が付きますが、「え」は兄、「と」は弟と書きます。兄という字には「陽」、弟には「陰」の属性が割り当てられており、この10種類の文字は農作業の計画や政治、占いの際にも活用されました。

十二支とは？

一方、「十二支（じゅうにし）」は私たちが「干支」と呼ぶこともある下記の12種類で構成されています。

1. 子（シ・ね）
2. 丑（チュウ・うし）
3. 寅（イン・とら）
4. 卯（ボウ・う）
5. 辰（シン・たつ）
6. 巳（シ・み）
7. 午（ゴ・うま）
8. 未（ビ・ひつじ）
9. 申（シン・さる）
10. 酉（ユウ・とり）
11. 戌（ジュツ・いぬ）
12. 亥（ガイ・い）

十二支は元々、中国で天体の運行を示すために考案された記号だったといいます。そのため、もともとは動物を表すものではありません。しかし、庶民にもわかりやすくするために、それぞれの漢字に身近な動物を関連付けたといわれています。そのなかで「午」には「馬」が割り当てられたというわけですね。

組み合わせて「干支」に

癸申（みずのと-さる）や丁寅（ひのと-とら）のように、上記の十干と十二支を組み合わせると、全部で60組の組み合わせができます。これを並べたものが干支です。

生まれ年の干支も本来は十干と十二支の組み合わせで表されましたが、近年は生活のなかで干支を気にする機会が減ったこともあり、覚えやすい動物の部分（十二支）を指して干支と呼ばれるようになったと考えられます。

なお、干支が表すのは人の生まれた年に限りません。歴史の授業で出てくる「戊辰戦争」は、発端となった鳥羽・伏見の戦いが1868年＝戊辰 （つちのえ-たつ）の年に始まったことからこう呼ばれました。

もっと身近なところでは、高校野球で有名な甲子園球場も、阪神甲子園球場が完成したのが1924年＝甲子（きのえ-ね）の年であり「十干の最初（甲）と十二支の最初（子）が60年ぶりに重なるめでたい年」ということで甲子園球場と名付けられたそうですよ。

また、干支には十干や干支の性質が関連付けられたため、かつては生まれ年により人の性格が決まるとされたり、その年に起きる災いは干支に関係するとされた時代もありました。

そのなかで有名なのが、丙午（ひのえ-うま）かもしれません。火（ひ）・兄（え）・午（うま）はすべて「火」や「陽」の性質を割り当てられた文字であることなどから、これが重なった丙午の年には火災が多いという迷信まで生まれました。

時刻と「午」

先ほど紹介した「十二支」は、自然界の事象を表したり占いに使用されたりするだけでなく、かつては日にちや時間などにも割り当てられていました。

たとえば、昔の日本や中国で使用されていたのが、各時間帯に十二支を当てはめた「十二時辰（じゅうにじしん）」という時刻制度です。今の24時間制とは異なり1日を12分割するため、一刻が今でいう約2時間に相当します。では「午（うま）の刻」とはいつ頃の時刻を指すのでしょうか？

「午（ご）」という漢字は、本来は「止まる」という意味を持っており、太陽が南中して動きが止まったように見える真昼を指したといわれます。ということで、午の刻は現代で言う午前11時〜午後1時ごろ。

午前・午後という表現も、太陽が南中する「正午」を基準にして、正午より前を「午前」、正午より後を「午後」と呼んだことに由来します。十二時辰が使用されなくなった今も、この3つの言葉は日常生活で使われ続けているのは、なんだか不思議ですね。

方角も十二支で表されていた

実は十二支は、時刻だけでなく方角を表すためにも使われていました。これを「十二方位」と呼びます。時刻の流れから大体予想できるかもしれませんが、方角で「午」といえば南。

こちらも、時刻と同じく午が太陽の南中と関連深い文字であるためと考えられています。ちなみに、方位磁石のように十二支を円状に並べると、午の対極に来るのは「子」。方角としても、子は北のことを指します。

現代でも地球儀の経線（縦の線）を「子午線（しごせん）」と呼ぶことがありますが、これは子（北）と午（南）を結んでできる線であることに由来するようです。こちらも時刻の「午前・正午・午後」と同じく、方角に十二支が使われなくなった今も使われ続けている名称ですね。

まとめ

今回は「午（うま）」を中心に紹介しましたが、そのほかにも鬼門の異名である「丑寅（うしとら）の方角」や、幽霊が出そうな時間「丑三つ時」、ウナギを食べる「土用丑の日」なども聞いたことがあるかもしれませんね。普段は干支や十二支にあまりなじみがない私たちですが、生活の中のふとした言葉や週間にその名残を探してみると、意外な発見があるかもしれませんよ。