【馬は迷子にならない?】馬の帰巣本能

動物には帰巣本能があるといわれています。
何かのアクシデントで迷子になった犬や猫が、遠く離れた自宅まで何か月もかけて帰ってきたという話しを聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
では、もしも厩舎から遠く離れた外乗先で放馬してしまったとしたら、馬は自分の馬房に戻ってくることは可能なのでしょうか?
今回は、馬の帰巣本能についてまとめました。
帰巣本能とは

帰巣本能とは、動物が経験や学習なしに生まれつき持っている能力で、遠く離れた場所からでも自分の巣やテリトリーに戻ることができる能力のことです。
動物は、太陽の位置や地球の磁場、匂いなど、色々なものを手がかりに自分の居場所を認識していると考えられています。そのおかげで、見慣れない場所に連れて行かれても、自分の家に帰ることができるのです。
鳥が渡りをしたり、犬が迷子になっても家に帰ってきたりするのも、この帰巣本能のおかげと言われています。
馬は帰巣本能が高い?
犬や猫などと同様に、実は馬も帰巣本能が高い動物です。
では、馬はどうやって元の場所に戻って来ることができるのでしょうか。
その理由として考えられるのは、嗅覚です。
馬は他の感覚器官に比べ、嗅覚が非常に発達した動物です。犬の嗅覚は人の100万倍と言われており、馬は人の1千倍と言われています。馬の嗅覚は犬には敵いませんが、人の想像以上に優れているのです。
馬は、鼻を通して周囲の環境から様々な情報を収集しています。草の種類、水の位置、天候の変化、そして他の動物や個体の存在など、匂いを通じて得られる情報は多岐に渡ります。
特に自分のテリトリーや厩舎の匂いは、他の場所とは異なる独特の匂いとして記憶され、放馬などで一時的に見慣れない場所に移動しても、記憶に残る厩舎の匂いを手がかりに、元の場所に戻ろうとする行動に繋がります。
ほとんどの馬は人間の飼育下にあるので、何10キロも離れた先から帰巣本能を発揮して帰ってくるようなことはありません。
しかし、厩舎施設内で放馬してしまった時に、馬が自分の馬房に戻ってくることや、夜のうちに馬房の柵が外れ、外に飛び出した馬が朝には自分で馬房に戻ってくるのも、馬に帰巣本能が備わっているからなのです。
馬の帰巣本能にまつわるエピソード

馬の帰巣本能は高い、ということはご理解いただけたと思いますが、実はそれを裏付けるような逸話が複数あります。いくつかご紹介しましょう。
中国の古典『韓非子(かんぴし)』の中にある逸話
春秋時代の斉(せい)の国の宰相であった管仲(かんちゅう)が、桓公(かんこう)に付き従って孤竹(こちく)という国を攻めました。春に出発し、冬になって斉に帰る途中、雪のために道に迷ってしまいました。
そこで管仲は、「老馬の智は用うべきなり」(老いた馬の知恵を使うべきだ)と言い、老いた馬を数頭放して、その後について行くことにしました。すると、老馬たちは迷うことなく歩き続け、やがて一行は無事に道を見つけることができたのです。
モンゴル遊牧民と馬の絆
モンゴルでは古来より遊牧生活が営まれており、馬は生活に欠かせない存在でした。遊牧民は季節ごとに移動を繰り返しますが、馬たちは常に群れと行動を共にし、新しい場所でもすぐに環境に適応します。
ある遊牧民の家族は、夏の放牧地から冬の居住地へ移動する際、途中で嵐に見舞われ、馬の一群とはぐれてしまいました。家族は馬たちを諦めざるを得ませんでしたが、冬が終わり、春になって元の放牧地に戻ってみると、なんと馬たちは無事にそこで過ごしていたのです。
厳しい冬をどのように乗り越えたのかは定かではありませんが、馬たちは自分たちの「家」である放牧地をしっかりと覚えていたのです。
帰巣本能の高い動物

馬以外にも帰巣本能が高いとされる動物はたくさんいます。代表的な動物と、彼らが用いていると考えられる手段をいくつかご紹介します。
伝書鳩
伝書鳩は、古くから通信手段として利用されてきたことからもわかるように、非常に高い帰巣本能を持っています。彼らは、以下の手段を複合的に用いて帰巣すると考えられています。
①太陽コンパス: 太陽の位置を時計代わりに利用し、方向を判断します。
②地磁気: 地球の磁場を感じ取ることで、方向感覚を保ちます。
③嗅覚: 見慣れた土地の匂いを手がかりにすることもあります。
④視覚: 見慣れた地形や建物などを記憶し、目印として利用します。
渡り鳥
オオヨシキリやツバメなどの渡り鳥は、数千キロも離れた場所を季節ごとに往復します。彼らは、以下の手段を用いていると考えられています。
①太陽(星)コンパス
②地磁気: 地球の磁場を感じ取ることで、大まかな方向を把握します。
③地形記憶: 過去の渡りの経験から、特定の地形を記憶していると考えられています。
サケ
サケは、生まれた川に戻って産卵するという習性を持っています。彼らは、以下の手段を用いていると考えられています。
①嗅覚: 生まれた川の独特な匂いを記憶しており、それを手がかりに戻ってきます。
ミツバチ
ミツバチは、巣から数キロ離れた場所まで蜜を集めに行きますが、必ず巣に戻ってきます。彼らは、以下の手段を用いていると考えられています。
①太陽コンパス
②地磁気
③8の字ダンス:ダンスを通して、仲間に巣と蜜源の位置情報を伝えます。
犬
犬も、ある程度の帰巣本能を持っていると言われています。彼らは、以下の手段を用いていると考えられています。
①嗅覚: 飼い主や家の匂いを手がかりにします。
②地磁気
③視覚: 見慣れた景色を記憶している場合もあります。
猫
猫も、犬と同様に帰巣本能を持っていると考えられています。彼らは、以下の手段を用いていると考えられています。
①嗅覚
②空間認識能力: 周囲の環境を記憶し、空間的な位置関係を把握する能力が高いと言われています。
動物によって帰巣の手段が異なっているのは、非常に興味深いですね。
まとめ

いかがでしたでしょうか。
今回は、馬の帰巣本能についてまとめました。
帰巣本能は、動物たちが生き抜くために備わった素晴らしい能力の一つです。しかしそのメカニズムは複雑で、まだ解明されていない部分も多いです。
万が一放馬してしまっても、帰巣本能を持っているから大丈夫と過信することなく、日頃から馬に対して安全な環境を整えてあげたいですね。